日々の恐怖 11月30日 おります
消防団員のHさんの話です。
その日は朝早くから行方不明者のおばあさんAさん(70歳くらい)の捜索が行われた。
いなくなったのは前日の早朝だった。
同じ敷地内に住む長男家族がAさん宅を訪れた時、朝食のご飯が炊かれた状態で炊飯器の中にあり、味噌汁もまだ温かいままだった。
“ 近所の商店まで買い物に行ったのだろう。”
程度に考え、その時はスルーしたらしい。
しかし、午後になっても家に帰ってくる様子は無く、おばあさんの家の朝食も食べられずにそのままだった。
夜になっても帰って来ないので警察に連絡したそうだ。
その日の夜は消防署と警察で夜間捜索が行われたが発見できず、翌朝になって俺達地元消防団、総勢120名を使っての一斉捜索が行われる事になった。
家族の談ではAさんは足が弱く病院に通っていた。
そして、いつも押し車みたいな歩行器を使って歩いている。
だからそれほど遠くまで歩いて行けない。
日頃はせいぜい近所の小店に行く程度だった。
家には歩行器は無く、外出用の靴(普段履きでは無く、ちょっと畏まった場に行く時履いていた靴らしい)が1足無くなっていた。
着ていた服は家族の推測で、普段来ている普通のシャツにズボンのようだった。
それほど遠くに行けないはずなので、事故にせよ、自殺にせよすぐ見つかるだろうと思っていた。
しかし、4時間探して手がかり無し。
地元は結構な田舎で、山の中とか海辺とか、Aさん宅の周辺を道無き道まで捜索した。
徒歩で出かけて無い可能性も考え、地元のタクシー会社、交通機関の全てに連絡したがそれらしい情報は無い。
交通事故に遭い、加害者が死体を隠した、とかの可能性が高くなったが、警察が何処を探しても事故の痕跡は無い。
結局、二日間に渡って行われた捜索でAさんを発見する事は出来なかった。
それから1年と少し経ち、その件も忘れかけた頃だった。
警察が作った顔写真入りの捜索願の張り紙も随分色あせ、たぶんAさんのお孫さんが手書きしたものをコピーしたと思われる、
“ おばあちゃんを探しています ”
の張り紙も文字が読めないほどになっていた。
そんな頃、警察にAさんの目撃情報が複数寄せられた。
どれも、
「 背格好も顔も服装も、歩行器を押して歩いている姿も、Aさんに違いない。」
という電話だった。
ところが目撃情報が寄せられる場所がバラバラで、Aさん宅の周辺から十数キロ離れた場所まで広がっていた。
警察も情報にそって捜索を再開したが、やはり発見できなかった。
ただ一つ共通しているのは、その目撃現場の近くには必ずお孫さんが書いた張り紙が掲示してあると言う事だった。
そして、その目撃現場にあるどの張り紙にも、一番下の空白の所に鉛筆で一言、
“ おります ”
と書き足してあった。
未だにAさんは見つかっていないし、もう家族も警察も諦めていると思う。
ちなみに、その“おります”という書き込みであるが、ガラスケースに鍵がかかるタイプの掲示板の張り紙にも書き込まれていた。
鍵は公民館の管理者が持ってるので、開けて書き込む事は難しいと思う。
“おります”の意味はきっとAさんがお孫さんに対して“いつもそばにいて見守ってるよ”と言っているんだと、勝手に自分なりに解釈しています。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ