窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

D.Matsumoto博士の微表情分析入門セミナーを受講しました

2020年09月26日 | 表情分析


 9月26日、空気を読むを科学する研究所主催、表情分析の第一人者であるD.Matsumoto博士の微表情分析イントロダクションセミナーをオンラインで受講しました。これもZOOMの恩恵、日米を結んでMatsumoto博士の講演を拝聴できる貴重な機会でした。

 講演は質疑応答形式で行われました。以下にその要点をまとめさせていただきます。

Q.表情を観察することは、声や身体など他のボディーランゲージに比べ、どんな点で優れているか?

 非言語の分野は、それぞれのチャネルがバラバラに研究されている。しかしながら、本来非言語によるコミュニケーションは包括的なものである(Matsumoto博士はこれをトータル・コミュニケーション・パッケージ:TCPと呼んでいる)。それでも近年は複数のチャネルを研究する動きが増えており、特に嘘をついている場合の各チャネルの貢献度は、

・顔:70%
・声・ジェスチャー:それぞれ10%
・その他:10%

という研究結果が出ている。このように、非言語コミュニケーションにおける表情の貢献度は非常に高い。但し、表情が全てでないということを認識しておく必要がある。

Q.万国共通の表情にはどんな種類があるか?

 人種、性別、年齢、文化を超え普遍的とされる表情は7つある(悲しみ、幸福、怒り、軽蔑、嫌悪、恐怖、驚き)。これ以外に、準普遍的とされる表情に、羞恥、恥、罪悪感、畏れ、誇りなどがある。7つの普遍的表情が顔のみであるのに対し、準普遍的表情には顔以外の要素が加わる。これは進化論的な考え方から説明できる。即ち、人間はコミュニケーションを取るにあたり、近くで読み取れる感情表現と遠くからでも読み取れる感情表現が必要だったはずであり、普遍的表情は前者に、準普遍的表情は後者にあたると考えられる。

 7つの普遍的表情は、7つの感情しか表現できないという意味ではない。例えば“angry(怒り)”にも”furious(激怒)”、 “annoyed(イライラした)”、“indignant(憤慨する)”など、シノニム(同義語)が数多くある。7つの基本感情はこれらの感情の範囲を代表的に表しているのである。

Q.万国共通の表情を支持する研究と指示しない研究があるが、こうした研究結果の違いはなぜ生じるのか?

 基本感情表情の普遍性を主張したエクマン理論は、感情心理学の世界で概ね70%支持されている。数多くの批判もあるが、その批判の内容を精査する必要がある。普遍的表情の研究には、

① 自然に顔に出せる状況であるか(作られた表情でないか)
② きちんと計測されているか

この二点が重要である。これらが満たされていなければ、確かに文化差が生じる。例えば、(Mastumoto博士が)基本感情表情の普遍性を確かめた2004年アテネオリンピック・パラリンピックの柔道競技における研究では、上記の条件を満たすためにメダリストの最終戦(決勝戦と三位決定戦)の勝負がついた瞬間に絞って計測を行った。それ以外の状況では文化差などの要因が入り込む余地があるためである(※)。

 したがって、方法論や条件を無視し、結果だけを見て批判するのは妥当ではない。上記のアテネオリンピック・パラリンピックの研究にも多くの批判があるが、今のところ同一の方法論で結果を比較したものは見当たらない。

※個人的な話をしますと、僕も空手をやっていた経験から、当初Matsumoto博士の論文を読んだ際、本当にそうなのだろうかという疑問がありました。そこで、2016年に空手の世界大会の映像を元に分析を行ったことがあります(そこでは、世界チャンピオンに輝いた日本人選手がいわゆる「ドゥシェンヌ・スマイル」を見せたのは、測定開始からおよそ18分後のことでした)。しかし、その分析に使用したのは表彰式の映像でした。つまり、Mastumoto博士の研究とは異なり、初めから文化差の入り込む余地がある条件で分析し、起こるべくして文化差の存在を見出していたのです。今回お話を伺って腑に落ちました。



Q.日本人の表情について、アメリカ人と比べ特徴的な点はあるか?

 どの国でも共通する点と異なる点があり、それはコンテクストによる。例えば会議の場では確かに日米間に違いが生じるが、その後のレセプションでは同じメンバーで共通の表情が生じたりするのである。脳には表情に関する共通のシステムがあるが、(文化の影響を受け)使い方が異なるだけなのである。何に対して感情的になるかも個人によって異なる。どの国にも「我々はこうである」というステレオタイプがある。例えば日本人は「日本人はアメリカ人に比べゼスチャーが少ない」というステレオタイプを多くの人が持っているが、(Matsumoto博士が)日本人を対象に3分間のプレゼンテーションで計測したところ、何と200回ものゼスチャーを行っていたのである。もちろん、表現が大きい小さいの違いはあるが、「日本人はジェスチャーが少ない」ということではない。リアリティとイデオロギーを混同しないことである。

Q.微表情 (micro expressions)と微細表情(subtle expressions)の違いは?

 微表情は0.5秒以下という速さの違い。一方、微細表情は顔面筋の動き、強度(FACSではAまたはB)、部分的か否かといった違いである。したがって、微細表情は0.5秒から4秒ほどの幅がある(抑制されていない表情である)。かつて、微表情は0.2秒以下と言われていた。しかし、昔のフィルムによる計測では厳密に0.2秒以下であったかというと疑わしい。「抑制された感情の漏出」という微表情の定義から分類するならば、現在では0.5秒以下であると考えられる。

Q.微表情の観察はどんな場面で活かされているか?

 表に出ていない相手の思考や感情をより良く汲み取り、理解するために有効である。その使い方は、場面や役割によって異なる。その適用範囲は広いが、Mastumoto博士の会社Humintellでは、マッチングアプリ、刑事事件弁護士、ポーカーなどの依頼は受けないようにしているという(※)。

※博士もおっしゃっていたことですが、表情分析の世界は足を踏み入れるほど、その奥の深さに圧倒されることになります。表情分析表面的に習得しただけで万能視するのは、あたかもプールで泳げるというだけで、大海原の水平線の向こう側まで泳いでいけると過信するようなものだと思います。

Q.微表情からどのようにウソを推測するのか?

 微表情はあくまで抑制感情の漏出であって、「ウソ」の表出ではない。そういう考え方はむしろしない方が良い。見えたことをどう解釈するかが重要で、しかも本当のことはあくまで本人しか分からないということを心得るべきである。例えば、空港で状況と合致しない「恐怖」の微表情を見せた不審人物がいたとする。彼は単に駐車場に止めた車のランプを消し忘れたかもしれないことが不安だったのかもしれない。恐怖の微表情を見せたからと言って、武器を持っているかもしれないと短絡的に判断すべきではない。

 ただ、人は関心を持ってくれる人に本音を吐露しやすいという性質がある。(前の質問と重なるが)相手を理解し、より良いコミュニケーションのために微表情の観察は有効である。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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