透明な気圏の中から

日々の生活の中で感じたこと、好きな作家についての思いなどを書いてみたいと思います。

日野原重明著『道は必ずどこかに続く』

2017-08-18 22:55:04 | 

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先日、亡くなられた日野原重明氏の著書です。

この本の中で、「ペイ・フォワード」という考え方について触れられていた箇所が印象に残りました。

日野原氏が他者に善意を伝えることの重要さに気づいたのは、かつて、ハイジャック事件の人質となって、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた経験があったからです。

2000年に公開されたアメリカ映画『ペイ・フォワード』は、氏が日ごろから考えていた思いと合致した内容で、大きな感動を持ったと綴られていました。

私はこの映画を見ていないのですが、日野原氏のわかりやすい語りによって、感動的な場面を思い浮かべることができました。

「ペイ・フォワード」という意味について、また、それを一少年が提案するに至ったエピソードについて綴られたものの一部を引用させて頂くことにします。


場面は変わって中学校の新学期。主人公のトレバー少年が教室に入ると、そこには新しく担任になった社会科のシモネット先生が待ち受けていました。先生は生徒たちを見回すと、こんなふうに話し出します。

「きみたちは世の中のことを考えたことがあるかね。きみたちはいずれ大人になり、世間に出ていくだろう。そこには新しい世界が広がっている。きみたちは自由になれるんだ」

ワーッと 歓声を上げる生徒たち。それをさえぎるように先生はつづけます。

「でも、きみたちを取り巻く世間がきみたちの考えるようなものでなかったら、どうする?世の中がきみたちにとって失望でしかなかったら、いったいどうしたらいい?」

子どもたちは誰も答えられません。

「そのときは、きみたちで世の中をチェンジすればいいんだ」

そういって先生は黒板の文字を指さします。そこにはこう書かれていました。

〈世界を変える方法を考え、それを実行してみよう〉

「これを、今後一年間のきみたちの課題にしておく」

シモネット先生は生徒たちに、そう告げました。


この課題にこたえてトレバー少年は奇想天外な方法を考えつきます。見ず知らずの三人の人たちに何かの手助けをする。そして、その三人には「ぼくにお礼をしなくてもいいから、ぼくと同じように見ず知らずの三人に善意を示してほしい」と頼む。

これがトレバー少年の「世界を変える方法」でした。

英語には「ペイ・バック(pay back=恩返し)」という単語があります。「ペイ・フォワードpay forward)」とは人から善意を受けたとき、その善意を受けた人に返すのではなく、誰かほかの人に伝える、という意味になります。つまり、payするのがback(元に)ではなく、forward(次に)ということですね。正確にいうと映画の原題は「Pay it forward」。

日本語の字幕では「次に渡せ」と訳されていましたが、今、これに当たる日本語として、「恩送り」という言葉もあるようです。

「ペイ・バック」では.なく、「ペイ・フォワード」。その繰り返しをどんどん繰り広げていけば、善意の輪は無限に広がって、やがて、それは世界を変えていくほどの巨大な力になるはずだー。トレバー少年は考えました。

 



シモネット先生が投げかけた問いは暗記したくなるほど素晴らしく、それに応えたトレバー少年のアイデアは想定を超えたものだったといえるでしょう。

日野原氏はこの章の終わりに「人間というものは本来、人のためになりたいという気持ちを内に秘めているものなのではないでしょうか。」と結んでいます。

そうかもしれないと私も思い、そう思うだけでなえそうな心が落ち着くような気がしました。


コメント (2)
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