幼稚園の頃、担任の先生が好きだった。
外見が美しくて、綺麗で優しいお姉さんという印象を持っていた。
ある日僕は、昼食の時間に、冤罪でこの先生から叱られて、
それがものすごいショックだった。
無根拠に信じている人に裏切られる事がショックだったのか、
その人に抱いていた幻想が破壊されてショックだったのか、
それはさすがにあまりよくわからない。
11歳の頃から、気にかかるクラスメートが居て、
やっぱりその子も外見が美しい子だった。
もっとも、輪郭から感じる印象なんてのは、ひどく主観的なもので
人を美しいとか醜いとか感じる事自体が、
すでにある種の幻想の始まりだったんだと今は思うのだけれど。
たぶん、今も輪郭から投影される自分の現実感に、
陶酔したまんまなんだと思う。
11歳か12歳かのよくわからない頃、
クラスで文化祭の実行委員を決めなければいけない時があって、
誰もが仕事を引き受ける事を嫌がっていて、
同じように僕も嫌がっていた。
自分で立候補する人がいなかった事もあって、
次は推薦できる人はいないかということになった。
その時、僕の好きだった子は、何故か僕を指名した。
僕はびっくりして振り返ってその子の表情を見た。
そのときその子の瞳から感じた独特の目の光りを、
僕は今でも忘れる事ができない。
僕は生け贄にされたんだと感じた。
裏切られたと感じた。
僕の思ってることなど、何も通じていないのだと感じた。
当時の僕は、人前で何かをしゃべる時には激しく緊張して、
いつも恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
視線を感じるたびに、独特の羞恥心を感じていた。
今はもう、ほとんどそんなものを感じる事は無いのだけれど。
僕がその子に自分の気持ちを伝えた事は一度もなかった。
たぶん、これから先も無いんだと思う。
学校の同窓会の時、遠くの県から電車を乗り継いで参加した僕と違って、
知っているクラスメートは一人も参加しなかった。
みんなたぶん、日常が忙しくて、小学校時代の想いを語り合うほど暇じゃないんだろう。
あるいは、どうしても外せない大事な用があって、
これなかった人も居るかもしれないけど。
小学生の小さな悲壮感の固まりだった僕は
自分の想いが通じなくて、そしてそれを破壊した女の子を怨んだ。
カッとなった衝動で現実感は遠く薄らいだ。
4人部屋にベッドを無理矢理5つ置いた小児科の病室で、
僕は一人現実と空想の間を行き来していた。
今でもたぶん、ずっと行き来している。
どうしてあのとき飛び降りなかったのかと、後悔しない日は無い。
ベランダのついている病室だった。
その扉を、開いたのか開いていないのかすら、今では記憶があやしい。
たぶん僕は、開かずに踏みとどまったのだと思う。
だけど景色は憶えている。
開いていないはずの、ベランダから飛び降りる景色を何故か僕は見ている。
鬱蒼と茂る緑の草むらがあった。
手入れのしていない樹があった。
昔このビルで、患者の飛び降り自殺があった。
僕はどっちに居るだろう。
飛び降りた側だろうか、飛び降りるのを目撃した側だろうか、
それとも、今もまだベランダの上にいて、
片足を外へ出しているのだろうか。
幽霊を見たことがある。
でも僕は、それを幽霊とは呼ばないようにしている。
夜声八丁と呼んでいる。
それをここへ書くことは恐ろしい。
大事な守護霊を、みんなの前で晒し者にして、
僕が盾を失う事が怖い。
だから詳しい事は書かない。
失恋で飛び降りるつもりの病室で、僕を守ったものはなんだろう。
同じ病気を抱えた姉貴の死だったのか、
生きる事を欲している肉体の生命力か。
それとも、神を殺そうとして高くなりすぎた、僕のプライドか。
知能指数が高すぎて、みんなから尊敬のまなざしを受けていた。
あれは畏敬のまなざしだったのか。
それとも、もともとそんなものは、僕の印象深い記憶だけでしかなかったのか。
誰もが僕を見ていたけれど、
僕は誰のことも見ていなかった。
死んだ姉貴の事でさえ、僕にはどうでもよかった。
ただ僕は、神から与えられた祝福のような奇跡を、
僕の魂の凍り付いた奇跡を、
生まれる前から知っている何かを、
君たちに見せるために存在していた。
今でもまだ、僕は自分の無力さを呪っている。
神を殺してしまいたいと、常に思っている。
親を殺すと宣言して、叱られた時には安心を分けてもらった気がした。
だけど神は僕を叱らない。
僕を叱る事のできる他者はほとんど誰も居ない。
あまりにも僕は、人を小馬鹿にしすぎている。
こんな世界、いつ無くなってもいいやと思いすぎている。
今でも自分に問いかける。
僕は飛び降りる方なのか、それとも、目撃する方なのか。
死んだ爺ちゃんを尊敬しているのか、
それとも、僕には全てが土人形でしか無いのか。
触れている奇跡が欲しくて、いつでも誰かに呼びかける。
君の声が聴きたくて、いまでも君に縋ってしまう。
すべてを自分のせいにして、乗り越えるほどの強さが僕には無い。
僕は今でも、誇り高く童貞のままでいる。
汚される事がおそろしくて、
壊すことばかりを望んでいる。
今でも僕に問いかける。
僕を殺したいのか、神を殺したいのか?
答えはNO
僕は「宇宙が自殺したい。」
ありえないほど悲しくて
過ぎ去るだけが現実なら、
もう僕の、見たことのある現実は何も要らない。
違った世界が欲しくて、いつでも僕は外だけに憧れる。
君と自分に名前をつけたくて、いつも未来から過去をみている。
遠くだけを、いつもじっと、遠くだけをみている。
外見が美しくて、綺麗で優しいお姉さんという印象を持っていた。
ある日僕は、昼食の時間に、冤罪でこの先生から叱られて、
それがものすごいショックだった。
無根拠に信じている人に裏切られる事がショックだったのか、
その人に抱いていた幻想が破壊されてショックだったのか、
それはさすがにあまりよくわからない。
11歳の頃から、気にかかるクラスメートが居て、
やっぱりその子も外見が美しい子だった。
もっとも、輪郭から感じる印象なんてのは、ひどく主観的なもので
人を美しいとか醜いとか感じる事自体が、
すでにある種の幻想の始まりだったんだと今は思うのだけれど。
たぶん、今も輪郭から投影される自分の現実感に、
陶酔したまんまなんだと思う。
11歳か12歳かのよくわからない頃、
クラスで文化祭の実行委員を決めなければいけない時があって、
誰もが仕事を引き受ける事を嫌がっていて、
同じように僕も嫌がっていた。
自分で立候補する人がいなかった事もあって、
次は推薦できる人はいないかということになった。
その時、僕の好きだった子は、何故か僕を指名した。
僕はびっくりして振り返ってその子の表情を見た。
そのときその子の瞳から感じた独特の目の光りを、
僕は今でも忘れる事ができない。
僕は生け贄にされたんだと感じた。
裏切られたと感じた。
僕の思ってることなど、何も通じていないのだと感じた。
当時の僕は、人前で何かをしゃべる時には激しく緊張して、
いつも恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
視線を感じるたびに、独特の羞恥心を感じていた。
今はもう、ほとんどそんなものを感じる事は無いのだけれど。
僕がその子に自分の気持ちを伝えた事は一度もなかった。
たぶん、これから先も無いんだと思う。
学校の同窓会の時、遠くの県から電車を乗り継いで参加した僕と違って、
知っているクラスメートは一人も参加しなかった。
みんなたぶん、日常が忙しくて、小学校時代の想いを語り合うほど暇じゃないんだろう。
あるいは、どうしても外せない大事な用があって、
これなかった人も居るかもしれないけど。
小学生の小さな悲壮感の固まりだった僕は
自分の想いが通じなくて、そしてそれを破壊した女の子を怨んだ。
カッとなった衝動で現実感は遠く薄らいだ。
4人部屋にベッドを無理矢理5つ置いた小児科の病室で、
僕は一人現実と空想の間を行き来していた。
今でもたぶん、ずっと行き来している。
どうしてあのとき飛び降りなかったのかと、後悔しない日は無い。
ベランダのついている病室だった。
その扉を、開いたのか開いていないのかすら、今では記憶があやしい。
たぶん僕は、開かずに踏みとどまったのだと思う。
だけど景色は憶えている。
開いていないはずの、ベランダから飛び降りる景色を何故か僕は見ている。
鬱蒼と茂る緑の草むらがあった。
手入れのしていない樹があった。
昔このビルで、患者の飛び降り自殺があった。
僕はどっちに居るだろう。
飛び降りた側だろうか、飛び降りるのを目撃した側だろうか、
それとも、今もまだベランダの上にいて、
片足を外へ出しているのだろうか。
幽霊を見たことがある。
でも僕は、それを幽霊とは呼ばないようにしている。
夜声八丁と呼んでいる。
それをここへ書くことは恐ろしい。
大事な守護霊を、みんなの前で晒し者にして、
僕が盾を失う事が怖い。
だから詳しい事は書かない。
失恋で飛び降りるつもりの病室で、僕を守ったものはなんだろう。
同じ病気を抱えた姉貴の死だったのか、
生きる事を欲している肉体の生命力か。
それとも、神を殺そうとして高くなりすぎた、僕のプライドか。
知能指数が高すぎて、みんなから尊敬のまなざしを受けていた。
あれは畏敬のまなざしだったのか。
それとも、もともとそんなものは、僕の印象深い記憶だけでしかなかったのか。
誰もが僕を見ていたけれど、
僕は誰のことも見ていなかった。
死んだ姉貴の事でさえ、僕にはどうでもよかった。
ただ僕は、神から与えられた祝福のような奇跡を、
僕の魂の凍り付いた奇跡を、
生まれる前から知っている何かを、
君たちに見せるために存在していた。
今でもまだ、僕は自分の無力さを呪っている。
神を殺してしまいたいと、常に思っている。
親を殺すと宣言して、叱られた時には安心を分けてもらった気がした。
だけど神は僕を叱らない。
僕を叱る事のできる他者はほとんど誰も居ない。
あまりにも僕は、人を小馬鹿にしすぎている。
こんな世界、いつ無くなってもいいやと思いすぎている。
今でも自分に問いかける。
僕は飛び降りる方なのか、それとも、目撃する方なのか。
死んだ爺ちゃんを尊敬しているのか、
それとも、僕には全てが土人形でしか無いのか。
触れている奇跡が欲しくて、いつでも誰かに呼びかける。
君の声が聴きたくて、いまでも君に縋ってしまう。
すべてを自分のせいにして、乗り越えるほどの強さが僕には無い。
僕は今でも、誇り高く童貞のままでいる。
汚される事がおそろしくて、
壊すことばかりを望んでいる。
今でも僕に問いかける。
僕を殺したいのか、神を殺したいのか?
答えはNO
僕は「宇宙が自殺したい。」
ありえないほど悲しくて
過ぎ去るだけが現実なら、
もう僕の、見たことのある現実は何も要らない。
違った世界が欲しくて、いつでも僕は外だけに憧れる。
君と自分に名前をつけたくて、いつも未来から過去をみている。
遠くだけを、いつもじっと、遠くだけをみている。