アメリカのSF作家、フィリップ・K・ディック(1928~1982)の小説は、かずかずの優れた映像作品になっています。たとえば、ハリソン・フォード主演「ブレードランナー」(82年・「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」)、アーノルド・シュワルツェネッガー主演「トータル・リコール」(90年・「追憶売ります」)、トム・クルーズ主演「マイノリティ・リポート」(02年)などは、未来世界に潜む不条理を、圧倒的なスケールと創造力でビジュアル化し、すぐれたSF映画に仕上がっていました。
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そのディックの短編小説「アジャストメント(Adjustment Team)」を映画化した新作が、マット・デイモン主演の「アジャストメント」(5月27日公開)です。主人公は、型破りの上院議員候補として立候補していた男、デビッド・ノリス(デイモン)。過去のスキャンダルが発覚して落選した彼の前に、謎の女性エリース(エミリー・ブラント)が現れる。やがてデビッドは、ベンチャー企業に役員として迎えられ、次の上院選の有力候補として再浮上。そんなとき、彼は、自分の公の生活も私生活も、すべてがアジャストメント・ビューロー(運命調整局)という謎の組織に操られていることを知る…。
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見どころは、デビッドが、現実の裏側から超人的な能力で人間の運命を操作する組織に挑むくだり。この組織は、なぜかデビッドとエリースとの間の愛の結実を阻止しようとする。調整局のエージェントが、ドアを開けるたびに別の場所に移動するシーン(まるで「ドラえもん」の“どこでもドア”みたい!)、不思議な機能を発揮するエージェントの帽子、組織とデビッドとの追いかけシーンなどなど、いろいろな趣向が凝らされています。
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監督・脚本を手がけたのは、「オーシャンズ12」や「ボーン・アルティメイタム」で脚本を担当、デイモンとタッグを組んできたジョージ・ノルフィで、今回が初監督作。この世に生きる人間には、偶然やツキ、独自の道などというものはない、すべては第三者の手で操作されている、というアイデアは面白い。でも、「ブレードランナー」や「トータル・リコール」にくらべると、ビジュアルがきわめて貧困。近未来に潜む恐怖、というよりは「愛は強し!」という結末に、いささかガックリ。「コレクター」(65年)で脚光を浴びたイギリス出身の異色男優、テレンス・スタンプが組織の重鎮を演じているのが懐かしい。
季節はめぐる…
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