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嘘の吐き方(うそのつきかた)

人はみんな嘘をついていると思います。僕もそうです。このページが嘘を吐き突き続ける人達のヒントになれば幸いです。

何度でも、何回も、何枚も

2004年12月08日 00時25分46秒 | 物語
僕は多分、君の事バカにしてたと思う。
向き合ってなかったのかな。
時にはそれが君の事を傷つけただろうということも知ってる。
それは自分なりに、気付いてたつもり。

だけどさ、しょうがないじゃないか
だって君はあまりにも感情的で
僕は冷静沈着で人の事なんかどうでもよくって
地球が何回回るかなんか数えたって
それが一体なんなのか、誰も知らないだろうし。
だけどさ、そんな僕でも君の事が気がかりだったんだよ。

少しだけ、君の為に時間を使おうと思ったんだ
そこにどれくらい邪な気持ちが隠れているのかなんて
僕にはどうだって良かったんだ。

大人になれるのかと思った。
君を好きになれば
僕も大人になれるのかと、わずかに期待したんだよ。
それがほんのちょっとの期待でも良かった。
僕にはコインを賭けるマス目が見つからなかったから。

親の総取りって解るかな?
ルーレットで0とか00の緑色のマス目に入ると、
それ以外の場所に賭けたやつは全部取られるんだ。
全部、取られるんだよ。
僕は納得いかなかった。
緑って自然の象徴でもあるだろ?
それが親の総取り?

僕が悪かったのかな?
賭けられなかったんだよ、親にはね。
家族というちっこい組織が血を繋ぐ為に生きてるなんて、
思いたくなかった。

だから君に賭けたんだ。

僕は、負けたんだよ。
君は36倍どころか、2倍にもならなかった。
僕は、コインを手放して
きっとこの先、吸血鬼になるんだと思う。

吸血鬼って意味、わかるかな?
現実を見なさい、って子供に叱るんだ。
あなたは大人にならなきゃいけない、って子供にすり込むんだ
何度でも言うんだ。

君は知ってるかな?
あの台詞を言う時の親が一番小さく見えるって事。

僕は背中が見たかったんだと思う。
カッコイイ背中が見たかったんだと思う
例え火の中に飛び込む消防士が誰も助けられなくて
ただの犬死にだったとしても
それは、あまり笑い話にはならないような気がするんだ。

だからさ、僕は吸血鬼になって影を生きるよりも
消防士になって火に焼かれた方がいいんじゃないかと思った。

僕、消防士にはならない。
なれないと思う。

手紙を書いたんだ。
君にあてて。
何度も書いては、何度も破いた。

破いた手紙を燃やしながら
ションベンをかける僕は
なんだか消防士みたいだなって思いながら
おかしくて手を叩いて笑った。

手を叩いて、笑ったんだ。

おかしいのは消防士でも手紙でもルーレットでもない。
今だからそう思えるよ。

おかしいのは僕なんだ。
それくらいは、君だってわかるだろ?

さぁ君よ
僕を笑う君よ
この手紙を燃やしてくれ

何枚でも書くから
何枚でも燃やしてくれ

思いは灰になって土になって
やがて僕の元に還るだろう

僕を燃やしてくれ
僕を忘れてくれ

僕だけを、忘れてくれ。

               2004年 12月8日

はみ出し者の為に鳴る、マンチェスターロマンス

2004年11月25日 14時08分07秒 | 物語
いつからだろう、テレパシーを信じるようになったのは。
いつからだろう、大衆を斜めに見るようになったのは。
そして誰かに毒を吐く為、首切りマンチェスター学園に入学した。

ケルベロスフレットナーを飼う為に
僕はサルベレット公園を征圧する
まずは毒入りチューインガムのデビューだ。
よく噛んで食えよ。
噛めば噛むほど、君らの脳は2倍速に近づく。
そして周り中が馬鹿に見える事だろう、さぁ吐け、毒を吐け。

チューインガムに含まれるフラッシュバックトキシンは
記憶を少しずつ歪ませる。
記憶が揺らげば歴史は歪む。
価値観も歪む。
アイデンティティも崩れていく。

目を開けばそこは夢の世界だ
目を閉じればそこは君だけの闇の世界だ
どちらにせよ、世界は絶望だ。
煉獄はやめよう、どっちかにすべきだ。
俺は地獄がいいと思う。
天国なんかより、圧倒的なリアリティ。

人は良いニュースを信じない
悪いニュースを信じる、そして好む。
ネベリックハットウィルスは
文化を喰って生きる。
そしてミームが伝わる。

さぁ伝えてくれ僕の子供達
煉獄を破壊し、地獄を作る為のユーロビートマンチェスターを♪

さぁ教えてくれ僕の畜人達
ケルベロスよりも下で生きる、ノイズミュージックを♪

さぁ今日から始まるよ
首切りマンチェスター学園の
ドリームピエロの伝説が。

夢を与えよう、僕らの未来に
夢だけを見よう、マンチェスター学園で
そして踊ろう新しい世界の、新しい地平で♪

コーラの名前すらわからない

2004年11月18日 16時38分41秒 | 物語
日常の色んな事が
過去の辛い出来事を忘れさせてくれる──

忘れる?
忘れるものか。

俺は忘れない。
俺はアイツが俺にした仕打ちを絶対に忘れない
いつかきっと仕返ししてやる──

俺は昔いじめられていた。
よく殴られたり蹴られたりした。
頭からコーラをかけられた事もあったな。
具体的な事はどうだっていい。
忘れられないのは俺を虐めている時のアイツの目だ。
あの目つきがずっと焼き付いていて
俺を焦がしていく。
いつだって俺を焦がしていく。
いつかきっと復讐してやる──


十年ぶりの同窓会の日、アイツは来なかった。
風の噂では高校で女と遣って、膣中に出して
出来ちゃった結婚、
今はもう毎日必死で働いてるとか。

それを聞いた俺はアイツを許す事は出来なくても
なんだかすごく寂しかった。
アイツを哀れに思っている自分と
子供のために必死で働くアイツがなんだか目に浮かぶようで
もうアイツに復讐する事が
自分にとってほとんど意味を成さない事に気付いてしまった。

そして俺の身体の中にはポッカリと得体の知れない空洞ができ
それは俺の中にあった未来が一つ失われた事を意味していた。

決意はあった。色んな物を捨てる覚悟もあった。
俺は復讐を自分の胸に刻んだ。
だけどほんの小さな噂話が
もうこんなにも俺の中に浸透し
奇妙な確信と共に何かを奪っていった。

俺が失った物はなんだったろうか。
俺が失ったのは過去だろうか未来だろうか

きっと違う。
俺が失ったのは俺の意味と意欲だ。

なんのために、なんのために──

アイツは何かを手に入れたろうか
俺は何かを手に入れるだろうか

思い出さなければならない、小さかった頃の自分の名前を。
思い出さなければならない、小さかった頃のアイツの表情を。
「許さない、許さない」
小さな声だけが胸の中でこだましていた。
それは空洞を反射している響きだった。

もう声は届かない──
俺は道端の石ころを向こう側へ蹴ってくるりと向きを変えた。

向かい風が吹いていた。
寒さに身震いしながら夜の街を帰路につこうとして気付いた。

俺の家はどこにあるのだろうか。

普及し過ぎた手段

2004年11月10日 07時09分20秒 | 物語
SPEP社から最新モデルEZ-7200が発売され、世界の注目を浴びた。
分子レベルの構造解析、音響反射による的確な断面表示、ギガピクセルカメラ搭載、
人工知能付きボイス入力、常温熱発電、ソーラー発電機能を有し
連続稼働3万日のメーカー補償付き。

その頃、巷では外国人による銀行強盗が世間を騒がせていたが
ある日、どう見ても日本人としか思えない男が警察の尋問を受けていた。

「どうしてこんなものを作ったんだ。」
「よく出来てるでしょ?自分でも結構自信あるんです。」
中肉中背、眼鏡をかけて白衣を着たその中年男性は得意気な表情をしている。

「確かにな、パッと見ではかなりの精度だし、通報が無ければ我々も気付かなかったかもしれん。」
「そうでしょそうでしょ。」
「だが、これはレッキとした犯罪行為なんだぞ。わかっているのか?」
「それはもし使用したら、じゃないんですか?」

「違う!作るだけでも犯罪なんだよ!」
警官は机を叩いてどなった。

「すいませんね、法律には詳しくないんですよ。はは…」
「笑い事じゃないだろう」
警官は少し疲れた顔で男を諌めるようにそう言った。

「で、何故こんなものを作ったんだ。動機だけはしっかり聞いておかねばな。」
「僕ね、手段の為には目的を選ばない性格なんですよ。」

警官はジロリと見て相手に尋ねた。
「どういう意味だ?」
「せっかくEZ-8200作ったんだからお札をコピーしてみようと思っただけです。」

「貴様はお金をコピーするためにコピー機を開発していたのかっ!?
違うだろう?お前も科学者の端くれならもっと他に志があったんじゃないのか?」

「いえ、僕は小説家ですよ。書くという手段のためならどんなくだらない話でもいいような気がして。」

警察官は最初からそこには居なかった。

明日見る予定の夢

2004年07月03日 05時53分27秒 | 物語
昨日、南無さんが突然僕の部屋へやってきて
「おいボウズ、欲しいモンがあるなら背伸びしろ。」
そう言って 僕の頭をクシャっとやった。

僕は驚いて南無さんの方を振り返って見上げた。

南無さんはサングラスをズリ下げて その奥でニヤッと笑った。
そしてどこかへ行ってしまった。

僕はなんだか恥ずかしくなって
壁に掛けてあった時計を裏返しにした。

そしてまた、いつものようにコンピュータに向かった。

文字たちは落ち着かなかった。

(無理に大人にならなくても許される人たちが一握り居る)
―そんな夢を見ながら僕は眠った。

ホエールウォッチング ~決意のサボテン~

2004年06月18日 03時07分06秒 | 物語
初めての鯨占いだったのに天気はいまいちだった。
俺は久しぶりに会った妹と一緒に海へ出かけた。

鯨占い―――
鯨が塩を吹く時、サボテンを海へ投げ入れる。
そのサボテンが高く舞い上がり、海へまた落ちてくる。
どれくらいの高さまでサボテンが舞い上がるのか、あるいは飲み込まれて流されるのか。
それによって自分の機運を占う、そういう変な占いだ。

船で沖へ繰り出している時、
妹が話しかけてきた。
「ねぇお兄ちゃん、どうしてこんなに遠くまでわざわざ鯨占いなんてしに来たの?」
「なんとなくだよ。いいだろ別に。お前こそなんでノコノコついてきたんだよ。」
「私は、ね・・・ちょっと訳あって。」
意味ありげに目を反らした妹を見て、俺はそれ以上の追求はすまい、と思った。

俺がここに来たわけ―――当然”なんとなく”で来たわけじゃない。
それなりに理由があって決意を込めて来たつもりだ。
今までさんざん周りからは言いたい放題言われてきた。
だけど俺にだってプライドはある。
今まで何かをやり遂げた事なんか一度も無かったが、
かと言って諦められる夢ではなかった。
今日がもし駄目だったら・・・大人しく、実家へ帰ろう。
親父の家業を継いで、つつましく暮らしていこう。
それだって立派な親孝行だ。別に負け犬なんかじゃない・・・そう自分を言い聞かせてみる。

それでもやっぱり、思いは消せない。
何かに期待してしまう。何かに縋ってしまう。
何かが、きっと俺には何かがあるんじゃないかって、そう思ってしまう。

「ねぇお兄ちゃん、どうして鯨占いはサボテンで占うのか、知ってる?」
「え?そりゃぁ・・・昔誰か偉い人がサボテンで占ったのが始まりとか、なんかそんなんじゃないのか?」
そういや考えてなかった。どうしてサボテンなのか。
改めて言われてみるとじつに奇妙だ。サボテンなんてここいらには生えてないはずだ。
「あのね、サボテンには不思議な力があるの。」
「うん?」
妹はどうやら占いの由来を知っているようだ。
俺は黙って話の続きを聞くことにした。
「植物にはね、心があるの。サボテンは植物の中でも、特に優れた感受性を持っているの。
 植物に綺麗な音楽をかけながら水をあげて、毎日『君は綺麗だ』『君は美しい』って褒めるようにするの。
 そうするとね、本当に植物は綺麗な花を咲かせるの。これは有名な話よ。
お兄ちゃんも少しくらいは聞いたことあるでしょ?」
「ああ、なんか知ってるような知らないような・・・。」
妹は続ける
「それでね、昔サボテンは今よりも遙かに心が強くて、今よりももっと神聖で、
 テレパシーで色んな生き物に語りかける事が出来たの。
 それが人と鯨の心を結びつける橋渡しをしてくれるって、そう信じられてきたの。」
「へぇ~、そりゃ凄いな。でもそんなの迷信だろ?」
「迷信なんかじゃないよ。鯨の事はよくわかんないけど、植物には本当に心があるのよ!」
「お前それ、信じてんのか?」
「お兄ちゃんは信じてないの!?だったらなんで…」
ゴドーーーン!!
その時鈍い音とともに、急に船が大きく揺れた。
鯨が体当たりしてきたのだ。
「きゃぁー!」
妹がしがみついてきた。
「大丈夫だ。」
俺は冷静にそう言ったが、内心かなり動揺していた。
こんなに間近に迫ってくるなんて・・・動物って普通は人間の乗り物を怖がって近寄ってこないのかと思ってた。
しかし、そうも言ってられない。
「準備しなくちゃ。」
俺はそう言って持ってきた荷物の中から、サボテンを取り出した。
英語では「カクタス」、中国や台湾では「仙人掌」、日本では、「サボテン」
その中でも今回は「黄金花月」というのを用意した。

俺はサボテンを持って甲板に立ち、
巨大な鯨めがけて投げ入れた。
サボテンはバシャーン!と海へ投げ込まれたかと思うと、次の瞬間!
「バシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
と物凄い轟音が鳴り響き、あたりの張り詰めた空気はビリビリと泣き叫んだ。
何が起こったのかわけがわからなくて
僕はあっけに取られていた。

サボテンは天高く舞い上がり、遙か上空で見えなくなった。

「は・・・ははは・・・ははははは、ハハハハハハハ!」
「やった、やったぞ!やった!俺の勝ちだ!俺の勝ちだーーーーーーーーーーーー!!」
俺は海に向かって叫んだ。
迷いは無く、晴れ晴れとしたいい気分だった。


帰りの船の中で
妹は何か覚悟を決めたそぶりで俺に話しかけてきた。
「お兄ちゃん、これからどうするの?」
「俺は――絵を描くよ。」
「やっぱりね。」
「やっぱりって、お前何か知ってたのか?」
「ううん、なんとなくだけど、そうだろうと思ってた。」
「俺の絵、一度も売れたことなんか無いから、売れてる流行りのタッチの絵でも描こうか、
それともスッパリやめちまおうか、ってちょっと迷ってた。」
「お兄ちゃんの絵、なかなか味があっていいのにね。」
「あれ?お前、見たことあったっけ?」
「小さい頃に少しだけ、見たことあるよ。」
「そっか。だけど、やっぱ違うよな、そうじゃねぇよな。売るために描くわけじゃない、描きたいから描くんだ。
だから俺はこれからもずっと、売れない下手くそな絵を描き続けるよ。さっき鯨に怒られたしな。」
「あれ、怒られてたんだ(笑)」
「ああ、めちゃくちゃ怒られたぞ。天地が逆転するかと思ったくらいだ。
昔から怖いものは地震雷火事親父って言うけど、鯨も追加しないとな。」
「あは、そうだね。」
「それよりお前、何か俺に言いたいことがあったんじゃないのか?」
「うん・・・・・・・お兄ちゃん、あたしね、結婚するの。」
「へ?」
「ホントはちょっと迷ってたんだけど、さっき決めた。」
「さっき決めたって・・・もしかして、俺が実家に帰るかどうかで決めたのか?」
「うん、お兄ちゃんが実家を継ぐなら、あたしはまだもうちょっと独り身の自由を満喫しようかな・・・なんて、ズルイこと考えてた。」
「別に狡くねぇよ。それに、俺たちのどっちかが継がなくなって、まだ親父もおふくろもピンピンしてるだろ。」
「そうだけどね。」
「それより、お前そんな簡単に結婚決めちまって、良かったのか?」
「大丈夫だよ、別に嫌いな人と結婚するわけじゃないもの。」
「そ、そうだよな。そりゃ、さすがにそうだよな。相手の男、どんな奴なんだ?」
「んー、、。ちょっとお兄ちゃんに似てるかも。」
「えっ!?」
「冗談よ。何驚いた顔してるの?」
「は、はははは…そんなことないよ。あ、そうだ、結婚祝いに絵を一枚描いてやるよ」
「ありがと。」

そんなたわいもないやりとりをして
俺の人生において最初で最後のホエールウォッチングは幕を閉じた。
それから何年か経って、今ではなんとか食っていける程度には俺の絵は売れるようになった。
絵が売れるようになったのは、あのとき俺が必死で鯨の絵を描いたからだって今でもそう思っている。
俺が全ての思いを込めて一生懸命になって描いた鯨の絵は、今は妹の家に飾ってある。

今でもあの時の強さと輝きを閉じこめたままで。

サンタクロースのメロンパン

2004年06月17日 00時24分12秒 | 物語
僕らはメロンパンが好きだった。
あの頃からずっとずっと。

あの頃―――

ある暑い夏の日、僕らは秘密基地で遊んでいた。
虫取り、魚釣り、おいかけっこ、かくれんぼ、色々やった。
遊びつかれてヘトヘトだった。

仲間の一人が、空を見上げて何か叫んだ。
みんなが上を見た。

強烈な光だった。
太陽を真っ直ぐに見たせいかもしれない。

信じられない光景を目にした。
メロンパンが世界を喰っていたのだ。

それは天空より現れ天空の彼方に消える巨大な巨大なメロンパンだった。

僕は金属バットで殴られたような――いや、実際何かに殴られたのだ。

ふと気が付くと、そこには眠りこけて横たわっている仲間と人数分のメロンパンがあった。
メロンパンは変な形にへこんでいた。

後頭部がジンジンした。
頭のネジが何本も取れたような気がした。
僕はぼんやりしながら、とりあえずメロンパンをかじった。
気が遠くなるほどうまかった。

僕は今でもあのメロンパンの味を覚えている。

わからない物語 ~その1~

2004年05月23日 02時42分25秒 | 物語
・・・気が付けば丸い世界だった

誰から望まれたわけでもなく
自ら望んだわけでもなく
また 生まれたかどうかもあやしかった

最初からあったかもしれないし
今をもってしてもなかったかもしれない

そこにはあれかこれかと決断する必要性も発想もなかった
二元的なものは何もなかった

誰も自分を見ていなかった
何故なら誰もいなかった

他者という鏡を見ることもなく
自身を知る術もなかった

わかることがわからないことを超えるほど
全てがわかりきっていた

そしてそれは誰にも知られる事無く在り続けていた

闇と光が同じ場所で同時に存在し
肯定と否定が複雑に絡み合ってパラドックスの美しさを奏でていた

全ては一つだった
自分の世界ではなく 世界が自分だった

意志の力は無かったが 意識はあった
近づくと物が大きくなり 遠ざかると物が小さくなる不思議な世界だった

意識を一点に集中すれば 点が己となり
ぼんやりすれば 全てが消えた

知覚できる限りにおいて存在は明白であり
知己がそこいらじゅうを彷徨っていた

気が付けば私は私自身を僕と呼ぶようになっていた
いつから僕と呼び始めたのかはわからない

どこにも区切りは無かったが
名前を付けられたものには
目に見えない境界線が出来始めた

奇妙な枠が開いたり閉じたりし始め
何かを包んだり逃げたりした

僕はその奇妙な枠を最初はぼんやり眺めていたが
いつしか追いかけるようになった

名前を付けられた枠がシステムとなって動きだし
動き出した虫は世界を蝕んでいった

その日から世界は次第に次第に四角く四角くなっていった



(続く限りにおいて続く)