呉明憲コンサルタントの中国ビジネス日記

中国の最新情報を上海・東京・神戸を拠点に活動する株式会社TNCリサーチ&コンサルティングの呉明憲が紹介します。

ポジショニングと消費者誘導

2012年01月31日 | 日記
 中国には多くのホテルがあります。それこそ超高級の5つ星ホテルから招待所まで多くのランクにわたって存在しています。最近ではモーテル168、漢庭、如家のようなチェーン型エコノミーホテルと呼ばれる比較的リーズナブルなビジネスホテルも多く現れてきており、利用する側からしても選択肢が多くなってきています。このような中で、布丁酒店というホテルが現れました。このホテルのポジショニングは、チェーン型エコノミーホテルに泊まる人でもなく、招待所に泊まる人でもなく、その間を狙ったものです。

 

創業者はもともとホテル業界を経験してから起業したのですが、チェーン型エコノミーホテルはどれもこれも外観が似ていること、一線・二線都市のビジネスマンを狙っていること、同じようなところに立地し、多くの都市でエコノミーホテル街のようなものができてしまっていること、要するに差別化が図れないままに同じカテゴリーの中でパイの奪い合いをしているように感じたといいます。 

チェーン型エコノミーホテルの価格帯に泊まれない人は招待所レベルのところに泊まることになります。チェーン型エコノミーホテルと招待所の価格差は50100元くらいといったところですが、価格レベルにしては価格差は大きいといえます。利用者としても治安面、衛生面とも劣る招待所には決して泊まりたいわけではないのですが、やむを得ず招待所を利用してきた人も少なくありません。ここに商機を見出しこういう層を対象にしたのが布丁酒店です。ターゲット層は1835歳、月収20006000元レベルの人です。 

 チェーン型エコノミーホテルは三ツ星ホテルをベースにファシリティーを減らすという方法をとることで価格を抑えています。例えばレストラン、会議室、サウナ、ショップをなくしたり、アイロン、クローゼット、湯船等の客室内のファシリティを減らしたりです。布丁酒店はチェーン型エコノミーホテルをベースにさらにファシリティを減らすという方法をとりました。まず朝食をとるレストランをなくしました。客室面積も減らしました。歯磨き、石鹸といった等もなくしました。こうしたことを通じて招待所以上チェーン型エコノミーホテル未満の価格帯を実現しました。しかしながら、利益率は決して劣らない水準です。しかしやはり一番インパクトの大きいのは部屋面積の小ささで、注号のホテルは割とゆったりとした面積のところが多いのですが、布丁酒店の客室面積は約11㎡(7畳弱)しかありません。スタートしたばかりの時は全く受け入れられず、稼働率も20%にも至らない状態でした。それでも差別化したポジションを維持するために価格帯や客室面積はあえて変更せず、利用者の意見を集めながら微修正を行い、また、若者が集まるエリアでのプロモーションも行い、こうした努力を通じて3か月後には稼働率が80%を上回るようになり、今ではほぼ満室状態になっています。

この勢いで2つ目にトライしたのですが、ここで創業者はさらなる挑戦を行いました。部屋をもっと狭くしたのです。なんと従来の約半分の5-6㎡にまで小さくしました。カプセルホテルほど狭いわけではないですが、中国のホテルとしてはかなり革命的な面積といえるでしょう。しかしこれも当初はなかなか受け入れられず、軌道に乗るまでには7か月を要しましたが、今ではドル箱の物件となっています。これらの動きを通じて創業者は消費者がどこまでなら受け入れられるのかを知ることができたというのが収穫といいます。そして、消費者のニーズは尊重しないといけないものの、すべてに対応するのも現実的でなく、また限界もあります。消費ニーズにすべてこたえるよりもむしろ誘導する必要がるのもだと認識したとのことです。ムーブメントを作り出したということですね。

この布丁酒店の動きから読み取れることとしては二つあります。一つは自社のポジショニングを明確に定めたことです。他との競争に巻き込まれないためにどこを狙うべきか、そのためにはどうすべきか、それを突き詰めた結果が多くのファシリティを削って低価格を打ち出したという点です。そしてもう一つが消費者誘導です。消費者に100%満足してもらうことが勿論理想ではありますが、コストとパフォーマンスを切り分けるのではなくコストパフォーマンス一体で考えた場合、どうしても削らざるを得ない部分が出てきます。布丁酒店の場合はどこまで削れるかを試し、最終的には消費者がそれを受け入れる方向へ誘導することができました。しかし、それができたのも究極的にはやはりポジショニングにブレがなかったところにあるといえるでしょう。

日系企業が中国で事業展開する場合、最初から何事もうまくいくとは限りません。俗に成功しているといわれる日系企業も過去に苦い思いをしながら、それを糧にした今日の成功につながっているといえるでしょう。そういう意味では、事業を始めるに自社のポジショニングはどこに置くべきか、ターゲットとしてはどこが狙い目か、うまく行かなければどのように修正すべきか、そしてもう一つ成功の基準をどこに置くべきかが大事といえるでしょう。特に成功の基準を設けていない場合、何を以って成功なのかあるいは失敗なのかがはっきりせず、ただずるずると事業を続けていく羽目にもなりかねず、あらためてその重要性をフォーカスを当てる必要があるといえるでしょう。


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