“絶望ラジオ”なぜ人気? 韓国の若者たちは何に絶望しているのか?
THE PAGE 3月23日(水)
「借金が増え続けている。残高は7万ウォン。
携帯料金20万ウォン・水道料金10万ウォン未納。
大学生に融資してくれるところを教えてください」
このような「絶望的なニュース」だけを紹介するポットキャストが韓国の若者の間で人気を広げています。
番組の名前は『絶望ラジオ』。
ほかにも
「履歴書を買うお金がなくアルバイトの申し込みさえできない」
「お客がいないとき、バイト時間を減らすためにインターネットカフェでも行ってこいと言われた」
「配達途中で事故にあったが、店から個人事業者だとうったえられて治療費の支給を拒否された」
「1時間待たされた面接で、1時間半ほど外見のことを指摘された」
「郵便ポストに手でつかめないほど、返済の督促状が届いていた」
「アメリカで音楽を勉強したのに、教会の伴奏アルバイトしか働く道がない」
「親に自分名義の車を買ってあげたら税金未納で、軍隊の給料が差し押さえられた」など、
放送されるのは絶望、悲観的な満ちた叫びだけなのです。
『絶望ラジオ』の放送が始まったのは半年前の2015年8月22日。
番組DJの金成一さんが放送を始めようと思ったきっかけは、偶然バスのなかで聞いたラジオ番組の内容にありました。
リスナーの悩みを紹介した司会者が
「もっと頑張って見てください」
「きっと上手くいきますよ!」と”
上からの目線”で軽いアドバイスを連発していたことに金さんは反感を抱きました。
「頑張ってもギリギリの生活しかできない人に、もっと頑張れ!と激励しても問題解決にはつながりません」と金さんは言います。
「助言はいらない、激励もいらない、答えは求めない、若者の絶望を告発する」と番組のスローガンを決めたのもその理由です。
だから、「深いい話」で未来に希望があるとか、励ましの言葉を贈ることはしません。
「成功した人の前で自分の失敗談を語るのは悲惨ですが、
ここでは相身互いで慰めになるから、
家族や友達にも語れない話ができる」とリスナーの一人は『絶望ラジオ』の人気の理由を説明します。
番組は、毎週月曜日に1時間から1時間30分ほど放送され、毎回1000人ほどが耳を澄ませています。
3月現在の累積ダウンロード1万5000件ほどです。
フェイスブックやツイッターなどいまどきのSNSを利用して、若者の絶望的な経験を拾ってます。
iTunesからも全放送分をダウンロードも可能で、内容の一部分はウェブマンガ(ウェブトゥーン)として公開されています。
番組のテーマは、
「学費のための融資問題」
「芸大生の貧困な生活」
「就業問題」
など若者が直面している内容が多く、視聴者は主に20~30歳代。
貧乏な若者を相手にするため制作費は毎回13万ウォン(日本円で約1万2514円、3月22日時点)ほど。
費用の多くはネット募金で賄っていますが、足りない分は金氏のポケットマネーを充てています。
『絶望ラジオ』はネットでスタートしましたが、オフラインでの活動も広がっています。
「絶望していない人を探す」と一見皮肉に見えるイベントを通じて、現実に絶望感を感じる人がいかに多いのかを逆説的に知らせています。
また、韓国のお盆にあたる10月の「チュソク」には、帰省できなかった若者のためのテント村を開きました。
「卵で石破り」パフォーマンスを通じて「努力すればできないことはない」という社会をやゆしたりします。
『絶望ラジオ』の誕生は「成功」だけを追い求める韓国の競争社会の構造的矛盾に、若者が絶えきれなくなっていることを物語っています。
韓国統計庁のデータによると、若者の10人中1人が職に就いていません。
現実は数字よりさらに厳しいことは容易に予想できます。
若者たちは、韓国社会を「ヘル(hell地獄)朝鮮」と呼びながら、脱出(移民)を夢見ています。
IMF Working Paparより
16日に公表された国際通貨基金(IMF)の報告書によると、韓国はアジアでもっとも格差が大きく上位10%の人の所得は全体の45%を占めています。
シンガポール(42%)や日本(41%)も格差が大きいですが、韓国は1990年と比較すると2倍以上の格差が広がりました。
若者の失業率も調査が始まった1999年以降最悪の数値です。
韓国の若者は、自らを恋愛、結婚、出産を放棄せざるをない「3放世代」と自嘲しています。
少子高齢化のスピードが日本より速い韓国、若者の肩にのしかかる重荷は一層重くなるばかりです。