モーツァルト好きで、映画「アマデウス」は50回以上は繰り返し観ていて、江守徹訳の台本も持っていたりする私。当然、「松本幸四郎inアマデウス」はかねてより1回は観ておきたい…と切望していた。
しかし、演劇方面には疎い私、公演情報をキャッチしたのが本当に遅く、「もうダメか…。」と諦めかけていたのだが、東京千秋楽は僅かながら空席あり…ということで、即電話予約、休暇を取って上京した次第。
この「松本幸四郎inアマデウス」、初演以来、ほぼ30年。これまで江守徹、市川染五郎をモーツァルト役に迎え、400回に渡り上演されてきたが、今回、モーツァルト役に武田真治、そしてコンスタンツェ役に内山理名を抜擢、フレッシュな布陣で新たなるスタートを切ることになった。私が観た東京千秋楽は数えてみると426回目の上演となる。
コンサートについては、年間50回ほど足を運ぶ私だが、演劇については、数年に1回観るか観ないか…という全くの素人。そんな私が、本公演を語るのは気が引けるのだが、素人なりの感想を書かせてもらおう思う。
まずなんと言っても凄いのはサリエリ役の松本幸四郎さん(以下敬称略)の圧倒的存在感。
「そんなの当たり前だろう、幸四郎なんだぞ。」と演劇ファンから一喝されそうだが、「やっぱり、幸四郎は凄い…。」と言う言葉しか出てこない。
幸四郎は最初から最後まで、1部、2部合わせ2時間半近く出ずっぱり、しかも、サリエリだけでなく、解説のセリフ役も担っているので、しゃべりっぱなしというか、もの凄いセリフの量。それを時にシリアスに、時にコミカルに使い分け、グイグイと我々を18世紀末のウィーンへと引き込んでいく。それに、とてももうすぐ70歳になるとは思えないキビキビとした動き。「超一流の役者というのはこう言うものなのか…。」と感心してしまった。
そんな幸四郎に比べると、モーツァルト役の武田真治はどうしても分が悪い…。それに、映画でモーツァルト役を演じたトム・ハルスの笑い声のインパクトが超強力…ということが重なって、第1部は「固い…。ちょっと弾け方が足りないかな…。」と言う印象がぬぐえなかったのは事実。しかし、第2部、次第にモーツァルトが落ちぶれていくシリアスなシーンになると、俄然、武田真治の演技が光り始めて、「やるなぁ…。」と感心。十分、モーツァルト役の大役を果たしてた…と思う。コンスタンツェ役の内山理名さんの演技は文句なし。イメージどおりのコンスタンツェを演じてくれたと思う。
演出も幸四郎が担当しているのだが、当時の音楽状況などをサリエリの口から巧みに説明させていて、映画に比べてかなり分かりやすくなっていたし、筋立てもスッキリしていて大変好印象。ただ、やはり当時の音楽界の状況、オペラ史をある程度知ってた方がより楽しめるとは思ったが…。
宮廷作曲家として栄光の立場にありながら、天才モーツァルトの圧倒的な音楽的才能に嫉妬するサリエリ…、自分の作った曲の数々がモーツァルトの傑作により、死後消え去っていくことが見えてしまっている為、苦悩の末、モーツァルトの暗殺を図る…という本作のストーリーはあまりにも有名なので詳細は省略させていただくが、本作の大きなテーマである「男の嫉妬」を幸四郎は余すことなく伝えてくれたと思う。
人間の本質をつかみだし、2、3時間あまりに凝縮して我々に提示する…、そんな演劇の魅力を十二分に堪能できた「松本幸四郎inアマデウス」。最後は当然、スタンディング・オベーション、満員の観客から惜しみない拍手が送られていた。私も本公演を観ることが出来て本当に幸せだった。
東京公演は本公演をもって終了、これから博多から全国5箇所の地方公演が開始されるとか。もうソールドアウトなのかもしれないが、多くの方に本公演を楽しんでもらいたいと思う。本公演が大成功に終わり、また再演されることを祈念したい。