わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

昭和30年代の風俗を再現「信さん/炭坑町のセレナーデ」

2010-11-22 19:07:16 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img363 異色の時代劇「必死剣 鳥刺し」で話題を呼んだ平山秀幸監督が、故郷である九州・福岡の炭坑町を舞台にした新作が「信さん/炭坑町のセレナーデ」(11月27日公開)です。同郷の辻内智貴の原作をもとに、平山監督とは盟友で「愛を乞うひと」(98年)でもタッグを組んだ劇作家・鄭義信が脚本を担当。すでに廃坑となった炭坑町が、まだ活動していた昭和30年代の雰囲気を再現、そこに生きた人間群像と、炭坑町の盛衰を描いている。ヒロインを「ALWAYS 三丁目の夕日」「カムイ外伝」などの小雪が演じているのも、要注目だ。
                   ※
 昭和38年、美智代(小雪)は、小学生の息子・守とともに都会から福岡の炭坑町に帰郷する。ある日、一人の少年が、守を悪ガキたちから救ってくれる。札つきの厄介者・信一だ。親を早くに亡くし、親戚に引き取られ、家でも学校でも疎外されてきた信さん。そんな彼が、この事件を機にやさしく接してくれるようになった美智代に対して、特別な感情を抱く。だが、炭坑で働いていた義父が急死すると、信さんは一家を支えるため美智代からも守からも遠ざかっていく。7年後、成長した信さん(石田卓也)は炭坑で働くようになる。だが、炭坑は不況の波にのみこまれ、あげくの果てに悲劇的な事故が発生する…。
                   ※
 ドラマの要点は、ふたつある。まず、少年・信さんが美智代に抱き続ける淡い慕情。それは、母親への愛のようであり、淡い恋心のようでもある。もうひとつは、炭坑町で洋品店を開く美智代が象徴するモダニズム。それに対して、美智代に好感を持たない信さんの義母・はつ(大竹しのぶ)は、苦難に耐えて炭坑に生きる女性の典型。はつが、炭坑事故の悲劇の知らせに接して、懸命にお米をとぐシーンが印象的だ。国の大事なエネルギー源だった石炭産業の凋落、そして事故の多発。これは、全国各地で発生した歴史的事実だ。
                   ※
 と同時に、当時の炭坑町の風俗や情景が再現される。信さんら子供たちが、リヤカーを引いて小遣い稼ぎにボタ山でボタを拾うシーン。竪坑の下の広場で、ランニングシャツ姿の少年たちが遊ぶ三角ベース野球。子供たちが集う街の駄菓子屋さんの風景(ちなみに店主のおばあさんを中尾ミエが演じる)。平山監督は、こうした炭坑町の物語を、少年・守(池松壮亮)の視点から、ノスタルジックかつオーソドックスな演出で展開。福岡市、田川市、大牟田市、志免町をはじめ、九州でオールロケ。子役からエキストラに至るまで、地元の人々が撮影に協力したそうです。


コメントを投稿