わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

ワル警察官のピカレスク・ドラマ!「日本で一番悪い奴ら」

2016-07-05 17:11:26 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 白石和彌監督の「日本で一番悪い奴ら」(6月25日公開)は、北海道警察で実際に起こった不祥事をもとにした話題作です。2003年4月21日、北海道警察の警部だった稲葉圭昭が、覚せい剤の使用、営利目的所持、銃刀法違反の罪で“懲役9年、罰金160万円”の有罪判決を受けた。札幌地裁は“幹部警察官による前代未聞の不祥事”として、稲葉に判決を言い渡した。本作は、稲葉が執筆した「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」を原作にして製作された。でっちあげ、やらせ逮捕、おとり捜査、拳銃購入、覚せい剤密輸等、ありとあらゆる悪事に手を汚して点数稼ぎに精を出した警察官の姿を容赦なく描き出しています。
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 大学時代に鳴らした柔道。その腕っぷしの強さを買われて、柔道特別訓練隊員として北海道警・刑事となった諸星要一(綾野剛)。彼は、20代後半になって現場に配属されるが、叩き上げの刑事たちの前では右往左往するのみ。だが、ある時、署内随一の敏腕刑事・村井(ピエール瀧)から刑事の“イロハ”を叩き込まれる。警察組織に認められる唯一の方法―それは“点数”を稼ぐこと。あらゆる罪状が点数別にカテゴライズされ、熾烈な競争に勝利した者だけが認められ、生き残る。そのためには裏社会に飛び込み、S(エス=スパイ)を見つけ出せば、優先的に情報が手に入る、というのだ。こうして、諸星を慕って集まった元暴力団幹部・黒岩(中村獅童)をはじめ3人のSたちとの、狂気と波乱の四半世紀が始まる。
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 この諸星の出世街道を進む過程がすさまじい。S作りのため名刺を至る所にばらまき、裏社会との接触をはかる。結果、暴力団の幹部・黒岩と盃を交わし、札幌中央署のマル暴に移動。ロシア語が堪能なシャブの運び屋・山辺(YOUNG DAIS)、ロシアルートの拳銃横流しに精通するパキスタン人(植野行雄)をSにする。そして虚偽の拳銃摘発をし、銃器対策課の係長を拝命。上司から手早く拳銃の摘発をしたいと相談され、首なし(所持者不明の銃)を摘発。銃器対策課から予算を引き出し、ロシアや東京のヤクザに拳銃の仕入れを打診。そのうち拳銃の価格が高騰、黒岩の提案でシャブを捌くことで金を作る決断をする。やがて最終的に、税関・道警を巻き込んだ“日本警察史上、最大の不祥事”の幕が切って落とされる。
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 諸星を演じる綾野剛が熱演。そのワルぶりが痛快で、大いに笑える。警察内外で暴れまくり、点数を荒稼ぎし、腕利き刑事として高級クラブのホステスをモノにし、署内の美人婦警の心もつかんでしまう。そして「正義の味方、悪を断つ」という信念のもと、チンピラ風にヤクザの世界でのしあがっていくのだから始末が悪い。銃器対策のエースと呼ばれるまで昇りつめていく、そのプロセスはむしろ単純明快だ。それをやり過ぎて、やがて転落、夕張署へと飛ばされる。これが実際にあったことなのかは不明だが、それでは夕張市がかわいそう。そのほかの役者も個性的。腹の内が読めず、最後にドエライことをやる黒岩役の中村獅童。薄汚い刑事の典型で諸星の先輩を演じるピエール瀧。登場人物すべてがリアルな存在だ。
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 つまりは、この作品の主眼は諸星の暴走だけでなく、道警の組織ぐるみのヤラセ捜査(拳銃、麻薬)に置かれていて、組織の影の部分を暴いてもいるのだ。白石監督も「組織が逸脱しているから<悪い奴ら>なんですよ」と言う。「凶悪」(13年)で評価を得た同監督の演出は、細部も手を抜かずダイナミック。加えて、暴力・SEX・麻薬といった悪の描写で、いままでの邦画には無かった徹底ぶりを見せる。テーマが過激だけに、はじめ企画は難航したらしい。だが監督は「グッドフェローズ」や「カジノ」みたいな一代記をやったら、といわれ、ギャングの一代記のような映画が出来ると思ったとか。それは、ズバリ的中。映画の惹句のひとつに曰く―「日本で一番悪い奴ら、それは、警察だった」。(★★★★+★半分)


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