文科相、「日本軍の強制削除」検定意見撤回せず 教科書検定/沖縄タイムス

2011-04-29 20:04:14 | 教育
 【東京】高木義明文部科学相は26日の閣議後会見で、沖縄戦での「集団自決(強制集団死)」をめぐる大江・岩波訴訟で軍の関与を認めた判決確定を受け、教科書検定について「(検定は)教科用図書検定調査審議会(検定審)で専門的、学術的に審議されている。これからもそうだ」と述べ、高校歴史教科書検定で「集団自決」の記述から日本軍の強制を削除する根拠となった検定意見を撤回する考えがないことを表明した。

 判決確定については「私人の論争なので司法が下した判断についてコメントする立場にはない」とし、沖縄戦については「住民を巻き込み、多くの人が犠牲になった。歴史を風化させてはならず、しっかり子どもたちに教えていくことが重要だ」と語った。

 今後の教科書検定に訴訟の結果が反映されるかとの問いには「検定審で客観的、学問的な成果に照らして審議されると思う」と述べるにとどめた。

 歴史教科書での「集団自決」の表記をめぐっては、2007年の高校教科書検定で、同訴訟が係争中であることを主な理由として、検定審が軍の強制があったとする記述を削除するよう求める検定意見を出していた。

 軍の強制を盛り込んだ「沖縄ノート」を出版し、訴訟を闘った作家の大江健三郎さんは判決確定後、「もう係争中ではない」として教科書での強制記述の復活を期待。県内でも市民団体を中心に復活を要望する声が高まっている。

誤り認めたも同然 高嶋琉大名誉教授

 高木文科相の発言に、教科書問題に詳しい琉球大の高嶋伸欣名誉教授は「今さら『私人の論争』と言うなら、その裁判を根拠に強制記述を削除させた検定意見は間違っていたということを認めたも同然だ」と強調。

 検定審については「事実上、文科省の原案を踏襲するだけの機関」と指摘し、「政権交代しても官僚支配の教科書行政は変わらない。検定制度から文科省を切り離さないとダメだ、という議論になる」と断じた。
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-04-27_17113/

沖縄ノート訴訟 国民の「共通認識」を追認/西日本新聞
 太平洋戦争末期の沖縄戦で、旧日本軍の隊長らが住民に集団自決を命じたとした大江健三郎さんの著作「沖縄ノート」などの記述をめぐる名誉毀損(きそん)訴訟で、最高裁第1小法廷は原告の元守備隊長や遺族の上告を退ける決定をした。

 上告棄却の理由は、二審判決を事実誤認などとする原告の主張は「上告できる理由に当たらない」というものだ。

 最高裁としての事実認定や判断が示されたわけではない。その点は残念と言わざるを得ないが、この決定によって「軍の深い関与は否定できない」とした大阪高裁の判決が確定した。

 沖縄戦の実相を冷静に見つめ、「集団自決は軍の強制や誘導なしには起こり得なかった」とする沖縄の人々の事実認識を裏づける妥当な司法判断だろう。

 この訴訟は、沖縄戦当時に慶良間諸島に駐屯していた旧日本軍の守備隊長と別の隊長の遺族が2005年8月に大阪地裁に起こした。

 元隊長が住民に自決を命じたと記述した大江さんや歴史学者の故家永三郎さんの著作で名誉を傷つけられたとして、大江さんと出版元の岩波書店に、出版差し止めと慰謝料支払いを求めていた。

 一審判決は、集団自決を目撃した生存者の証言や「軍が駐屯していなかった島では集団自決は起きていない」などの事実を積み上げて「隊長らの関与は十分に推認できる」と判断した。

 元隊長らの直接的な命令があったかどうかは「断定できない」と事実認定を避けたが、沖縄戦の集団自決に「軍の関与」を認める初の司法判断となった。

 二審の控訴審判決も「軍の深い関与は否定できない」「自決命令の存在を信じる相当の理由がある」との判断を示し、再び原告らの訴えを退けた。

 「命令は絶対に出していない」と言う原告らには容認できない判決かもしれない。しかし、戦後66年たったいま、裁判所が現場の軍指揮官の命令があったかどうか解明するのは極めて困難だろう。

 軍の直接的な命令があったかどうかは別にして、集団自決に「軍の強制や誘導があった」ことは、多くの沖縄の人々が自らの体験をもとに証言している。

 この悲劇が「軍の関与なしには起こり得なかった」というのは、沖縄の人々にとって「紛れもない事実」である。それは、国民の沖縄戦に関する共通認識ともなってきた。この訴訟で示された司法判断は、それを追認したかたちだ。

 もちろん、歴史に多様な見方があるのは当然だろう。そのために史実を絶えず検証することは、国民に歴史認識を誤らせないために欠かせない作業である。

 しかし、生き残った人々の多くの体験証言に基づく沖縄戦の集団自決の「事実」を見直すには、それを覆すだけの十分な根拠と慎重な判断が要る。

 大江さんの「沖縄ノート」をめぐる訴訟は、歴史認識の重みと大切さをあらためて考えさせる機会ともなった。
2011/04/27付 西日本新聞朝刊=
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/239210


確定した「控訴審判決 全文」はhttp://okinawasen.web5.jp/

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4月27日付琉球新報・海鳴りの島から

 大江・岩波沖縄戦裁判の傍聴を重ねて印象に残った場面がいくつかある。中でも忘れられないのが、2007年11月9日に行われた原告・梅澤裕氏の本人尋問の一場面である。大江・岩波側代理人の近藤卓史弁護士が〈『沖縄ノート』を読んだのはいつか?〉と尋ねた。梅澤氏は〈去年読んだ〉と答えた。
 一瞬、呆気にとられたような雰囲気が法廷
内に流れた。『沖縄ノート』の記述が名誉を毀損しているとして、梅澤氏らが大江氏と岩波書店を訴えたのが2005年の8月。その時点で『沖縄ノート』を読んでいなかったことが明らかになったのだった。
 『沖縄ノート』が世に出たのは1970年9月である。出版されてから35年もたち、しかも読んだこともない本を訴える。原告・梅澤氏のこの奇妙な行動は、大江・岩波沖縄戦裁判が、ある政治的たくらみを持って起こされたものだということを表していた。
 この裁判が起こされた背景については、原告の梅澤氏・赤松秀一氏の代理人であった徳永信一弁護士が、雑誌『正論』2006年9月号で赤裸々につづっている。それによれば、〈当初、裁判には消極的だった〉梅澤氏を説得したのは、元陸軍大佐の山本明氏、のちに原告側代理人となる松本藤一弁護士であった。徳永弁護士はこう記している。
 〈やがて梅澤氏の提訴の意向が松本弁護士に伝えられ、松本弁護士とともに靖國応援団を組織して闘ってきた稲田朋美弁護士、大村昌史弁護士、そしてわたしを中心に弁護団が結成され、裁判の準備がはじまった。提訴の約一年前のことだった〉(前掲『正論』137ページ)。
 2004年から「靖國応援団」を自称する弁護士グループによって裁判の準備が進められる一方で、2005年になると藤岡信勝氏が代表を務める自由主義史観研究会が「沖縄プロジェクト」を立ち上げる。藤岡氏らは、教科書から「集団自決」の日本軍による強制という記述を削除させる運動をとりくむと宣言し、同時に大江・岩波沖縄戦裁判の原告支援活動を中心となって行っていく。
 また、雑誌『SAPIO』04年8/25・9/8合併号から漫画家・小林よしのり氏の「新ゴーマニズム宣言 沖縄論」の連載も始まっている。小林氏は前述の徳永弁護士と旧知の間柄であり、同弁護士と連携をとりつつ「ゴーマニズム宣言」ほかで原告側支援を行っていった。
 大江・岩波沖縄戦裁判はその後、2008年度から使われる高校教科書の検定に影響を及ぼした。文部科学省は原告側の主張を一方的に取り上げ、「集団自決」に軍の強制もあったという記述内容の書き直しを教科書会社に命じたのだが、日本史・沖縄戦を担当した教科書調査官が「新しい歴史教科書を作る会」と関係する伊藤隆氏(東大名誉教授)と共同研究をしていた事実が明らかとなった。
 このような一連の動きを見るとき、大江・岩波沖縄戦裁判が、「集団自決」の軍による命令・強制という史実の歪曲と、教科書の記述削除を目的として周到に準備され、大掛かりに仕掛けられたものであることが分かる。
 1990年代なかばに自由主義史観研究会や新しい歴史教科書を作る会が結成され、南京大虐殺や「従軍慰安婦」など日本軍の蛮行を示す記述を教科書から削除する運動が展開されてきた。その一定の成果にふまえ、2000年代なかばになって、日本軍による「集団自決」の強制という記述を標的に運動が展開され始めたのであった。
 大江・岩波沖縄戦裁判はその運動の足掛かりとされた。右派グループからすればノーベル賞作家を訴えることで社会の注目を集め、岩波書店や沖縄を巻き込むことで、日本軍の名誉回復のみならず、戦後民主主義や沖縄戦、基地問題も争点化できたのだ。
 03年6月に有事関連三法が成立し、04年末には新防衛計画大綱で島嶼防衛や沖縄の自衛隊強化が打ち出される。06年9月には右派グループが待望していた安倍晋三内閣が成立した。
 北朝鮮や中国の脅威を煽りながら米軍再編と自衛隊強化が進められる時代背景のもとで、大江・岩波沖縄戦裁判は、元軍人の名誉、表現・出版の自由、沖縄戦の史実の究明という問題を超える政治的性格を負わされていたのである。
 そのことを考えるなら、今回の最高裁の決定で、裁判そのものは終わったとしても、裁判と同時に焦点化した問題は終わっていないことを、私たちは認識する必要がある。教書検定意見撤回はいまだ実現されていない。沖縄戦の歴史歪曲は執拗に行われ、島嶼防衛をうたって先島地域への自衛隊配備が進められようとしている。
 東日本大震災を契機にナショナリズムが煽られるなか、現在進行形の問題として、私たちはそれらに対処しなければならない。


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