わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

宮藤官九郎、吹石一恵共演で映画化「ゲゲゲの女房」

2010-11-19 18:21:37 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img356_2  妖怪漫画家の水木しげる夫人・布枝がつづった自伝的エッセイ「ゲゲゲの女房」は、NHKの連続テレビ小説となって高視聴率を記録した。それが今回、俊英監督・鈴木卓爾によって映画化されました(11月20日公開)。自主映画出身の鈴木監督は、「私は猫ストーカー」(09年)で長編映画監督デビュー、今回が2作目になる。デビュー作では、猫を追いかける女の子を主人公に、猫の目線で下町の日常風景をみごとにとらえていた。今回も、貧乏時代の水木夫妻の生活との苦闘を、昭和30年代の懐かしい光景とともに丁寧に描きこんでいく。そして、見合いから5日後に始まった、ぎこちない結婚生活と、夫婦の情の通い合いが徐々に進展していく過程を、穏やかなセリフまわしや仕草で、さりげなく描いていく。
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 当時は戦後十数年たち、日本経済も好況期に入ったとはいえ、基本的に庶民の暮らしは豊かではなかった。特に、売れない漫画家だった水木家では、質屋通いも日常茶飯事、食パンの耳も、野道にはえる草木も大切な食料源となる。そして、夫・しげるは夜遅くまで漫画を描き続け、布枝もそれを手伝う。その辺の日常描写が実にリアルです。同時に、さまざまな憎めない妖怪たちが登場、水木漫画が動画化されて挿入されたり、水木の戦争体験などの幻想シーンが織り込まれていきます。いわば、日常的リアリズムと寓話性の融合。水木家の部屋にかけられた古い掛け時計が、いつの間にか質に入れられて姿を消し、ラストで戻って来た掛け時計を示すことで、水木の将来への展望を示すくだりなどはみごと。
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 しげるの使いで出版社を訪れた布枝が手渡された原稿料は、約束の半分。しげるが書く暗い漫画は人気が出ず、貸本漫画業界でも借り手はいないという。所得の申告が少なすぎるというので、あるとき税務署員が訪れてくる。おとなしい夫しげるが、「お前たちに、おれたちのことがわかるか!」と怒鳴りつけるくだりが痛快だ。水木しげる(本名=武良茂)を演じるのは、脚本家・構成作家・映画監督・俳優の宮藤官九郎。無口で、とぼけたキャラクターが絶品。主役の布枝夫人には、「雪に願うこと」「THE LAST MESSAGE 海猿」の吹石一恵。おっとりした性格の夫人像が好感度大。明日の見えない時代を生き抜く夫婦像は、いまの人々がどこかに置き忘れてきた人間の活力を象徴するかのようです。

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川べりの桜並木の紅葉

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