窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

D.Matsumoto博士の第2回微表情分析入門セミナー

2021年04月10日 | 表情分析


 4月10日、空気を読むを科学する研究所主催、表情分析の第一人者D.Matsumoto博士の「表情とウソの心理学オンラインセミナー」をオンラインで受講しました。Matsumoto博士による日米を結んでの講義は、昨年9月26日に続き2回目です。

 前回同様、講義は質疑応答形式で行われ、以下に要点をまとめさせていただきます。

1.微表情(micro or subtle expressions)からどのようにウソを推測するのでしょうか?

 まず微表情とは何かを定義する必要がある。一般的には0.5秒以下の短い時間に現れる感情表情で、人が隠そうとしている、または抑えようとしている感情が抑えられなくなって漏出する表情を言う。付け加えるなら、感情には思考が伴う。したがって、漏出した感情だけでなく、そこには関連する思考も存在すると考えるべきである。

 しかし、抑制感情と嘘とは別の物である。いかなる非言語的手掛かりを以ても、それだけで嘘と結論付けるべきではない。ところが、多くの人は確証バイアス(注)によってそう結論付けがちである。非言語的手掛かりの裏には複数の感情や思考が混在している可能性があり、それが嘘であるとは限らない。したがって、非言語的手掛かりを発端として、ターゲットを絞り会話を深堀していく必要がある。その方法も、状況と目的によって異なる。

注:仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のこと。

 確かに微表情の多くは嘘を隠しているが、そうでない場合もある。とはいえ、他の非言語手掛かりに比べ、微表情の方が嘘の確率が高いという研究データ。そういう意味で、微表情は強力なツールとなりうる。

2.会話相手の微表情をずっと観察し続けることは大変です。効率的に相手の微表情を見つける方法はありますか?

 観察は確かに負担のかかることであり、急にできるようになるものでもない。会話中に微表情を観察できるようになるには経験と訓練を要するので、初めから欲張らないことである。スキルアップのコツは、インタビューの仕方を工夫することである。なぜなら、微表情は相手が何かを隠そうとしているのであり、インタビューはそれを探るための方法だからである。しかし、会話中に微表情が出るかどうかは、会話が核心を突いたトピックについて触れていなければ出てこない。したがって、いかに核心を突いたトピックに迫れるかの戦術に習熟する必要がある。

3.微表情を発現しやすくする質問はありますか?

 私は”Funnel Approach”という手法を用いている。簡単に言えば、funnel(じょうご)のように、広い間口から核心を突いた質問へと会話を掘り下げていく手法である。初めは、オープンエンドに「何でもいいから教えて」と質問する。観察しながら、いくつか出てくるホットスポット(注)を見つける。ホットスポットを見つけたら、そこから深堀していく。その結果、何でもないことだったという場合もあるし、ウソだったという場合もある。

注:局地的に(何らかの活動が)活発であったりする地点のこと。

例:空港での検問→恐れの表情が見えた→何かあったの?→車のランプ消し忘れた、あるいは家のストーブ消し忘れた→恐れの表情の原因は危険なものではなかった。

上記の例からも分かるように、空港の検問で恐れの表情が見えたことを以て、嘘をついているとか、犯罪を企んでいると結論付けないことである。

 文化差を問わず、一般的に人は沈黙を恐れる。それを逆手に取り、質問者にとって、ゆっくり話したり沈黙したりすることが武器になる。そうやって観察する余裕を持たせる。大事なポイントを見つけたら、トリアージ(優先度を決定して選別すること)しないといけない。

 オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンのどちらが、微表情が出やすいかは状況によって異なる。ただし、クローズドクエスチョンの場合、自分の知りたい答えに限定されてしまう欠点がある。

4.微表情以外にどんな非言語サインがウソを推測する上で有効ですか?

 あらゆる非言語的手掛かりが有効であると言えるが、現実にはあらゆる手掛かりを同時に駆使するのは無理である。優先順位をつけるとすれば、表情、その次にジェスチャー。とくにジェスチャーではシュラッグが役立つ。シュラッグには肩のシュラッグ(shoulder shrug)、顔のシュラッグ(face shrug)、手のシュラッグ(hand shrug)の三種類がある。日本人は、シュラッグは欧米人がするものと思いがちだが、意外と普遍的しぐさである。日本人でも小さくは出る(特に博士はこのマイクロ・シュラッグを観察している)。



5.AI を用いた自動表情分析アプリの信頼性や活用法についてご意見をお聞かせ下さい。

 AIを使った表情アプリで、今のところ妥当性(信頼性ではない)を持ったものは存在しない(注)。アメリカ政府の依頼で博士が調査した3大アプリの確度は50%程度(つまり偶然レベル)であった。開発側が妥当性の尺度としているのはほぼ静止画である。しかし、現実には静止画のようなはっきりした表情が出ることはほとんどない。そこまで見抜けるアプリは今のところない。したがって、今でも人間を訓練することが必要。特に微表情の場合はそう言える。

注:妥当性とは、測定しようとしている心理的特性や行動を、どの程度的確に捉えているかを評価するための概念のこと、信頼性とは、測定の正確性、一貫性のことを言う。

6.Zoom などのオンライン越しのコミュニケーションにおいて表情の果たす役割は何だと考えますか?

 オンラインコミュニケーションであっても表情が果たす役割は同じである。ただ、対面でないことで微表情やその他の非言語手掛かりを得る機会は少なくなると言える。また、回線状況によりタイミングがずれるということもある。対面の方が慎重なコミュニケーションが図れる。

7.マスクで覆われた表情の読みとりのコツを教えて下さい。

 まず、マスクをしているから無理だと思わないこと。見えないのは口だけである。口元が隠れていても、例えばドゥシェンヌ・スマイルはAU12が動くので分かる。通常表情について訓練を積んでいるのであれば、マスクをしていても対応できる。また対面であれば、表情以外の手がかりも得られる。



ここからは、参加者との質疑応答に移りました(質問は原文ママ)。

Q1.AIによる微表情分析の妥当性は低いということだが、微表情じゃなく、ある程度の持続時間を持った表情の分析も妥当性が低いのでしょうか?

 開発者は、マクロ表情であれば妥当性は高いという。しかし、どういう分析をしたのかによって結果は異なる。例えば、自然な動画で測ったのか、典型的な前面の顔で測ったのか?リアルな表情だったか、様々な人種だったか、様々な角度だったか、こうした複数の側面で検証したのか?このレベルになると微表情について、妥当性はほぼないというのが現状である。

Q2.嘘をつくときに出やすいマイクロエックスプレッションのベスト3はなんでしょうか?7つのうちで。

 ない。なぜなら、その人の隠そうとしている内容、考えは様々だからである。同じような感情に対しても別の表情が出る可能性がある。

Q3.作られた表情は非対称とおっしゃっていましたが、作られた表情すべて非対称となるのでしょうか?

 意識して作っているのであれば、ほぼ非対称である。しかし、同じことを長年繰り返していれば対称に近づく可能性がある。

Q4.微表情の発見にインタビューの方法を学ぶ必要があるとおしゃっていましたがどのように学べばよいですか?

 日本では分からないが、アメリカには販売の交渉戦略や警察の尋問戦略などを学べるコースがある。非言語は全てに応用できるが、どこに応用できるかについては、インタビュースキルを身につける必要がある。

Q5.日本人とアメリカ人とのmicroexpressionsの違いはありますか?

 ない。

Q6.日本人は表情を読む力高いからマスク着用率が高いとききましたが、微表情を読み取る能力に世界に差はありますか?

 日本人が表情を読む力が高いことを示すデータはない。むしろ普通の表情を読み取る確度は、日本人は低いとさえ言える。その他の非言語を含むと文化差は認められていない。

Q7.環境によって微表情の出やすさは変わるのでしょうか?自分(被質問者の自宅)、屋外、取調室(密室)など。

 個人差による。コンテクストだけで変わるとは言えない。しいて言えば、ハイステークス(リスクの高い)のコンテクストとローステークスのコンテクストとでは差が出やすい。

Q8.臨床心理士として仕事をしています。自閉スペクトラム(Autism)の方の、苦痛をキャッチしづらくて困っています。自覚されていない、あるいは表情と心理の解離があるなど、発達特性のあるかたの微表情の出方は異なりますか? 

 表情を出すタイミングは変わらない。自閉症の人でも感情システムは同じである。ただ、何が感情を引き起こすかのトリガーが違うのである。健常者とは異なる要因で感情が引き起こされる可能性がある。

Q9.サイコパス(反社会性病質者)の表情と普通の方の表情とで何か違いはありますか?

 Q8.と同じである。サイコパスは感情がないのではない、トリガーが違うのである。

最後にMatsumoto先生より、

「土曜の朝にもかかわらず10名のFACSコーダーを含む、15名もの参加者のまじめな姿勢に驚嘆しました。おかげで、拙い日本語ながらも普段の講演より深い話ができた。これからも勉強を頑張ってください」

とのメッセージをいただきました。



 最後に、D.Matsumoto博士のMiXトレーニングの紹介と、空気を読むを科学する研究所の「表情心理分析コース(嘘検知編)」の紹介がありました。MiXトレーニングについては、過去にいくつかブログでもご紹介していますので、そちらをご覧ください。

【過去のMiXトレーニングの記事】
MiXトレーニングを体験しました
マスクの上から表情を読むには
危険行動検知トレーニングを受講しました
横顔から微表情を読むには

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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