老後の練習

しのび寄るコドクな老後。オヂサンのひとり遊び。

『ボルベール <帰郷>』

2007-07-14 09:32:59 | 映画
3連休前の金曜夜、カイシャの束縛からのがれられないアワレなサラリーマンの群れが雑居ビルの玄関先を占拠している隙間を抜けて、レイトショーの映画館についたのは9時過ぎ。ゆったりした座席に座り込んで、久しぶりに神経が緩んだ。
女性しか出ない映画と聞いていて、最初のシーンから画面に引き込まれた。なにしろ何十人もの女が、その大部分は未亡人が、東風が強く吹いて土埃が舞う中、せっせとラジオ体操のように墓石を磨いているんだから。登場人物が早口のスペイン語でまくしたてる。ダイレクトな映画だ。

ストーリーは単純なようでキワメテ複雑。終盤に主人公の女性が背負った大きな秘密が明らかにされ、すべてが解けていく。父親に犯された女たちの血のつながりの宿命のようなものが土台になっている。
舞台はスペインの田舎の集落と都会の町の両方で、都会から田舎に帰るという帰郷と、娘が母親のもとに帰るという帰郷が重なり合っている。実際のところはもっと深いものがあるのだが、それは見てのお楽しみ、というところ。

父親殺しとか夫殺しとか、陰惨な話の筋とは正反対に、映画としてはカメラアングルのおもしろさや、冒頭のシーンのように情景を作りこんだ絵のように見せる見せ方など、笑ってしまうようなおもしろさにあふれている。例えば主人公のチョウ美人の女が真っ赤な血の色のトマトをまな板の上できざむシーンなど、天井から見下ろして胸のタニマがいい眺めだったり。その女が料理をする場面が全体にちりばめられて、結局は女は乳房と料理で世界を支配している、みたいなふうに思えてきた。それに比べてなんとだらしない男のペニス、、という情けないシーンもある。

スペインのどの辺の話かわからないが、東風がいつも吹いて、風力発電のプロペラが建ち並ぶイメージ。
主演のペネロペ・クルスはこの作品でカンヌの最優秀女優賞をとった。途中で主題歌?を歌い上げるシーンもあり、昔の美空ひばり映画のような趣にもカンペキな輝きを放っていた。タニマやぷりぷりのお尻、、など、だって絵としてわざと強調しているんだから仕方ないのだが、シビレル感じ。
ペドロ・アルモドバル監督は注目作品を連発しているようだが、見たのは初めて。おもしろい。ほかにない、映像作品としての映画になっている。

2006年スペイン映画。川崎TOHOシネマズにて。