中国SMICにも見捨てられたファーウェイの末路
7/8(水) 9:50配信
JBpress
中国・上海に新たにオープンしたファーウェイの最大旗艦店に集まった上海市民(2020年6月24日、写真:アフロ)
(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)
■ TSMCの公開データが突然修正された?
筆者は定期的に、台湾のファンドリーTSMCが公開する「投資家向け情報」をウォッチしている。その中で最も注視しているのは、「過去の決算情報」内のエクセル形式でダウンロードできる“Historical Operating Data”である。このデータには、テクノロジーノード(微細加工技術)ごとのウエハ・キャパシティの割合、アプリケーション別の売上高比率、地域別の売上高比率などが漏れなく記載されているからである。
ところが最近、2020年第1四半期の地域別売上高比率のデータが修正されていることに気づいた。修正される前のデータを基にしたグラフを図1に示す。2019年第4四半期に22%あった中国比率が、2020年第1四半期に11%に低下していることに注目されたい。
これは、米商務省が中国のファーウェイへの輸出規制を厳格化し、TSMCが2020年9月以降、ファーウェイ向けの新規半導体の出荷を停止することになったため、ファーウェイが製造委託していた半導体の一部を、TSMCから中国のSMICに切り替えたことによるものと解釈していた。
ところが、7月7日に行うセミナー用の資料作成のために、改めてTSMCの公式HPから“Historical Operating Data”をダウンロードしたところ、地域別売上高比率のデータが修正されていたのである(図2)。修正後のデータでは、2020年第1四半期の中国比率は、2019年第4四半期と同じ22%になっている。
これは一体、どうしたことなのか?
まさか、TSMCともあろう企業が単純な「記載ミス」を起こすとは考えにくい。TSMCが当初11%に半減するはずだった中国比率が、何らかの事情で22%に戻ることになったとしか考えられない。では、それは、どのような事情なのだろうか?
そこで、筆者なりに調査を行ったところ、思わぬ事態が明らかになってきた。本稿では、TSMCが2020年第1四半期の中国比率を11%から22%へ修正した事情について説明したい。
■ SMICがファーウェイの製造委託を断った!
筆者は、まず、次のようなことを突き止めた。ファーウェイは、14nm(または16nm)の半導体の製造委託先を、TSMCから中国のファンドリーSMICへ切り替えることにした。その切り替えの打診は確かに行われたようで、材料メーカーなどは、これまでTSMCに出荷していた材料をSMICに輸出先を変更したと聞いた。
ところが、SMICは、ファーウェイの製造委託を断ったというのである。それは、なぜだろうか? その理由は、3つほど考えられる。以下に列挙してみよう。
(1)SMICの14nmが立ち上がっていない
SMICが14nmのリスク生産を開始したのは2019年第4四半期で、ビジネス全体に占める14nmの割合は、2020年第1四半期でもわずか1.4%しかない(図3)。
また、そのキャパシティは、12インチウエハ換算で、月産5000枚しかないことも分かってきた。ちなみに、TSMCは2020年第1四半期時点で、SMICの14nmに相当する16/20nmのキャパシティは58万5000枚もある(図4)。
(2)SMICのキャパシティが全然足りない
SMICの微細加工技術は、TSMCより5年ほど遅れているが、それ以上に問題なのは、SMICの生産キャパシティの貧弱さである(図5)。12インチ換算の月産キャパシティで、TSMCが108万3000枚あるのに対して、SMICは20万5000枚しかない。
もし、SMICが、ファーウェイが要求する半導体を製造委託する場合、微細加工技術が遅れていることを横に置いておくとしても、SMICの全キャパシテイ20万5000枚のうちの約80%をファーウェイ向けに確保する必要がある。
このように、SMICは、ファーウェイが必要とする7nmや5nmの微細加工技術は全くなく、かろうじて開発した14nmもたった月産5000枚しかキャパシティがない。また、微細加工技術は無視するとしても全キャパシティの80%が必要になる。そのため、SMIC自身が、「ファーウェイの製造委託は無理だ」ということを悟ったのかもしれない。
(3)米国のELに追加されることが怖かった
さらに、SMICには、ファーウェイの製造委託を引き受けたくない理由があった。それは、わずかでもファーウェイの製造委託を引き受けたがために、米商務省がSMICをエンティティリスト(EL)に追加する可能性があるからだ。
もし、SMICがELに追加されると、アプライドマテリアルズ(AMAT)、ラムリサーチ(Lam)、KLAなど米国製の製造装置を導入できなくなる。それは、半導体メーカーにとって“死”を意味する。というのは、10種類ほどある製造装置について、米国製の製造装置がなければ、どうにもならない分野が多数あるからだ。
図6に、各種半導体製造装置の企業別シェアを示す。露光装置は、オランダのASMLが90%以上のシェアを独占している。特に、最先端のEUV露光装置は、ASML1社しか供給することができない。そして、EUV露光装置の心臓部となる光源は、傘下の米Cymerが製造しているため、中国企業が導入することが困難となっている。実際、2019年にSMICがEUVを導入しようとしたが、米国がオランダ政府に圧力をかけたため、ASMLはEUVの輸出を停止した。
レジストを塗布するコータ・デベロッパは、日本の東京エレクトロン(TEL)の独壇場であるため、ELには関係ないかもしれない。しかし、ドライエッチング装置は、LamとAMATを止められたら、アウトである。というのは、TELが高いシェアを持っているのは絶縁膜用で、メタルやゲートなど導電膜用は、LamとAMATが独占しているからだ。
さらに、成膜用のCVD装置はAMATとLamが独占しているし、スパッタ(PVD)装置はAMATが独占している。研磨するためのCMP装置もAMATのシェアが高く、加えて、パーティクル検査装置や欠陥検査装置はKLAとAMATがシェアを独占している。
SMICは、中国政府からの支援を得て、今後、半導体製造キャパシティを拡大していく計画である。しかし、米国製の製造装置の導入にストップをかけられたら、その計画は雲散霧消する。したがって、筆者の予想では、SMICがファーウェイからの製造委託を断った最大の理由は、米国のELに追加されるのが怖かったからではないかと思う。
■ SMICに見放されたファーウェイ
同じ中国にあるSMICに製造委託を断られたファーウェイは、いったんキャンセルしたTSMCに、再び製造委託を頼んだのではないだろうか?
TSMCがファーウェイ向けの新規半導体の出荷を停止するのは9月中旬である。そこで、ファーウェイは、それまでの猶予期間は、これまで通り、もしかしたらこれまで以上にTSMCに半導体を製造委託することにしたのではないか。
このように、一度はSMICに委託先を変更しようとしたが断られてしまったため、ファーウェイが再度、TSMCに製造委託を依頼し、“Historical Operating Data”で当初11%になっていた中国比率が22%に修正されたものと考えられる。ファーウェイが慌てふためく様子が伝わってくるようだ。
■ 9月中旬以降ファーウェイはどうするのか?
9月中旬以降、TSMCはファーウェイ向けの半導体を出荷しない。SMICは、ファーウェイの半導体の製造委託を断った。今後、ファーウェイはどうするのだろうか?
あちこちから、ファーウェイが半導体の製造委託先を模索している話が伝わってくる。TSMCと同じレベルで先端半導体を製造することができるのは、韓国のサムスン電子である。そのため、ファーウェイは、どうやら、サムスン電子に先端半導体の製造委託を打診しているらしい。しかし、筆者は、サムスン電子が、というより韓国政府がファーウェイの製造委託を引き受けないようにすると思う。
というのは、韓国は、米国の軍事同盟国であるからだ。もし、サムスン電子がファーウェイの製造委託を引き受けたら、米国と韓国の政府間に亀裂が生じるだろう。要するに、米韓の国家問題になる可能性がある。
さらに、もし、サムスン電子が米韓政府の言うことを無視して、ファーウェイの製造委託を引き受けたら、米国はサムスン電子をELに載せるかもしれない。すると、ファーウェイ向けのロジック半導体だけでなく、DRAMやNANDなどメモリすら輸出が禁止されることになる。その上、米国製の製造装置が導入できなくなるだろう。そうなると、サムスン電子は、メモリのチャンピオンの座を失うことになる。サムスン電子が、そのような愚挙を犯すとは考えられない。
また、ファーウェイが、日本企業へ協力を打診しているという話も聞こえてくる。例えば、ニコンやキヤノンに、EUV露光装置をつくってくれないかというような依頼である。ニコンは、EUVの1つ前の世代のArF液浸で、ASMLに完膚無きまでに叩きのめされ、2016年末に先端の露光装置開発から撤退した。キヤノンは、もっと古い世代のi線とKrF露光装置に注力しており、ArFすらつくっていない。このようなニコンとキヤノンに、EUVなどつくれるはずがない。
加えて、日本には、SMICレベルのファンドリーすらない。富士通の三重工場や東芝の大分工場などがあるにはあるが、45nmレベルで時が止まってしまっている。ファーウェイの要求には、1mmも応えることができないだろう。
このように考えると、ファーウェイには、もはや打開策は無いように思う。時間がかかろうとも、ファーウェイが、自社で半導体製造装置を開発し、自社でファンドリーを行うしか道は無いように思う。ただし、それには果てしない時間を必要とする。
湯之上 隆
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ICTで道路舗装に革命を起こすすごいベンチャー
knd***** | 16時間前
政治、外交は企業や産業の構造まで変える影響力があるてことですね。
日本のメーカーも頑張っているが世界と渡り合うためには地道な努力と国をあげての研究や助成は欠かせない。
やっぱり官民一体となる取り組みはこれからも大事だよね。
返信4
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adr***** |13時間前
全ては政治ですね
なのに日本はおかしい
シャープの時もだけど
トヨタやパナソニックなどが中国へ投資をすることを叩く
これは理解するが
選ぶ政党は
中国とズブズブの公明党と連立の自民党
大阪を中国人だらけにした維新
都知事選では中国に防護服を大量に送った知事をまた選ぶ
全ての国政政党がお話にならない
って分かってるだろうに
なのにまた選ぶ
政治主導で物事は運んでいる
日本が中国の春節でウイルスを大量に持ち込んだのも
安倍自民公明党政権が中国側だからに他ならない
尖閣も何年も放置
今や沖縄なんで話題にも出さないほど放置
悪化してる現状知らないのでしょう
北海道含む日本の土地は中国へ売られる
これも安倍自民公明党の仕業
長年たってるのに、いつまでも
また民主党がーー
って言ってる奴は、自民党工作員
そろそろ気がついてほしいよ
情けない
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支持できる政党無し |12時間前
ファーウェーが陥落すると
笑うのは
SAMSUNGか。
SAMSUNGも
アメリカの顔色伺いながらって
感じだな。
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dav***** |15時間前
官民一体なら、
中国企業は皆国策企業とよく非難されるのは、一緒ですね
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小田真理雄 |13時間前
官民一体日本では税金の無駄遣いと罵った政党がいらっしゃいます。
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oiwoewf | 15時間前
国際宇宙ステーションの12か国から中国を排除しました。その結果,いつの間にか天宮X号の宇宙ステーションができました。
GPSについては,その気になれば,随時中国を遮断することができていました。中国が西欧に協力を求めようとしても,米国の圧力で流れました。その,結果衛星31機のGPSに対して,衛星53機の北斗システムができました。
HUAWEIの場合は,どうなるのでしょうか。5年後にわかります。
1987年に日本の半導体がアメリカにつぶされたとき,日本の産業界には,臥薪嘗胆の気迫はなかったのでしょうか。
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jtyjsyjsryjs |13時間前
ある意味ファーウェイの件をきっかけに、みんな気付いたと思う。世界の産業の心臓部をアメリカが握っており、少しでも逆らうと、というかアメリカ自身が少しでも脅威と感じたら、相手を徹底的に叩き潰す。これがアメリカのやり方。結局ファーウェイは自身で全てを開発しないと生き残れなくなる。このような世界的な大企業をもってしても国家権力の前では全く無力だ。本当の意味でグローバルサプライチェーンを見直さないといけないのは中国にある外国企業ではなく、外国にある中国企業かもしれない。いつアメリカの要請で締め出されるかわからないからだ。
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jun***** |13時間前
どんなものでもそうですが、一国で莫大な費用をかけ何かを行うということは、未来永劫その維持管理費用がついて回るということです。それを分かち合うために民主国家は協力して事を進めます。一国ではどこかで破綻をきたすでしょう。
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黒猫マロン |12分前
日本の発展は企業の努力に寄るところが大きく、その力を削ぐ法律を作ったり、または外国の言われるままの苦渋を受け入れたり、税金で吸い上げ自分達の給与を引き上げていくのが、今までの政治家と官僚。
コロナ禍のことで、家賃即ち固定資産税、他諸々の税金で如何に皆苦しんでいるか分かったと思う。
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tat***** |12時間前
昔からアメリカのやり口は変わらない
勝ち目がないのに戦争させられて敗戦国にもなった歴史がある。
自由の国ではないが中国にも世界の覇権を握って欲しくない
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dor***** |8時間前
昔、ソ連の戦闘機に真空管が使われていたのは
核パルスに強いからとも言われた。
宇宙も放射線の影響が強すぎて古い技術の方が
ノイズに強くて有利。
アメリカだって宇宙船に積んでるコンピューターは
すごい旧式ですよ。
だから中国もアメリカについていけた。
ファーウェイの場合は、ユーザーは最先端の技術を
求めているのに、ファーウェイは最先端の技術を
使わせてもらえないから復活は無理。
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ad4***** |6時間前
米国の型落ち技術や知財命 × 月々可処分所得3万円が10億人の市場。
宇宙開発と違って、西側の市場から締め出されたら無理なのでは?
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yo7***** |8時間前
トロンはメインのOSにはなれませんでしたが、物のCPUなどでしっかり生き残っていますよ。
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minamikaze |10時間前
天宮X号の宇宙ステーションができました。
衛星53機の北斗システムができました。
5年後はHUAWEIの大変身大成功。14億人の大市場と中国の決断で必ず大成功になります。5年の時間はたぶん十分。
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kbz***** |13時間前
事実は封鎖されるほど成果を上げている。
これが中国のやりかただ。
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new***** |11時間前
官僚に気概があれば、トロンは生き残ったかもしれない。
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ayu***** | 16時間前
ファーウェイに限らずインド市場での過酷なシェア争いを続ける以上サプライヤーが何処までついて来るかと言う事ではないのかな。
そのお下がりを日本市場ではコスパが良いと一部では歓迎している様だがそんなチキンレースはいつまでもは続かない。
最近日本人でも高いなぁと思う中華のてんこ盛りスマホが増えたのも何処かで利益回収しないとまずい所迄行った証とフラッグシップモデルを出す事で技術水準の高さを誇示しようと言う現れでしよう。
返信0
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yok***** | 14時間前
日本のレベル低下はもはや中国の足元にも及ばないとは。。
よいしょしてトップになった経営者が多い日本では投資選択が目先の利益のみで内部留保は溜まる。。これじゃ勝てる訳が無い。 パナソニックでさえ中国頼りで研究所を中国に設置し中国人材で進める意向。
経団連会長も中国の手下。。情け無い
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ark***** | 16時間前
簡単に出来るわけが無いだろうに日本が輸出制限を掛けたら終わる。
アメリカはそれぐらい日本に圧力を掛けて来るだろうし無視なんて出来る訳が無い。
サムスンも文在寅をどうにかしないと道ずれだろうに。
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ome***** | 9時間前
ファーウェイが残された選択肢はサムスン電子一択
だからこそ逆に中華共産党は韓国政府に圧力を掛けて5G向けデバイスの生産をさせようとしているのですね
だからこそ日米政府が協力の上、先手を打ってのフッ化水素、レジスト、フッ化ポリイミドの輸出制限という流れがあるからこその韓国政府の異常な反応が良くわかります。
製造装置メーカーのAMAT ASMLそしてTELと日本製の関連高品質素材が無ければもう詰んでいることは間違いありませんのでこのまま続ける事が何より大事です
返信0
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m62***** | 10時間前
中国ファーウェイは次の手を考えている、たとえ台湾や日本の企業が協力しなくてもなんとてもやる国だ、アメリカの意向で例えファーウェイの半導体が輸入出来なくても、台湾メーカー半導体の技術者を破格の金額で根こそぎスカウトをすればそんなに時間をかけず中国内で半導体部品を作るだろう、中国と言う国をなめたらえらいことになる、ファーウェイの製造を止めるならアメリカが次次と先手を打たなければならないのだ、鉄低的にやらなければ中国の反撃にやられる可能性がある。
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p12***** | 15時間前
部品や知財の寄せ集めで、自前で作るよりも他社からもってきてくっつけまくった方が開発費も時間も少なくて済む。そのうえ、人件費が異様に安いからスマホも基地局も強みがあったんじゃ?
そのビジネスモデル自体は悪くなかったけど、特許も必須特許は少ないから、収益が出ていないことが端的に示される体質なので、今の状況では困るんだろうな。o-ran規格からも排除されて例のentity list だから、もはやここまででしょう。
返信1
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tak***** | 14時間前
共産主義の限界か。
世界は色んな分野で協力している。
違法な行為で牛耳ると反発を食らうのは当然のこと。
民主国家ならば、とっくに世界の大国となっていただろうが、共産党維持のための力ずくでは世界は認める訳がない。
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dor***** | 8時間前
中国共産党は半導体に投資をする気がない。
数年前から2025年には中国国内で必要な半導体を
すべて国産化させると言っておきながら
SMICへの投資はずっと少額。
最先端の技術を開発するには多額の資金が必要ですが、
中国人は今までずっと産業スパイで開発費用を浮かせてきた。
だから産業スパイが失敗すると必然的にこうなる。
SMICはTSMCに比べて5年遅れの技術力。
中国共産党も最先端から5年遅れの企業に
投資する気にはならないでしょう。
今までのつけが回ってファーウェイは終わります。
7/8(水) 9:50配信
JBpress
中国・上海に新たにオープンしたファーウェイの最大旗艦店に集まった上海市民(2020年6月24日、写真:アフロ)
(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)
■ TSMCの公開データが突然修正された?
筆者は定期的に、台湾のファンドリーTSMCが公開する「投資家向け情報」をウォッチしている。その中で最も注視しているのは、「過去の決算情報」内のエクセル形式でダウンロードできる“Historical Operating Data”である。このデータには、テクノロジーノード(微細加工技術)ごとのウエハ・キャパシティの割合、アプリケーション別の売上高比率、地域別の売上高比率などが漏れなく記載されているからである。
ところが最近、2020年第1四半期の地域別売上高比率のデータが修正されていることに気づいた。修正される前のデータを基にしたグラフを図1に示す。2019年第4四半期に22%あった中国比率が、2020年第1四半期に11%に低下していることに注目されたい。
これは、米商務省が中国のファーウェイへの輸出規制を厳格化し、TSMCが2020年9月以降、ファーウェイ向けの新規半導体の出荷を停止することになったため、ファーウェイが製造委託していた半導体の一部を、TSMCから中国のSMICに切り替えたことによるものと解釈していた。
ところが、7月7日に行うセミナー用の資料作成のために、改めてTSMCの公式HPから“Historical Operating Data”をダウンロードしたところ、地域別売上高比率のデータが修正されていたのである(図2)。修正後のデータでは、2020年第1四半期の中国比率は、2019年第4四半期と同じ22%になっている。
これは一体、どうしたことなのか?
まさか、TSMCともあろう企業が単純な「記載ミス」を起こすとは考えにくい。TSMCが当初11%に半減するはずだった中国比率が、何らかの事情で22%に戻ることになったとしか考えられない。では、それは、どのような事情なのだろうか?
そこで、筆者なりに調査を行ったところ、思わぬ事態が明らかになってきた。本稿では、TSMCが2020年第1四半期の中国比率を11%から22%へ修正した事情について説明したい。
■ SMICがファーウェイの製造委託を断った!
筆者は、まず、次のようなことを突き止めた。ファーウェイは、14nm(または16nm)の半導体の製造委託先を、TSMCから中国のファンドリーSMICへ切り替えることにした。その切り替えの打診は確かに行われたようで、材料メーカーなどは、これまでTSMCに出荷していた材料をSMICに輸出先を変更したと聞いた。
ところが、SMICは、ファーウェイの製造委託を断ったというのである。それは、なぜだろうか? その理由は、3つほど考えられる。以下に列挙してみよう。
(1)SMICの14nmが立ち上がっていない
SMICが14nmのリスク生産を開始したのは2019年第4四半期で、ビジネス全体に占める14nmの割合は、2020年第1四半期でもわずか1.4%しかない(図3)。
また、そのキャパシティは、12インチウエハ換算で、月産5000枚しかないことも分かってきた。ちなみに、TSMCは2020年第1四半期時点で、SMICの14nmに相当する16/20nmのキャパシティは58万5000枚もある(図4)。
(2)SMICのキャパシティが全然足りない
SMICの微細加工技術は、TSMCより5年ほど遅れているが、それ以上に問題なのは、SMICの生産キャパシティの貧弱さである(図5)。12インチ換算の月産キャパシティで、TSMCが108万3000枚あるのに対して、SMICは20万5000枚しかない。
もし、SMICが、ファーウェイが要求する半導体を製造委託する場合、微細加工技術が遅れていることを横に置いておくとしても、SMICの全キャパシテイ20万5000枚のうちの約80%をファーウェイ向けに確保する必要がある。
このように、SMICは、ファーウェイが必要とする7nmや5nmの微細加工技術は全くなく、かろうじて開発した14nmもたった月産5000枚しかキャパシティがない。また、微細加工技術は無視するとしても全キャパシティの80%が必要になる。そのため、SMIC自身が、「ファーウェイの製造委託は無理だ」ということを悟ったのかもしれない。
(3)米国のELに追加されることが怖かった
さらに、SMICには、ファーウェイの製造委託を引き受けたくない理由があった。それは、わずかでもファーウェイの製造委託を引き受けたがために、米商務省がSMICをエンティティリスト(EL)に追加する可能性があるからだ。
もし、SMICがELに追加されると、アプライドマテリアルズ(AMAT)、ラムリサーチ(Lam)、KLAなど米国製の製造装置を導入できなくなる。それは、半導体メーカーにとって“死”を意味する。というのは、10種類ほどある製造装置について、米国製の製造装置がなければ、どうにもならない分野が多数あるからだ。
図6に、各種半導体製造装置の企業別シェアを示す。露光装置は、オランダのASMLが90%以上のシェアを独占している。特に、最先端のEUV露光装置は、ASML1社しか供給することができない。そして、EUV露光装置の心臓部となる光源は、傘下の米Cymerが製造しているため、中国企業が導入することが困難となっている。実際、2019年にSMICがEUVを導入しようとしたが、米国がオランダ政府に圧力をかけたため、ASMLはEUVの輸出を停止した。
レジストを塗布するコータ・デベロッパは、日本の東京エレクトロン(TEL)の独壇場であるため、ELには関係ないかもしれない。しかし、ドライエッチング装置は、LamとAMATを止められたら、アウトである。というのは、TELが高いシェアを持っているのは絶縁膜用で、メタルやゲートなど導電膜用は、LamとAMATが独占しているからだ。
さらに、成膜用のCVD装置はAMATとLamが独占しているし、スパッタ(PVD)装置はAMATが独占している。研磨するためのCMP装置もAMATのシェアが高く、加えて、パーティクル検査装置や欠陥検査装置はKLAとAMATがシェアを独占している。
SMICは、中国政府からの支援を得て、今後、半導体製造キャパシティを拡大していく計画である。しかし、米国製の製造装置の導入にストップをかけられたら、その計画は雲散霧消する。したがって、筆者の予想では、SMICがファーウェイからの製造委託を断った最大の理由は、米国のELに追加されるのが怖かったからではないかと思う。
■ SMICに見放されたファーウェイ
同じ中国にあるSMICに製造委託を断られたファーウェイは、いったんキャンセルしたTSMCに、再び製造委託を頼んだのではないだろうか?
TSMCがファーウェイ向けの新規半導体の出荷を停止するのは9月中旬である。そこで、ファーウェイは、それまでの猶予期間は、これまで通り、もしかしたらこれまで以上にTSMCに半導体を製造委託することにしたのではないか。
このように、一度はSMICに委託先を変更しようとしたが断られてしまったため、ファーウェイが再度、TSMCに製造委託を依頼し、“Historical Operating Data”で当初11%になっていた中国比率が22%に修正されたものと考えられる。ファーウェイが慌てふためく様子が伝わってくるようだ。
■ 9月中旬以降ファーウェイはどうするのか?
9月中旬以降、TSMCはファーウェイ向けの半導体を出荷しない。SMICは、ファーウェイの半導体の製造委託を断った。今後、ファーウェイはどうするのだろうか?
あちこちから、ファーウェイが半導体の製造委託先を模索している話が伝わってくる。TSMCと同じレベルで先端半導体を製造することができるのは、韓国のサムスン電子である。そのため、ファーウェイは、どうやら、サムスン電子に先端半導体の製造委託を打診しているらしい。しかし、筆者は、サムスン電子が、というより韓国政府がファーウェイの製造委託を引き受けないようにすると思う。
というのは、韓国は、米国の軍事同盟国であるからだ。もし、サムスン電子がファーウェイの製造委託を引き受けたら、米国と韓国の政府間に亀裂が生じるだろう。要するに、米韓の国家問題になる可能性がある。
さらに、もし、サムスン電子が米韓政府の言うことを無視して、ファーウェイの製造委託を引き受けたら、米国はサムスン電子をELに載せるかもしれない。すると、ファーウェイ向けのロジック半導体だけでなく、DRAMやNANDなどメモリすら輸出が禁止されることになる。その上、米国製の製造装置が導入できなくなるだろう。そうなると、サムスン電子は、メモリのチャンピオンの座を失うことになる。サムスン電子が、そのような愚挙を犯すとは考えられない。
また、ファーウェイが、日本企業へ協力を打診しているという話も聞こえてくる。例えば、ニコンやキヤノンに、EUV露光装置をつくってくれないかというような依頼である。ニコンは、EUVの1つ前の世代のArF液浸で、ASMLに完膚無きまでに叩きのめされ、2016年末に先端の露光装置開発から撤退した。キヤノンは、もっと古い世代のi線とKrF露光装置に注力しており、ArFすらつくっていない。このようなニコンとキヤノンに、EUVなどつくれるはずがない。
加えて、日本には、SMICレベルのファンドリーすらない。富士通の三重工場や東芝の大分工場などがあるにはあるが、45nmレベルで時が止まってしまっている。ファーウェイの要求には、1mmも応えることができないだろう。
このように考えると、ファーウェイには、もはや打開策は無いように思う。時間がかかろうとも、ファーウェイが、自社で半導体製造装置を開発し、自社でファンドリーを行うしか道は無いように思う。ただし、それには果てしない時間を必要とする。
湯之上 隆
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ICTで道路舗装に革命を起こすすごいベンチャー
knd***** | 16時間前
政治、外交は企業や産業の構造まで変える影響力があるてことですね。
日本のメーカーも頑張っているが世界と渡り合うためには地道な努力と国をあげての研究や助成は欠かせない。
やっぱり官民一体となる取り組みはこれからも大事だよね。
返信4
602
33
adr***** |13時間前
全ては政治ですね
なのに日本はおかしい
シャープの時もだけど
トヨタやパナソニックなどが中国へ投資をすることを叩く
これは理解するが
選ぶ政党は
中国とズブズブの公明党と連立の自民党
大阪を中国人だらけにした維新
都知事選では中国に防護服を大量に送った知事をまた選ぶ
全ての国政政党がお話にならない
って分かってるだろうに
なのにまた選ぶ
政治主導で物事は運んでいる
日本が中国の春節でウイルスを大量に持ち込んだのも
安倍自民公明党政権が中国側だからに他ならない
尖閣も何年も放置
今や沖縄なんで話題にも出さないほど放置
悪化してる現状知らないのでしょう
北海道含む日本の土地は中国へ売られる
これも安倍自民公明党の仕業
長年たってるのに、いつまでも
また民主党がーー
って言ってる奴は、自民党工作員
そろそろ気がついてほしいよ
情けない
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支持できる政党無し |12時間前
ファーウェーが陥落すると
笑うのは
SAMSUNGか。
SAMSUNGも
アメリカの顔色伺いながらって
感じだな。
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dav***** |15時間前
官民一体なら、
中国企業は皆国策企業とよく非難されるのは、一緒ですね
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小田真理雄 |13時間前
官民一体日本では税金の無駄遣いと罵った政党がいらっしゃいます。
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oiwoewf | 15時間前
国際宇宙ステーションの12か国から中国を排除しました。その結果,いつの間にか天宮X号の宇宙ステーションができました。
GPSについては,その気になれば,随時中国を遮断することができていました。中国が西欧に協力を求めようとしても,米国の圧力で流れました。その,結果衛星31機のGPSに対して,衛星53機の北斗システムができました。
HUAWEIの場合は,どうなるのでしょうか。5年後にわかります。
1987年に日本の半導体がアメリカにつぶされたとき,日本の産業界には,臥薪嘗胆の気迫はなかったのでしょうか。
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jtyjsyjsryjs |13時間前
ある意味ファーウェイの件をきっかけに、みんな気付いたと思う。世界の産業の心臓部をアメリカが握っており、少しでも逆らうと、というかアメリカ自身が少しでも脅威と感じたら、相手を徹底的に叩き潰す。これがアメリカのやり方。結局ファーウェイは自身で全てを開発しないと生き残れなくなる。このような世界的な大企業をもってしても国家権力の前では全く無力だ。本当の意味でグローバルサプライチェーンを見直さないといけないのは中国にある外国企業ではなく、外国にある中国企業かもしれない。いつアメリカの要請で締め出されるかわからないからだ。
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jun***** |13時間前
どんなものでもそうですが、一国で莫大な費用をかけ何かを行うということは、未来永劫その維持管理費用がついて回るということです。それを分かち合うために民主国家は協力して事を進めます。一国ではどこかで破綻をきたすでしょう。
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黒猫マロン |12分前
日本の発展は企業の努力に寄るところが大きく、その力を削ぐ法律を作ったり、または外国の言われるままの苦渋を受け入れたり、税金で吸い上げ自分達の給与を引き上げていくのが、今までの政治家と官僚。
コロナ禍のことで、家賃即ち固定資産税、他諸々の税金で如何に皆苦しんでいるか分かったと思う。
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tat***** |12時間前
昔からアメリカのやり口は変わらない
勝ち目がないのに戦争させられて敗戦国にもなった歴史がある。
自由の国ではないが中国にも世界の覇権を握って欲しくない
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dor***** |8時間前
昔、ソ連の戦闘機に真空管が使われていたのは
核パルスに強いからとも言われた。
宇宙も放射線の影響が強すぎて古い技術の方が
ノイズに強くて有利。
アメリカだって宇宙船に積んでるコンピューターは
すごい旧式ですよ。
だから中国もアメリカについていけた。
ファーウェイの場合は、ユーザーは最先端の技術を
求めているのに、ファーウェイは最先端の技術を
使わせてもらえないから復活は無理。
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ad4***** |6時間前
米国の型落ち技術や知財命 × 月々可処分所得3万円が10億人の市場。
宇宙開発と違って、西側の市場から締め出されたら無理なのでは?
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yo7***** |8時間前
トロンはメインのOSにはなれませんでしたが、物のCPUなどでしっかり生き残っていますよ。
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minamikaze |10時間前
天宮X号の宇宙ステーションができました。
衛星53機の北斗システムができました。
5年後はHUAWEIの大変身大成功。14億人の大市場と中国の決断で必ず大成功になります。5年の時間はたぶん十分。
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kbz***** |13時間前
事実は封鎖されるほど成果を上げている。
これが中国のやりかただ。
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new***** |11時間前
官僚に気概があれば、トロンは生き残ったかもしれない。
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ayu***** | 16時間前
ファーウェイに限らずインド市場での過酷なシェア争いを続ける以上サプライヤーが何処までついて来るかと言う事ではないのかな。
そのお下がりを日本市場ではコスパが良いと一部では歓迎している様だがそんなチキンレースはいつまでもは続かない。
最近日本人でも高いなぁと思う中華のてんこ盛りスマホが増えたのも何処かで利益回収しないとまずい所迄行った証とフラッグシップモデルを出す事で技術水準の高さを誇示しようと言う現れでしよう。
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yok***** | 14時間前
日本のレベル低下はもはや中国の足元にも及ばないとは。。
よいしょしてトップになった経営者が多い日本では投資選択が目先の利益のみで内部留保は溜まる。。これじゃ勝てる訳が無い。 パナソニックでさえ中国頼りで研究所を中国に設置し中国人材で進める意向。
経団連会長も中国の手下。。情け無い
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ark***** | 16時間前
簡単に出来るわけが無いだろうに日本が輸出制限を掛けたら終わる。
アメリカはそれぐらい日本に圧力を掛けて来るだろうし無視なんて出来る訳が無い。
サムスンも文在寅をどうにかしないと道ずれだろうに。
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ome***** | 9時間前
ファーウェイが残された選択肢はサムスン電子一択
だからこそ逆に中華共産党は韓国政府に圧力を掛けて5G向けデバイスの生産をさせようとしているのですね
だからこそ日米政府が協力の上、先手を打ってのフッ化水素、レジスト、フッ化ポリイミドの輸出制限という流れがあるからこその韓国政府の異常な反応が良くわかります。
製造装置メーカーのAMAT ASMLそしてTELと日本製の関連高品質素材が無ければもう詰んでいることは間違いありませんのでこのまま続ける事が何より大事です
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m62***** | 10時間前
中国ファーウェイは次の手を考えている、たとえ台湾や日本の企業が協力しなくてもなんとてもやる国だ、アメリカの意向で例えファーウェイの半導体が輸入出来なくても、台湾メーカー半導体の技術者を破格の金額で根こそぎスカウトをすればそんなに時間をかけず中国内で半導体部品を作るだろう、中国と言う国をなめたらえらいことになる、ファーウェイの製造を止めるならアメリカが次次と先手を打たなければならないのだ、鉄低的にやらなければ中国の反撃にやられる可能性がある。
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p12***** | 15時間前
部品や知財の寄せ集めで、自前で作るよりも他社からもってきてくっつけまくった方が開発費も時間も少なくて済む。そのうえ、人件費が異様に安いからスマホも基地局も強みがあったんじゃ?
そのビジネスモデル自体は悪くなかったけど、特許も必須特許は少ないから、収益が出ていないことが端的に示される体質なので、今の状況では困るんだろうな。o-ran規格からも排除されて例のentity list だから、もはやここまででしょう。
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tak***** | 14時間前
共産主義の限界か。
世界は色んな分野で協力している。
違法な行為で牛耳ると反発を食らうのは当然のこと。
民主国家ならば、とっくに世界の大国となっていただろうが、共産党維持のための力ずくでは世界は認める訳がない。
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dor***** | 8時間前
中国共産党は半導体に投資をする気がない。
数年前から2025年には中国国内で必要な半導体を
すべて国産化させると言っておきながら
SMICへの投資はずっと少額。
最先端の技術を開発するには多額の資金が必要ですが、
中国人は今までずっと産業スパイで開発費用を浮かせてきた。
だから産業スパイが失敗すると必然的にこうなる。
SMICはTSMCに比べて5年遅れの技術力。
中国共産党も最先端から5年遅れの企業に
投資する気にはならないでしょう。
今までのつけが回ってファーウェイは終わります。
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