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人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

絶滅した日本列島のゾウのはなし(33)

2021年04月28日 19時42分07秒 | 絶滅した日本列島のゾウたち
   絶滅した日本列島のゾウのはなし(33)


  9.日本列島に生息した古代ゾウの絶滅原因をめぐって

 (4)エシュケ・ウィラースレフ、メガファウナの絶滅を語る

 いまを生きているわれわれ人間の歴史は、恐ろしいほど長い地球史46億年と比べると、周知のように西暦では2000年余に過ぎないし、ホモ・サピエンスが出アフリカを現生人類の歴史として考えても10万年程度です。

 諸説あることは分かっていますが、言って見ればほんに短い歴史なのです。ですから、われわれ現生人は、まだあまり大きな環境の変化は経験していないのです。少なくとも100万年単位の長い年月を経るといろいろなことが分かってくるのだと思います。

 10万年とか100万年とかの長い時間で、起こった急激な気温変動によって、ある時代は極寒冷化によって植物が育つ事ができなくなり、またある時代には天体衝突や巨大噴火による火山灰の大量な広域降下で、草食哺乳動物が激減し、草食動物を餌にしていた肉食動物が絶滅してしまったことも推測出来ます。

 大規模な気候の変化は多くの動物が絶滅する引き金となって、それまでの生態系が大きく変化するきっかけにもなっています。

 英国の科学雑誌『ネイチャー』誌のジャーナリスト、E・キャラウエイ(Ewen Callaway)が書いた2011年の論文が『ネイチャー』に掲載され、2012年には『ネイチャー・ダイジェスト』 Vol.9 No.1に、ダイジェスト(要約)した内容が載っています。その日本語版の「大型動物はなぜ消えた?」(翻訳:小林盛方氏)によりますと、「最後の氷期以降に起こった大型動物の大量死は、さまざまな要素が重なったためである」、とされています。その一つが気温だと考えられます。

 すなわち、「化石、気候記録、およびDNAに関する大規模で(かつ精細な)分析の結果、マンモスやケサイ*などの大型動物は、さまざまな致命的な要素が絡み合って絶滅したものという報告が先頃あった。コペンハーゲン大学(デンマーク)のEske Willerslev教授をリーダーとする研究チームは、大型動物相の6種について過去5万年にわたってそれらの運命を調べ、人類が関与してと見られる絶滅は一部であり、大部分は気候の変化と生息地の喪失が関係していると結論付けた。しかし、大量死の理由を説明する明確なパターンは見いだされず、現生種について絶滅のリスクを生息地や遺伝的多様性から予測するのは不可能である」と、その絶滅原因の解明の難しさについて指摘しています。

 以上の調査を参考にしましても、日本列島におけるアケボノゾウなど大型草食哺乳類がなぜ姿を消したか、その原因を突き止める難しさが理解できます。上記のネイチャーからの引用文にもありますように、エシュケ・ウィラースレフ(Eske Willerslev;1971-)教授の研究チームの報告内容にありますように、巨大な火山噴火や気候変動がもたらす植生と草食系メガファウナ(megafuana)の「餌」との関わりを考えて見ることが重要で、絶滅原因を導く手がかりの一つともなり得るのではないか、そのようにも考えられるのです。

 エシュケ・ウィラースレフ教授らが指摘している「生息地の喪失」は、極寒冷化によっていわゆる「餌場」となる地帯が失われたり、巨大噴火による広域にわたる噴煙の影響、テフラの降下による生息地の喪失が考えらえます。ここで寒冷地とは、北極圏の陸地部分を指しています。北極点は氷の海ですがその沿岸には多くの国々があります。

 また現代の科学技術で測定された北極点の年間の平均気温は-6.2℃、南極点のそれは-49.5℃、最極寒温度は-89.2℃だそうです。南極は大陸ですが、樹木は生えていませんし、動物もペンギン、くじらなど限られています。それに対して北極はホッキョクグマやあざらしなどがおり、両極の生物の生態系は全く異なります。

 (注)
 上記「 」内の*印は、筆者が付けました。ケサイとは極寒の地帯に生息する「ケブカサイ」のことです。学名をCoelodonta antiquitatis と言います。
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 とくに、エシュケ・ウィラースレフ教授のこの指摘は、日本列島における後期更新世の後半に姿を消したナウマンゾウの絶滅原因を考える上でも重要な示唆となり得ると思うのです。エシュケ・ウィラースレフ教授はまた次のようにも述べています。

 「過去5万年にわたる北極圏の植生のDNA分析を行った結果、温暖化説に新たな要素が加わった。大型動物が絶滅したのは、餌としていた植物が十分に食べられなくなったためだ」、と言うのです。その理由として、2万年前頃から1万年前頃にかけて、北極圏での植生が大きく変わったこと、その理由は、おそらく10万年単位で引き起こされる地球気候の変動によってだと思いますが、極寒地帯の多くの広葉樹や広葉草本植物がほぼ絶滅状態になり、姿を消していったことが、ケナガマンモスなどメガファウナと言われる巨大な動物の「種」の絶滅に結びついたのではないか、と推測できるとも述べています。

 なお、エシュケ・ウィラースレフ教授は、英国ケンブリッジ大学の教授でもあり、日本でも京都大学で、第2回稲盛財団合同京都賞シンポジュウム(2015)に招聘され、来日しています。

 以上、33回に亘って連載しました「絶滅した日本列島のゾウのはなし」は、ひと先ずここで終わりにして、「絶滅した日本列島のゾウのはなし(Ⅱ)」で、「消えたゾウたち、その謎を追う」と題して、新たに大絶滅に言及してみることにします。


(文献)

(1)エリザベス・コルバート(鍛原多恵子訳)『6度目の大絶滅』・NHK出版、2015.
(2)ジェームズ・ローレンス・パウエル(寺嶋英志・瀬戸口烈司訳)『白亜紀に夜がくる―恐竜の絶滅と現代地質学』・青土社、2001.
(3)松井孝典『新版 再現!巨大隕石衝突 6500万年前の謎を解く』・岩波科学ライブラリー155(岩波書店)、2009.
(4)松井孝典『天体衝突 斉一説から激変説へ 地球、生命、文明史』・講談社(BLUE BACKS)、2014.
(5)松井孝典『松井教授の東大駒場講義録-地球、生命、文明の普遍性を宇宙に探る』・集英社新書(0321)、2005.
(6)吉川浩満『理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ』・朝日出版、2014.
(7)平野弘道『繰り返す大量絶滅 地球をまるごと考える7⃣』・岩波書店、1993.
(8)ディヴィット・M・ラウプ『大絶滅 遺伝子が悪いのか運が悪いのか?』・平川出版社、1996.
(9)ニコライ・K・ヴェレシチャーギン(金光不二夫訳)『ンマンモスはなぜ絶滅したか』・東海大学出版、1981.
(10)金子隆一『大量絶滅がもたらす進化 巨大隕石の衝突が絶滅の原因ではない? 絶滅の危機がないと生物は進化を止める?』・サイエンス・アイ新書、2010.
(11)山崎晴雄・久保純子『日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語』・講談社(BLUE BACKS)2017.
(12)山賀進『日本列島の地震・津波・噴火の歴史』・ペレ出版、2016.
(13)川上紳一・東条文治『地球史がよくわかる本 「生命の星」誕生から未来まで』・秀和システム、2006.
(14)巽好幸『地球の中心で何が起こっているのか 地殻変動のダイナミズムと謎』・幻冬舎新書、2012.
(15)川那部浩哉監修、高橋啓一『化石は語る ゾウ化石でたどる日本の動物相』・八坂書房、2008年.
(16)入間川足跡化石発掘調査団編『改訂版アケボノゾウの足跡』・入間市博物館、2003.
(17)磯崎行雄「大量絶滅―生物進化の加速装置」・『生命誌ジャーナル』、2005年春季号。
(18) 高橋啓一「日本象化石、その起源と移り変わり」・『豊橋市自然史博物館報』・No.23、2013.
(19)樽 創「日本の固有のゾウ「アケボノゾウ」・『化石』(ふぉっしる)73、2003.
(20)樽 創「化石の古さ(アケボノゾウ)」・『自然科学のとびら』第10巻第1号、2004.
(21)堀口万吉・三島弘幸・吉川健一「埼玉県狭山市笹井より発見されたアケボノゾウについて」・『地球科学』32巻1号、1978年.
(22)雨森清・小早川隆・多賀町ゾウ化石発掘調査団「滋賀県多賀町の古琵琶湖層群より発見されたアケボノゾウ(予報)」・『地質学雑誌』第101巻第9号、1995.
(23)アケボノゾウの会「長野県東御市で行われている[アケボノゾウの会]の活動・『地学教育と科学運動』69号、2013年.
(24)長野市立博物館「東部町産アケボノゾウ化石」・『博物館だより』第30号、1994.
(25)町田 洋・新井房夫「広域テフラと考古学」・『第四紀研究』第22巻第3号、1983.
(26)宝田晋治「阿蘇4・姶良・洞爺噴火の火砕流・降下テフラの分布と噴出量推定」、2019.



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