わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

クローネンバーグが挑むハリウッド怪奇の世界「マップ・トゥ・ザ・スターズ」

2014-12-21 15:46:01 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 デヴィッド・クローネンバーグ監督は、カナダ・トロント出身。代表作は、「スキャナーズ」(81年)、「ヴィデオドローム」(82年)、スティーヴン・キング原作「デッドゾーン」(83年)、ウィリアム・バロウズ原作「裸のランチ」(91年)など。超能力者や、日常の事物が歪曲する姿を怪奇・幻想的にとらえながら、社会に潜む不条理を摘出してきた。その彼が、シュールな映像と語り口でハリウッドの虚像の本質を暴き、断罪した作品が「マップ・トゥ・ザ・スターズ」(12月20日公開)です。怪奇趣味をテーマにしてきた、これまでの作風とは一見すると異なるように見えるけれども、ハリウッド・セレブの醜悪さをえぐり出す異常なドラマ作法は、クローネンバーグらしい筆致といえます。
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 ハリウッドに豪邸を構えるワイス家の人々は、成功を手にしたセレブ・ファミリー。家長スタッフォード(ジョン・キューザック)はセラピストで、有名人を顧客にしている。息子ベンジー(エヴァン・バード)はアイドル子役としてブレイク、母クリスティーナ(オリヴィア・ウィリアムズ)のマネージメントのもと、13歳にして巨額のギャラを荒稼ぎしている。そんな一家の日常が、絶縁状態だったトラブルメーカーの娘アガサ(ミア・ワシコウスカ)と再会することで崩壊し始める。いっぽう、アガサを個人秘書として雇った落ち目の大物女優ハバナ(ジュリアン・ムーア)は、亡きスター女優である母親の亡霊につきまとわれ、極度のノイローゼに陥っている。やがてプレッシャーに押しつぶされ、封印されていた秘密やトラウマが露わになったハバナは、為す術もなく破滅への道を転がり落ちていく…。
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 クローネンバーグは、傲慢なセレブの世界をすさまじい描写で断罪していきます。富と欲望に意欲を燃やすワイス一家。スーパーアイドルのベンジーは薬物依存から復帰中で、ライバルの子役の首を絞めるという事件を起こす。また顔や手に火傷のあとがあるアガサは、過去に放火事件を起こして療養所に収容されていたという。またハバナは、謎の焼死を遂げた母親の旧作の再映画化に出演することを望み、他人の不幸も顧みずに役を獲得しようとする。ドラマは、こうしたセレブ族の裸形に、火、焼死、亡霊、幻影、殺人といった要素をからめながら、クライマックス、ワイス一家とハバナの衝撃的な末路へと突き進んでいく。
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 本作は、脚本家ブルース・ワグナーが伝説的なハリウッド映画「サンセット大通り」にインスパイアされ、この街のリムジン運転手として働いていた頃の実体験を織り交ぜて創造したという。劇中にもロバート・パティンソン演じる、脚本家としての成功を夢見るリムジン運転手が登場、アガサやハバナらとかかわりセレブの素顔に接するさまが描かれる。とりわけ、キャリア喪失の危機に瀕した女優ハバナを演じるジュリアン・ムーアの演技に圧倒されます。底知れぬ野心、それと対照をなす不安や孤独、セレブの仮面の下に潜む醜い本性~露骨なセックス・シーン、トイレで示すあけすけな姿、監督への強烈な売り込み作戦、そして底なしの堕落。この体当たり演技で、ムーアはカンヌ国際映画祭最優秀女優賞を獲得した。
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 題名の「マップ・トゥ・ザ・スターズ」とは、直訳すると“スター(セレブ)への地図”となる。劇中には“星座”のイメージが登場するが、栄光のセレブへの階段を昇りつめた登場人物は、虚栄がもたらす悪夢の果てにどこへ行き着くのか? かつてロサンゼルスに行った際、ハリウッドヒルズに建つ有名なサイン“HOLLYWOOD”の文字を憧れの目で見たものです。本作にも、追放先のフロリダからやって来たアガサが、この看板を見るシーンがある。彼女は、ある種の怨念をこめて、このサインを見たのではないか。自己のスタンスを頑なに守るクローネンバーグ監督も、ワイス家と女優ハバナの存在を否定する破壊者アガサと視線を共有しているのではなかろうか、とも思われるのです。(★★★★+★半分)


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