沖田修一監督は、日本大学芸術学部映画学科出身、「南極料理人」(09年)、「横道世之介」(13年)などで注目されました。彼の新作が、自ら脚本も兼ねた「滝を見にいく」(11月22日公開)で、手作り的な創作方法が実にユニークな作品を生み出しました。滝見ツアーに参加した7人のおばちゃんが、いきなり山の中でサバイバル生活をする羽目になる。「40歳以上の女性・経験問わず」という条件で出演者全員をオーディションし、演技経験のまったくない素人を含む7人の女性をキャスティング。ワークショップを経たのちに、新潟県の妙高高原で10日間の撮影が行われ、ユーモラスな冒険ドラマが完成しました。
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幻の滝を見にいく温泉付き紅葉ツアーに参加した7人のおばちゃんたち。現地に到着した彼女たちは、頼りないガイド(黒田大輔)と一緒に、滝を目指して山登りを始める。木の実を摘んだり、写真を撮ったり、お喋りをしたり、それぞれの楽しみ方で山道を進む7人。ところが、行く先を確かめに行ったはずのガイドが、いつまでたっても戻ってこない。「ねえ、遅くない?」「迷ってたりして」。気が付けば、おばちゃんたちは山の中に取り残されていた。携帯は圏外、食料もなければ寝床もない。突然のサバイバル生活に放り出されたおばちゃんたち。果たして彼女らは、人生最大の(?)ピンチを乗り切れるのだろうか?
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年齢は40代から70代まで。「40歳過ぎたら、女はみんな同じ」が持論の、わがままな美容師。夫を亡くして以来、山歩きが趣味になったパートタイマー。腰痛に悩まされる主婦。オペラ歌手くずれの主婦。ともに離婚体験を持つカメラおたくのコンビ。彼女らが、はじめは勝手に喋りあっていたのが、道に迷って以来、わがままが出たり、角突き合わせたりしていくくだりが愉快だ。それでも、とんがりコーンを道しるべにしたり、互いの身の上を打ち明けあったり。ついに疲労と焦燥から口論を始めるが、夜も迫って野宿を決心。クルミ、栗、キノコ、持参した菓子類を食料にし、大量の葉っぱとレジャーシートで防寒して眠りにつく。
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出演者は、妙高市の地域サポート人である根岸遙子さんほか、劇団員だったり、元オペラ歌手だったり、かつて映画女優を夢見たことがあったりといった人々だが、映画はほぼ未知の領域。沖田監督は、「実際に、おばちゃんとして生きている人に、おばちゃんの役をやってもらいたかった。そして、演技経験のない人と、ある人を組み合わせたほうが面白いんだってことに気付きました」と語る。結果、沖田監督は、おばちゃんたちとコミュニケーションをとりながら作品を完成させたとか。はじめはバラバラだったツアー客たちが、不安が増すにつれて気分がとがったり、やがて団結してサバイバルに向かうくだりが見どころです。満点の星空のもと、おばちゃんたちが奥村チヨの「恋の奴隷」を歌うくだりが微笑ましい。
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性格も、人生経験も、生き方も、それぞれ異なるおばちゃんたちが、山道で迷うことで、衝突しながらも、心を通わせていく…。そして、彼女らが真剣になればなるほど、見るほうはほのかな笑いを誘われる。そこには、見栄も外聞もとっぱずした人間の本質が見え隠れします。強いて難点を言えば、アイデアは抜群に良いのだけれども、各キャラの描き分けがややゆるい。もっとキャラが強く押し出されれば、更に大笑いするブラック・コメディーになったのに…。でも、素人おばちゃんたちに、それを要求するのはちょっと無理かもね。あ、それから、最後におばちゃんたちは無事に滝を見ることができたのでした。(★★★★)