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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 2月25日 箱根

2014-02-25 19:02:28 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 2月25日 箱根



 K子さんは先月の末、妹さんと二人で箱根の温泉旅館に行ったそうです。
その旅館は古くて由緒ある旅館、文豪が定宿にしていたような旅館、といえば雰囲気は分かってもらえるでしょうか。

 二人は温泉も気に入り、お食事もおいしくいただいた後、部屋でくつろいでいました。
しばらくして、どちらからともなく、階下へ行ってお土産でも見て近くを散歩でもしようと言い出し、そろってロビー階へ降りました。
 途中、何人もの仲居さんたちとすれ違いました。
ビール瓶のケースやスリッパがたくさん並んだ広間があり、閉じられた襖の向こうからにぎやかな声が聞こえてきます。

「 宴会だね。」
「 そうだね。」

とりとめもない会話をしつつ、二人はロビー階へ到着。
 ロビーといっても、従業員が常時いるようなホテルとは違い、ひっそりとしていました。
二人は、そこでお土産や宿の歴史が書かれたパンフを見たりし、その後お庭を散歩して、夕食後のひとときを過ごしました。
 そして数十分たった頃、肌寒くなったので部屋へ戻ろうということになりました。
二人は階上の自分たちの部屋へ向かいます。
 ところが、自分たちの部屋がみつからないのです。
さほど大きな旅館でもなく、たいして複雑な造りでもないにもかかわらず、何故か部屋にたどり着けない。

「 この年で迷子になるなんてね~。」

仲居さんか誰かに尋ねようと、きょろきょろ辺りを見回す二人。
その時、妹さんが言いました。

「 おねえちゃん、なんか変じゃない?」

そう言われてK子さんも気づきました。
辺りがいやに静かなのです。
宴会が催されていたはずなのに、廊下には仲居さんの姿はありません。
 かの広間の前には、スリッパやビールケースこそ並んでいるものの、宴会の声もまったく聞こえない。
辺り一帯、人の気配がないのです。
訝しく思いながらも、二人は廊下や階段を行きつ戻りつ自分たちの部屋を探しました。

「 ねえ、こんなとこに廊下あったっけ?」
「 ドアの造りが、私たちの部屋がある階とはちがうよね。」
「 ここ、さっきも通らなかった?」

 そういえば、踊り場で見た盛り花や絵画もどこか記憶と違う。
若冲のような絵だったのが、竹久夢二の美人画に変わっている。
別の場所で見たものをここで見たと勘違いしてるだけだろうか。

 最初こそ迷子気分を楽しんでいた二人でしたが、だんだん怖くなりはじめました。
降りた階段とは別の階段を上ったり、その逆をしてみたりを繰り返していると、予想とはちがう様子の廊下に出てしまうこともありました。

「 動けば動くほど、ここがどこだか分からなくなる。」
「 さっき、踊り場こんなに狭かった?」

そしていよいよパニック寸前、というところで、その人は突然現れました。

「 どうかなさいました??」

振り返った二人の目の前には、茄子紺色の丹前を羽織った初老の女性が立っていました。
不思議そうにそう尋ねた女性に、ふたりは安堵の面持ちで言いました。

「 私たち、自分の部屋が分からなくなっちゃって。」

しかし、それを聞いた女性は、さも可笑しそうにカラカラ笑うだけで、そのまま行ってしまったんだそうです。

 がっかりした二人が自分たちの部屋を見つけたのは、再び自分たちの部屋を探そうとした直後のこと。
部屋に戻って安堵のため息をつきながら、さきの女性の不親切を愚痴るK子さんに、妹さんは言ったそうです。

「 あのおばさんが戻してくれたんだよ。」
「 どういうこと?」
「 おばさんが去ってくとき、なんか空気変わった感じがした。
ぼにょーんって歪んだみたいな。」
「 え?」
「 あの人、そういう係なんだと思う。」

ちなみに、K子さんの妹さんは幽霊を見るような霊感はないそうですが、ただ非常に感受性が強く、普段からとても勘の鋭い人だそうです。
 結局、怖い思いをした旅館に二泊もしたくないということで、翌日の宿泊はキャンセルすることになりました。

「 何か不手際があったでしょうか。」

と聞く従業員に、

「 なんかちょっと怖くって。」

とだけ言うと、その従業員はそれだけで合点がいったという面持ちで、

「 分かりました。」

と答えたそうです。

 地元のタクシーの運転手さんの話によると、その旅館のある一帯の地域では、以前から同様のことが起きるそうです。
雑木林の中や宿泊施設の裏の遊歩道など、屋外でも起こるらしく、そういう時は必ず人の気配がなくなるのだそう。
 そして迷った人々が元きたところへ帰還する直前には、いつも朗らかな初老の女性と出会うのだとか。

「 怖いことはないんですよ。
いっとき迷っちゃうだけでね。
磁場っていうんですかね、それが狂うのが関係してるって言う人もいます。
ただ、それとおばさんとが、どんな関係かは分かりませんけどね。」












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