
罌粟の花を見ると思い出すことがある。
我が県の大学の医学部は、交通の便が良い場所とは言い難い。
田舎の小高い丘の上にある。電車の駅から遠い。バスが連絡をしているが、我が家からは電車を何回も乗り換えて、バスを利用するなんてことは、考えただけでぞーとする。病人には無理、とても無理な場所に建っている。
目が悪くなり、大学病院にかかることになった。
夫の送り迎えに頼る。
一つ小さな山を越える。途中に長いトンネルがある。
トンネルを抜けた所の、一軒の家の山畑の隅に、朱い罌粟の花が毎年咲く。
もとより罌粟の花は大好きであった。
通る度、そこの家の罌粟の花はいつも、車の窓から楽しみに見ていた。
目を悪くして花季にもかかわらず、全く見えなかった。
手術をして、目が良くなったときに見た、この家の罌粟の花。車窓からではあるが、鮮やかな朱色の罌粟が風に吹かれていた。強い日差しの中で、なよなよとした茎にもかかわらず至極、強そうに咲いていた。
この家の罌粟は、ごく赤く、栽培を禁止されている種類に似ている。
鬼罌粟なのかもしれぬ。まこと、罌粟の中な罌粟という感じの花の色である。
目が見える幸福を実感した。
きっと、今年も道を行く人の目を楽しませていることだろう。
しりとり俳句の皆の句、罌粟がよく詠まれている。
⛅ うすうすと頭痛のきざす罌粟の花 ラスカル
⛅ 尽くしすぎ薄幸なりぬ虞美人草 よひら
⛅ 罌粟の花こくりこくりと子のうつら ぴのこ
(けしの花はコクリコとも)
⛅ ピザ食べる娘の愚痴を罌粟の花 菊子
⛅ カーテンの揺るる出窓や罌粟の花 霜月
⛅ 水差しの影の水色罌粟の花 かげお