ブラジルの新星、エズミール・フィーリョ(28歳)が監督・脚本(共同)を手がけた「名前のない少年、脚のない少女」(3月26日公開)は、従来のブラジル映画のイメージをくつがえすような作風を持つことで、世界から注目されているそうです。映画に登場するのは、ネット社会に没入し、現実と仮想の境界が曖昧になった世界に生きる十代の若者たち。主人公は、“ミスター・タンブリンマン”というハンドルネームで詩をインターネットに投稿し続ける少年(エンリケ・ラレー)。彼が住んでいるのは、ブラジル南部にある、ドイツ移民の伝統が強く残る田舎町。少年はネットでのみ世界とつながり、この退屈な街を出たいと思っている。ネットだけが唯一の逃げ道と信じているティーンエージャーの象徴だ。
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そんな彼の前に、恋人との心中に失敗し、街に戻って来た青年ジュリアン(イズマエル・カネッペレ)が登場する。同時に少年は、“ジングル・ジャングル”の名でネット上に映像を投稿する少女(トゥアネ・エジェルス)の作品に引き込まれる。実は、彼女はジュリアンの元恋人で、心中事件によって、すでにこの世に存在しない。自分の魂、自分のかけらを写真や映像に残して逝ってしまい、ネットの中でだけで生き続けるゴーストのような少女…。低解像度の映像、点滅するマウスカーソル。映画は、仮想世界と現実、過去と未来を交錯させ、ネットという網にとらわれた若者のあがきを追う。加えて、1960年代に爆発的な人気を得たミュージシャン、ボブ・ディランがキーワードになる。“ミスター・タンブリンマン”はディランの名曲だし、“ジングル・ジャングル”はその歌詞に登場する言葉だ。
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フィーリョ監督は、短編作品がYouTubeで人気になるなど、新鮮な映像美が評価され、今回が初の長編となる。「インターネットとティーンエージャーの特性は、よく似ていると思う。現実とバーチャルの境目がないんだ。映画のように、すべてが混じりあっている」と同監督は言う。また原作者は、ジュリアンを演じたイズマエル・カネッペレであり、脚本も監督とともに担当した。少女役のトゥアネ・エジェルスは、約16年間写真を撮り続け、インターネット上などで発表、劇中にも作品が使われているそうだ。さらに、出演している若者たちは、舞台となったテウトニアで暮らしている十代の若者たちからネットで選ばれたという。結果、本作はネットユーザーを中心に口コミで広がり話題になった。現実とバーチャル世界の混交に戸惑う個所もあるけど、斬新な作品であることは確かです。