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人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

始祖鳥についての改訂増補版(6)

2024年04月24日 08時09分52秒 | 絶滅と進化
 始祖鳥は「鳥類」なのか、それとも「恐竜」なのか(6)
          

第2章 始祖鳥は「鳥綱」に分類してもいいのだろうか?-その特徴を考える-

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 英国の生物学者、T・H・ハクスリーの鳥類の起源に関する研究は、同じく英国の高名な自然科学者で地質学者だったチャールズ・ダーウィン(Charles Robert Darwin , 1809 – 1882)による『種の起源』が出版(1859)された直後から始まったと言われています。
T・H・ハクスリー は、チャールズ・ダーウィンの自然選択に基づく新しい進化理論に対して厚い信頼をおく英国の古生物学者としても高い評価を得ていました。また、彼は、鳥類と爬虫類の間の移行化石として、始祖鳥に注目しました。
           
トマス・ヘンリー・ハクスリーの鳥類の起源に関する科学的研究は、1859チャールズ・ダーウィンの『種の起源』(1859)が出版された直後から始まったと言われています。前述のように1860年、化石化した羽毛がドイツの後期ジュラ紀のゾルンホーフェン地層の石灰岩から発見されたことを踏まえて、1861年ヘルマン・フォン・マイヤーがこの1本の羽毛を研究し、 Archaeopteryx lithographica として学術上の記載を成したものなのです。

さらには、「比較解剖学の基礎」で知られるドイツのカール・ゲーゲンバウアー (Karl Gegenbaur、1826-1903)やコープの法則で知られる米国の古生物学者で比較解剖学者、エドワード・ドリンカー・コープ(Edward Drinker Cope、1840-1897)による示唆を踏まえて、T・H・ハクスリーは、1868年から始祖鳥と様々な先史時代爬虫類との詳細な比較研究を行い、ヒプシロフォドン(Hypsilophodon:約1億3,000万年~1億2,500万年前、中生代白亜紀前期の英国に生息していたと言われている恐竜)やコンプソグナトゥス(Compsognathus:1億5000万年~1億4600万年前のジュラ紀後期に生息した恐竜で、フランスやドイツで発掘された)のような恐竜類と最も類似性があることを明らかにしています。とくに1870年代後半に発見された始祖鳥の象徴的な「ベルリン標本」は爬虫類的な歯を兼備していたことに注目しています。E・D・コープと同じように、T・H・ハクスリーは鳥と恐竜の間に進化上の関係性があることを解明しています。

始祖鳥が現生鳥類の祖先であるかどうか、また分類学的に始祖鳥が現生鳥類(例えば、鳩やスズメなど)と同じ「綱名」、同じ「目名」でいいのか、例えばスズメは鳥綱、スズメ目、スズメ科、スズメ属、そしてスズメ種と分類されますが、始祖鳥の標本(Specimen)を観察したとき、鋭い歯に、前肢の翼の鋭い鉤爪に、ただただ驚き、本当に「鳥綱」に分類できるのだろうかと、国立科学博物館の始祖鳥の「ベルリン標本」を見たときには、驚きを隠しきれませんでした。

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 『白亜紀の自然史』(東京大学出版会、1993)、『恐竜学』(東京大学出版会 1993)など恐竜研究で知られる日本の古生物学者で、国立科学博物館研究員、名誉館員を歴任された小畠郁生(1929-2015)博士は、始祖鳥の特徴について、次のように解説されています。
「始祖鳥は基本的には爬虫(はちゅう)類型、とくに獣脚類の中空の骨格をもつが、鳥類的な特徴が認められるだけでなく、前肢、胴、尾に典型的な鳥の羽毛をもつので、両者の中間的動物とされる。目が大きく、嘴(くちばし)状の口には歯が発達し、鳥に似た後肢には前向きのつめをもつ3本の指と、後ろ向きの短い1本の指がある。長い尾には骨格の中軸があり爬虫類の特徴を示す。前肢には細い肩甲骨、細長い腕骨、長い3本の指がある。鎖骨を除くと、始祖鳥の骨格は鳥よりも小形の肉食恐竜に似る。3本指の手の配列もオルニトレステスOrnitholestesなどの恐竜に似る。足に3本の指と後ろに曲がる短い1本の指をもつことは鳥の足にそっくりであるが、ほとんどの肉食恐竜がそれと酷似した足を示す。手首と足首の形状も恐竜に似る。鳥にあるはずの飛行のための強力な筋肉を取り付ける胸骨は始祖鳥にはなく、この点でも肉食恐竜に似る。また鳥では肩の関節と胸骨の間に頑丈なかすがいがついており、筋肉の力を集中させる働きをしているが、始祖鳥のそれは貧弱で小形の肉食恐竜類のものと似る。」(『日本大百科全書』小学館、小畠郁生執筆部分から引用。)

また、米国ワシントン大学の古生物学者として知られるピーター・D・ウォード(Peter D. Ward 1949- )『恐竜はなぜ鳥に進化したのか:絶滅も進化も酸素濃度が決めた』・垂水雄二訳(文春文庫819)300頁において、「恐竜に気嚢はあったか?」を論じています。それに先だってウォードは「鳥類の気嚢システム」(297頁)に言及しています。

鳥類は、人間の場合と違って「呼吸するたびに大きく膨らんだり収縮したりすることがない」、鳥類の胸部は呼吸に大きく関わっているのだと指摘しています。とくに骨盤に一番近いところにある肋骨は、胸骨の底部との接続部で非常に可動性があり、この可動性が呼吸を可能にするうえできわめて重要であるが、それだけでない。すなわち、現在の爬虫類や哺乳類と大きく違っている点は鳥類の肺が気嚢と呼ばれる付属気管をもっていることだ、と指摘し鳥類の呼吸システムの効率化をもたらしていることだとも指摘し、また鳥類は気嚢をうまく使って呼吸するための特性を生かせるように骨格を進化させたのだと述べています。

「現生鳥類の呼吸システムは、付属気管としての気嚢をもつ小さな肺から構成されており、気嚢そのものも呼吸に用いられる。肺と気嚢があいまって、他のいかなる陸生動物の肺よりも多くの酸素を取り入れることができる」ので、標高の高いところも難なく飛ぶことができるというわけなのです。ところが始祖鳥には、この気嚢に似た機能はあったという説もありますが、それは現生鳥類の気嚢システムと全く同じであったと言えるものではなく、したがって飛翔能力が十分だったとは考えられないのです。
 しかしながら、ピーター・D・ウォードは、われわれは鳥類が、最初の恐竜と同じ系統-竜盤類(トカゲのような骨盤を持つ)と呼ばれるグループ-に属する小型の二足歩行爬虫類から進化したことを知ってはいますが、鳥類の肺に付属する気嚢は柔らかい組織であるため、化石として残ることは殆どないため、ましては1億5000万年も前に生息していた始祖鳥が、たとえ気嚢システムを有していたとしても、その気嚢システムが現生鳥類のように機能していたかどうかの証拠となる化石等の資料を示すことはきわめて難しいであろう、と言っています。

 始祖鳥が鳥類とされる考え方の根拠のひとつは羽毛だったと考えられます。1861年、ドイツのバイエルン州ゾルンホーフェンのジュラ紀後期の地層である石灰岩の石切場から1枚の羽毛化石が発見された当時、羽毛をもつ生物は鳥類しか知られていなかったのです。しかし、20世紀に入ってから中国を中心に羽毛恐竜の化石の発見が相次ぎました。その結果、もはや「羽毛」だけでは鳥類の「証し」とは言えなくなったのです。

いろいろな見方はあるのですが、ここでこれまで述べたことを踏まえて、始祖鳥の特徴を整理してみますと、以下のように、一つは爬虫(はちゅう)類の特徴、二つには鳥類の特徴を備えていたことが指摘出来ると思います。
すなわち、爬虫類の特徴として
1. くちばし状の口に小さな円錐形の小さな歯を持っていた
2. 翼の先の指には小さな「カマ形の鉤(かぎ)爪」(シックルクロー)をもっていた
3. 尾骨があった
4. 長い尻尾を持っていた
また、鳥類の特徴として
1. 翼があった
2. 全身に羽毛が生えていた
3. 風切り羽を持っていた
以上のように爬虫類と鳥類の特徴を合わせ持っていました。

『ネイチャー』に掲載(1998)の論文には、始祖鳥にも気嚢に相当する機能があったとする内容が記されています。
これも諸説あるのですが、始祖鳥の体重は200~250グラム程度と言う説、大きいので500グラムという説もあります。全長は、尻尾が長かったので50センチほどあったのではないかと考えられています。我孫子市の毛賀沼の側にある「鳥の博物館」に常設展示されている始祖鳥の想像的な復元標本は実にリアルに創られています。が、どう見ても現生鳥類の祖先とは素直には思えないのです。

 始祖鳥の三つ目の特徴として、「恥骨」の形が指摘されています。専門家の先生方によりますと、始祖鳥の「恥骨」の形は、現生鳥類と肉食恐竜類を比べたときその中間だと指摘されています。
始祖鳥の風切羽は、現生鳥類と同様に非対称で有ることがわかっています。尾羽はやや幅広になっていて、主翼と尾翼は揚力を持っており、したがって短い距離であれば飛翔できたのではないか、と考えられるのです。しかしながら、よく見かける始祖鳥の羽ばたくような想像画を見かけますが、現生鳥類のように自力で羽ばたくのは不得手であったというのが専門家の先生方の大方の見方です。



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