老人雑記

生活の中で気づいた浮世の事

KOSI    から

2015-11-16 10:17:39 | 俳句
     ☆    無思想の肉が水着をはみ出せる   長谷川櫂

「櫂 二百句鑑賞」    藤 英樹  から

作者がこれまでに出した句集の中で、異彩を放っている代表句の一つと言ってよい。
掲句の「無思想」という言葉は明らかに マイナスイメージ をもつ言葉です。
かって「ノンポリ学生」という言葉がはやりました。政治に無関心の学生という意味ですが、「無思想」という言葉にも社会や政治、人生に対して定見をもたないという否定的な意味があります。しかも「水着」から「無思想肉」がはみ出しているのは男性というより女性という印象です。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、(中略)

作者が弟子たちにしばしば語るのは
「俳句の言葉は相手に伝わらなければ意味がない」ということです。
作った本人だけにしか分からないような表現は独りよがりで失格というわけです。
ですから作者のこれまで作ってきた俳句は詩情深くとも、言葉は明快です。
同時に作者は「無思想」のような硬くマイナスイメージをもつ言葉を使うことも否定的です。
句が理屈に陥りがちですし、わずか十七音の俳句にそうした言葉を使うことは、読者の誤解を招き真意が伝わらないリスクの方が大きいと考えるからだと思います。
ではなぜ、掲句では「無思想」という言葉をあえて使ったのしょうか。
、、、、、、、、、、、、、、、、、(中略)
真夏の陽光が照り付ける砂浜の空虚な明るさ、そこにたむろする水着姿の人々の顔はみなのっぺらぼうのようで、無機質のおかしみが感じられます。
作者はこの句について次のように語っています。
「肉体というのは、思想がなくて、あっけらかんとしてよろしい、ということです。人間の考えというのは所詮小さくて、そこはみ出したものがいいんだ。この句『はみ出せる』というのも、そういう意味なんですよ。思想などからはみ出している、ということことですね。
俳句も主観でものを言うと、小さくなるでしょう。できるだけ主観がない方が、世界を大きいままに捉えられる。(中略)世界の大きさ、美しさを、どれだけ傷つけずに俳句にできるかというなが、僕のやっていることなんです」


      
☆   趣味のなき夏服太りすぎし人   星野立子

この文章を読みつつ、立子の句を思った。
無思想と趣味のない人、どちらもマイナーな言葉である。
良い弟子を持つと、無思想な句のように、天下一品の句として昇華された。
立子の句に含まれている、思いは、いかがなものであったのだろうか。消化されないまま、後世に残ってしまうのだろうか。相手に伝わらないというのは、こんな句のことだろうか。


       ☆   夕桜後ろ姿の木もありて   長谷川櫂

       ☆   冬深し柱の中の濤の音   長谷川櫂
コメント
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