わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

台湾流おもてなし人情コメディー「祝宴!シェフ」

2014-11-05 15:20:31 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 チェン・ユーシュン(陳玉勳)監督・脚本による「祝宴!シェフ」(11月1日公開)は、台湾の宴席料理をテーマにした傑作コメディーです。チェン監督は、「熱帯魚」(1995年)、「ラブゴーゴー」(1997年)など独創的な作品で知られ、台湾ニューシネマの代表として評価された。今回は、16年ぶりに長編を手がけて復活。美食の街・台南を主舞台に、“人々を幸せにする究極の料理”をめぐって、個性的な登場人物が繰り広げる大喜劇。台湾伝統の“バンド”と呼ばれる屋外宴会に出される料理のかずかずがスクリーンを彩ります。
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 台湾では、祝いごとがあると屋外で宴が開かれ、そこで腕をふるう総舗師(ツォンポーサイ)と呼ばれる宴席料理人がいる。ヒロインのシャオワン(キミ・シア)は、その中でも“神”と称された伝説の料理人を父に持つ。彼女は、料理を嫌い、モデルを夢見て家を飛び出し台北に行くが、夢破れて台南に帰省。やがて、亡き父がレシピノートに残した料理に込めた想いに心を動かされる。そして、時代の趨勢で衰退の一途をたどっている宴席料理の返り咲きをかけて、全国宴席料理大会への出場を決意する。とはいうものの、シャオワンは料理の初心者。果たして彼女は、父の志を引き継ぎ、究極の料理にたどり着くことができるのか?
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 登場人物が実に多彩で、それぞれユニークなキャラを発揮します。明るく元気いっぱいのシャオワン(演じるキミ・シアが可愛い!)。家を差し押さえられ、夜逃げ先で客の少ない食堂を開くシャオワンの継母(リン・メイシウ:台湾の人気コメディエンヌで、何かというと歌って踊ってみせる)。シャオワン母娘の窮地を救う旅する若い料理ドクター(トニー・ヤン)。それに陰の主役ともいうべき3人の総舗師たち―北部の謎めいた存在である道化師、南部の卓越した料理人でシャオワンの父の蠅師、悪名高いギャングでもある中部の鬼頭師。加えて、借金取りのチンピラたちや、おかしな3人組がシャオワンに協力してみせる。
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 チェン監督は、これら多くの人物の出入りを巧みに見せる。主眼の料理については、食材の仕入れからレシピまで披露。旅する料理ドクターは言う―「トマトの卵炒めは簡単に作れる。だけど、それぞれに母親の味がある」と。更に、ミュージカル風シーンあり、ひそかに思いを寄せ合うシャオワンと料理ドクターとの幻想的な愛のシーンあり、という具合。そしてクライマックスは、台北で開催されるスリリングな料理大会!! まさに、食を媒介にして台湾人の大らかさと隣人&家族愛を謳いあげるスペクタクルに仕上がっています。
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 いわば、大盤振る舞いのバラエティー風な面白さと楽しさに満ちた作品。だが、ラストに近づくにつれて、食への賛歌が一種の人生哲学に収斂されていき、それがおかしくもあり、身が引き締まりもします。シャオワンが、台北で紙袋ごと父のレシピノートを奪ったホームレスに再会。実は、彼こそ北の伝説の料理人・道化師その人(脚本家兼監督でもあるウー・ニエンチェンが演じる)。ホームレスの溜まり場でシャオワンに料理をふるまう道化師は言います―「料理は人の心の味。料理で人を幸福にするんだよ!」。いままで数回出かけた台湾で食べた屋台の牛肉麺や鶏湯麺、有名な点心料理の絶妙な味を思い出します。(★★★★)

 

 

 

 

 


 


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