素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

始祖鳥についての改訂増補版(8)

2024年05月07日 11時32分50秒 | 絶滅と進化
     始祖鳥は「鳥類」なのか、それとも「恐竜」なのか(8)
          


    第2章 始祖鳥は「鳥綱」に分類してもいいのだろうか?
-その特徴を考える-

            

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  この化石の持ち主だったカール・ヘーベルライン(Carl Haberlein)は、始祖鳥などの古生物の化石が産出する地元の医師でした。彼は、採石夫たちからしばしば治療費の代わりに化石標本を受け入れていました。このコレクションの中の一つが始祖鳥でした。
  アーケオプテリクスの最初の骨格化石の発見後、初めて鳥類と恐竜類の類縁関係(近縁性)を主張したのは、チャールズ・ダーウィン(Charles Robert Darwin , 1809 – 1882)による『種の起源』が出版(1859)された直後、ダーウインに厚い信頼をおいていたトマス・ヘンリー・ハクスリー(Thomas Henry Huxley、1825–1895)であったとされています。
  しかし、始祖鳥(Archaeopteryx)と現生鳥類の祖先に関してはいろいろな考え方と言いますか、諸説があります。以前にも紹介しましたが、ゾルンホーフェンの石切場で見つかった始祖鳥の羽根と見られる標本もあります。ところで、少し横道にそれますが恐竜の絶滅について、少し触れておきます。
       
  恐竜学者で進化生物学者の真鍋真(国立科学博物館)さんの『恐竜学』(Gakken、2020)によりますと、「約6600万年前、ほとんどの恐竜は絶滅しました」として、次のように丁寧な説明がなされています。
「約6600万年前、地球に隕石が衝突しました。隕石の衝突で地球の環境が大きく変わり、それまで陸上を支配していたほとんどの恐竜は、食べ物を失って姿を消しました。しかし、一部の食肉恐竜は、中生代ジュラ紀には鳥類に進化していました」と。そして、「約1億6000万年前、地球の陸上を支配していた恐竜は、ほとんど姿を消しましたが、一部は鳥類に進化し、現在も生きている」のだと言うのです。それゆえ、現在の鳥類は、恐竜の生き残りであるとも考えられると言うわけです。つまり、恐竜が鳥類に進化しているとしますと、「恐竜は絶滅していないともいえる」と、言うのです。したがって、一言で言えば「現生鳥類の祖先は恐竜」と言うことですね。

  始祖鳥を現生鳥類の祖先としますと、真鍋さんのような見方はとても面白いと思うのですが、それはそれとして、ここで前回紹介したディヴィッドE.ファストフスキー+ディヴィッドB.ワイシャンベルの共著、『恐竜の進化と絶滅』(瀬戸口美恵子+瀬戸口烈司訳、青土社)をもう一度開いて見ようと思います。

  『同書(恐竜の進化と絶滅)邦訳431頁』で、著者等は「恐竜としての鳥類」というテーマで、ダーウニストとして知られるT・H・ハクスレー(Thomas Henry Huxley、1825–1895)は恐竜と鳥類の二つのグループの間の結びつきに気づいて、「恐竜爬虫類と鳥類の間の親和性の証拠」として、1986年にカリフォニア科学院のJ・A・ゴティエが報告しているように、35の形質の特徴のうち17は、今日においても恐竜と鳥類の近縁性といいますか、「親和性」を語るのに有効な証拠となっていると指摘しています。また、始祖鳥は原鳥類に属する恐竜の一属とも考えられていることを指摘いるのです。
 始祖鳥(アーケオプテリクス)とは、ギリシャ語では「古代の翼」という意味だと聞いています。初めて鳥類と恐竜類の類縁関係を指摘したのは、前にも触れましたが、1860年代になってダーウニストとして知られる、トマス・ヘンリー・ハクスリーでした。

  ところがその後、次々に恐竜の化石が発見されるようになると、ハクスリーが主張していた恐竜と鳥類の近縁性が曖昧になって来ました。というのは、発見された恐竜についての解剖学的分析が進展し、鎖骨(叉骨)が退化していたことが判明したのです。それ故、恐竜の形質特性と言いますか、恐竜が有する「共有形質」として、「鎖骨(叉骨)の退化そして消失」しているというのが専門家のごく普通の認識となったからです。
時代とともに、恐竜と鳥類の起源に関する専門家による研究が飛躍的に進み、鎖骨(叉骨)を持つ鳥類が、鎖骨(叉骨)の退化・消失した恐竜から進化したものだとする仮説は次第に疑問視されるようになりました。しかも専門家の多くが、鳥類や恐竜類など獣脚類の間には類似性を有することを認めています。

  類似性が見られると言う主張に対しては「収斂進化」に過ぎない、と言う見方もあります。すなわち、系統の異なる生物が、似た環境の影響によって、同じような形態へと進化するケースがあるのです。それを専門家は「収斂進化」と呼んでいるのです。
「恐竜と鳥類の間で共有される多くの形態」(『恐竜の進化と絶滅』、432頁)の進化もまた、収斂進化の一つではないかと考えられているのです。
 
  1973年、鳥類の獣脚類からの進化説を甦らせたと言われるのが米国の古生物学者ジョン・オストロム(John H. Ostrom、1928-2005)でした。オストロムは、獣脚類にも鎖骨を持つ事例はあるとしています。
こういう言い方が出来るかどうか少々不安はあるのですが、オストロムの偉大なところは、恐竜概念の新解釈にあったと言えるのでないかと思うのです。彼は、恐竜は「トカゲ」ではなく、大きな飛ばない鳥という解釈です。
また、恐竜が有していた鎖骨(叉骨)の全てが退化、消失していたわけではないことを明らかにしました。そのことによってオストロムは、獣脚類起源説の最大の障害を取り除いただけでなく、鳥類と小型獣脚類のみが形態上共有する特徴を20以上も指摘したのです。

  もう一つ大切なことは彼が1964年、モンタナ州から発見されたデイノニクス・アンティルロプスの化石の研究をしたことです。
デイノニクスは分類学的には爬虫綱、竜盤目、ドロマエオサウルス科、デイノニクス属で、学名は「デイノニクス・アンティルロプス(Deinonychus antirrhopus)」です。学名は、1969年に、J・H・オストロムによって命名されました。オストロムは、デイノニクスが鳥類にとてもよく似た骨格を持っていたことに関心を持ち、鳥類の骨格とデイノニクスの骨格との間に存在する共通点は、たんに収斂進化で済まされないものがあるとしています。
蛇足になりますが、デイノニクスは、白亜紀前期(アプチアン中期からアルビアン先期、約1億1,500万 - 1億800万年前)の北アメリカに生息した肉食恐竜です。

  さて、わたしが指摘できる最後の問題点は、恐竜の鎖骨の有無の問題が解消することで、鳥類の特徴である叉骨、羽毛、翼、部分的に保存されていた親指、そして恐竜類の特徴であるとされる長く突き出た距骨、歯間中隔の存在、坐骨の閉鎖孔突起そして長い尻尾の血道弓(*血道弓とは、恐竜をはじめとする脊椎動物の尾椎の腹側に配列する、棒状の骨の総称で、血道弓の機能とは、尾を出入りする血管が通る部位をいうのだそうです。)を有していた始祖鳥(アーケオプテリクス)は、これらの特徴を裏付けていたと言うことなのです。


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