わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

ほんのり切ない傑作ラブ・ストーリー「箱入り息子の恋」

2013-06-17 19:31:54 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img006_5 07年の長編2作目「無防備」で30代主婦の絶望と再生をテーマに、自らの妻の出産シーンをクライマックスにもってきた市井昌秀監督。彼が監督・脚本(共同)を兼ねた「箱入り息子の恋」(6月8日公開)は、ダメ男と障害のある娘との間に交わされる、ほんのりとしたラブ・ストーリーの傑作です。マックス・マニックス(「トウキョウソナタ」脚本)の原案をもとに映画化。主演は、家離れしない引っ込み思案の男に俳優・音楽家・文筆家の星野源、これまた親離れできない娘に「任侠ヘルパー」の夏帆。まるで、マイク・ニコルズ監督、ダスティン・ホフマン主演の名作「卒業」(1967)を思わせる切ないお話です。
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 天雫(あまのしずく)健太郎(星野源)は35歳の独身男。内気で愛想が無く、唯一の友だちはペットのカエル。自宅と職場の市役所を行き来するだけの日々を送っている。見かねた父・寿男(平泉成)と母・フミ(森山良子)は、親同士が婚活する代理見合いに参加。今井家の一人娘・奈穂子(夏帆)との見合いのチャンスをつかむ。実は、彼女の目がまったく見えないことも知らずに…。そして見合い当日、天雫家と今井家の父・晃(大杉漣)との間に相克が生じる。それでも、健太郎は奈穂子と初めての恋におち、彼女の母・玲子(黒木瞳)の手助けでデートにこぎつけるが、行く手に思わぬ事件が待ち受けている。
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 趣味は貯金で、昼食は家で食べ、酒もタバコもやらず、帰宅するとペットのカエルと格闘ゲームに夢中の健太郎。8歳で視力が衰え、娘を溺愛する両親から独り立ちできない奈穂子。見合いの席で、晃は「健太郎の学歴や職歴では、娘のサポートは無理」と一方的に決めつける。それ以来、健太郎と奈穂子の逢い引きがひそやかに始まる。そのたび邪魔に入る奈穂子の父・晃。あるときは、奈穂子の身を守って車にはねられる健太郎。クライマックスでは、奈穂子の部屋に忍び入った彼が、晃に見つかってベランダから転落したりする。真剣になればなるほど可笑しいドジ男のプロフィールには、大いに共感できます。
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 そして、みごとなのは牛丼店・吉野家でのデートシーン。仲を引き裂かれた二人が、偶然なじみの吉野家で再会。牛丼を食べながら奈穂子が流す大粒の涙と、健太郎の号泣シーン。また、ロメオとジュリエットよろしく、今井家の2階ベランダにしがみつき、カエルの鳴き声を真似て奈穂子を呼び出す健太郎。日常と非日常性が絡み合い、各キャラをきっちりと描き込んだ脚本、そしてドラマチックかつロマンチックな語り口。健太郎と奈穂子のキャラも、いかにも今日的。頑固おやじを演じる大杉漣と、それに向かっ腹を立てる健太郎の母役・森山良子との激しいやりとりも、リアルでありながら笑える。厳しい家族のしがらみというバックグラウンドから生まれた試練の(?)恋愛物語です。(★★★★★)

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清涼!

東京都葛飾区の堀切菖蒲園で

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