江戸幕府第13代将軍・徳川家定の正室として知られる幕末の女傑・篤姫は、NHKの大河ドラマ「篤姫」でクローズアップされ、姫を宮﨑あおいが演じて人気を呼んだ。その篤姫が、江戸城の将軍家に輿入れする直前、現代にタイムスリップ。なんと、東京・銀座の高級クラブでホステスに転身、ナンバーワンを目指して大奮闘する…というトンデモナイ話が展開されるのが、つんく♂がエグゼクティブ・プロデューサーをつとめ、小中和哉が監督を手がけたコメディー「篤姫ナンバー1」(4月7日公開)です。
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嘉永6年(1853年)、薩摩藩主・島津斉彬の養女となった篤姫(石川梨華)が、江戸城に向かう途中、自らの運命に抵抗しようとして箱根の山中で逃走をはかる。そのとき、謎の彗星が出現し、彼女は160年後の現代にタイムスリップ。彗星の観測に来ていたカップルのマンションに招かれ、その伝手で銀座の高級クラブのホステスとして働くことになる。そして、店のナンバーワン・アミ(吉澤ひとみ)と売り上げを競い合い、大企業の跡取り息子・俊太郎(菊田大輔)に心を惹かれるようになる…。
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要するに、ドラマ「篤姫」のパロディーで、篤姫が現代文明にふれて衝撃的なカルチャーギャップを味わうところがミソ。篤姫を演じる石川梨華は「モーニング娘。」のOG。篤姫の御目付・タエに扮するのが、「モーニング娘。」の初代リーダー・中澤裕子。ライバルのアミを演じるのも、同OGで石川と同期の吉澤ひとみ。つまり、つんく♂ファミリー勢ぞろいというわけだ。石川梨華の二変化ぶりがなかなか可愛く、全体にまとまったコメディーに仕上がっている。また、とっきーが演じる篤姫のボディーガード、女忍者(くノ一)役が傑作だ。現代の銀座に潜み隠れて、篤姫に害をなす者を吹き矢でやっつけたり、イジワル・ホステスを「必殺」シリーズ風に懲らしめたりするくだりのアナクロぶりが笑える。
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監督の小中和哉は、「七瀬ふたたび」(10年)などファンタジー&SFのジャンルで良い味を見せている。今回も、クラブのママ(秋本奈緒美)にミュージカル風に歌わせたり、篤姫の恋人・俊太郎に料理をさせたり、小味を利かせている。また、現代日本の女性上位ぶりを見た篤姫が「日本も、ずいぶん変わったものじゃ」と感心するくだりがテーマの一つになっている。だが欲をいえば、篤姫が味わうカルチャーショックを通じて現代を風刺する、という姿勢がいささか弱い。もっとも現代人のほうは、篤姫が銀座のど真ん中に現れても驚かないかも。もっと不気味な幽冥界人間が大勢出没しているからね。五つ星採点で★★★+★半分。