2001年10月、韓国の麗水(ヨス)で、いわゆる“テチャン号事件”が起こりました。韓国に密入国しようとした中国人60人のうち、25人が船内で窒息死し、船員らがこれらの死体を海に捨てた事件です。この重大出来事をもとに、キム・ミンジョンが「海霧(ヘム)」のタイトルで戯曲化。更にそれを、今回シム・ソンボが「海にかかる霧」(4月17日公開)の邦題で映画化、監督デビューをしました。「殺人の追憶」「グエムル-漢江の怪物-」などの傑作を放ったポン・ジュノが初プロデュース。監督に、「殺人の追憶」の脚本家シム・ソンボを抜擢。その結果、2015年米アカデミー賞外国語映画賞の韓国代表に選出された。
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不況にあえぐ韓国の漁村。6人の乗組員を乗せたチョンジン号は、その日も一発逆転の大漁を狙って出航するが、目的を果たせない。切羽つまったカン船長(キム・ユンソク)は、中国からの不法移民の密入国を手伝うという、闇のルートの仕事を引き受ける。だが計画は、海上警察の調査や悪天候に阻まれ、思いもよらぬ事態に陥っていく。監視船がやって来た時、魚艙に隠れることを強いられた朝鮮族の人々が、冷凍機のフロンガスにやられて亡くなったのだ。やがてカン船長は、乗組員に遺体を切断して海に捨てるように命令。ただひとり、機関室に隠れていた女性ホンメ(ハン・イェリ)をめぐって、船員たちは正気を失っていく。
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この作品には、今日的な問題が含まれています。家族を養うため、韓国へ行くという密航者たち。それを悪用して、中国から密航者を受け入れ、金儲けを企む密輸業者。そして、不漁のために密入国を請け負うカン船長。それと感づきながら密航を見逃す監視船の役人。はじめは、密航者のケガの手当てをし、食事を与えていた船員たちにも、次第に獣性が現れる。魚艙ではなく機関室などにかくまえと主張する密航者のひとりを海に投げ落とす船長。数少ない女性密航者に欲望を露わにする船員。ただひとり、一番下っ端の青年ドンシク(人気グループJYJのパク・ユチョンが映画デビュー)だけが、正気を保ってホンメをかくまう。
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製作担当のポン・ジュノは言う。「ストーリーの奥深さのみならず、緊張を緩めることができない息詰まる展開、そして切ない愛の物語…」だと。だが、実際に起こった事件を素材にしたわりには緊迫感が足りず、平凡な海洋サスペンスになってしまったように思われる。金や女性をめぐる各キャラもパターン通りで、ドンシクとホンメの愛もメロドラマ的。テーマが密航というわりには社会性に乏しく、興味本位という感じになった。もっと登場人物の葛藤をドキュメント・タッチで描けなかったか。ただひとつ、生き残って建設現場で働くドンシクが、6年後、料理店で子連れのホンメを見かける結末が哀しい。(★★★+★半分)