エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

「スマートグリッド革命」( 「You Energy」へのパラダイムシフト)

2010-10-21 00:06:38 | Weblog
インターネットの世界では、「You Tube」=「あなたが作るテレビ」に象徴されるように、「個人が番組を作り、配信して楽しむ」というパラダイムが出現しています。誰もがコンテンツである動画を提供し、その動画を共有するサービスです。インターネット上の“つぶやき”であるTwitterも急速な広がりを見せ、デルをはじめとして新しいビジネスモデルを創造しています。誰もが簡単に自分の思いや意見を投稿し、そのつぶやきを瞬間に共有するサービスです。
スマートグリッドは、インターネット、コンピューティング、通信(テレコミ)、電力の各種技術を融合させて電力の双方向でのやり取りを可能にするシステムで、日本では20年代半ばに国内全域で構築されようとしていますが、スマートグリッドの世界でいま、こうした方向、言ってみれば、誰もがエネルギー作りに参加できる「You Energy」に向けた進化が起こりつつあります。それが「スマートグリッド革命」です。
「You Energy」のパラダイムでは、誰もが発電所となって太陽光発電など再生可能エネルギーを提供し、電力会社に売電したり、電気自動車に搭載されている蓄電池を介して相互に融通したりして、「個人がエネルギーを作り、配電して楽しむ」ということを可能にします。しかも、再生可能エネルギーは地球環境にやさしいエコの価値を持っています。そのエコの価値を、エコポイントやエコマネーという媒介を使って取引することも可能にします。そこにおびただしい需要が生まれ、新しく登場してきている技術シーズと結びついてイノベーションが創造されます。そのイノベーションにより、いままでエネルギーの消費者に過ぎなかった一般生活者が生産者ともなって、ユーザが主役となる新しい解決手法が生まれます。
いま社会は、供給者主導から需要側からも積極的に働きかける構造に変わっています。民主主義についても観客型から参加型に変貌しています。この変化と「You Energy」のパラダイムが結びついたとき、市民界、産業界、労働界、大学・教育界など多様なステーク・ホルダーと政府との協働により、エネルギー問題や地球環境問題などの大きな枠組みを前進させ、「人類益」を実現することも可能になります。

6月末に刊行した『スマートグリッド革命』への反響

2010-10-19 07:08:36 | Weblog
6月末に刊行した拙著『スマートグリッド革命:エネルギーウェブの時代』(「ミスター・インターネット」村井純・慶應義塾大学教授の推薦、NTT出版)が、しばしの懐妊期間を経て、大きな反響を得てきました。
以下は、アマゾンのカスタマー・レビューに掲載された一例です<以下、引用>。

「シリコンバレーモデルと、膨大な情報素材を組み合わせて描く近未来革命, 2010/10/11
これは、面白い。
 スマートグリッドを、技術、政治、経済、国家戦略、企業戦略、 技術経済など、膨大な枠組みと素材を組み合わせ、IT革命を凌駕するエネルギー革命の到来を予言した名著です。 ベースには、スマートグリッドを成す要素、つまり、インターネット、 コンピュータ、通信、電力の融合と認識し、ネット革命と、センサーネットワーク、それに、クラウドコンピューティングと代替エネルギー革命の出会いが、スマートグリッドの登場につながると説きます。
 ツールとしては、YouTubeならぬ、You Energyという、ピア・ツー・ピアでのICTとエネルギー制御というマイクロ制御を可能にするテクノロジーの発展と、トフラーが以前説いた「プロシューマ」(生産者=消費者)という思考概念、それに、クリステンセンの「イノベーターのジレンマ」という新旧テクノロジー覇者の交代の思考的枠組みが主に使われています。
 著者が得意とするシリコンバレーが、すでにシリコンバレーから脱却し、スマートグリッドエネルギーバレーへと、オバマ政権の後押しもあって、急速に変貌していく仕組みを、具体的なステークホルダーやベンチャー企業、ベンチャーキャピタルを交えて描きます。
 面白いのは、ITで覇者となったインテル、マイクロソフト、シスコ、グーグル、IBM、それにGEなどが、次世代の市場として、その技術と資源と資金を向ける新市場としてのスマートグリッド、スマートグリッドシティの分野。この辺の競争、覇権争いの片りんを垣間見ることができて大変おもしろい。
 さまざまな、テクノロジカル・ジャーゴンを交えて、米国、中国、韓国、日本のエネルギーウエッブへ向けての、国策、企業の戦略、技術動向も豊富に解説した好著」

アマゾンのカスタマー・レビューでは、11のコメントが投稿されています。

政府の新成長戦略・グリーンイノベーション政策の盲点①(消費にも着目した成長戦略の必要性)

2010-10-18 00:01:29 | Weblog
 今、政府挙げて取り組んでいる「新成長戦略」には大きな盲点があります。それは、投資だけに着目して成長を目指している点であり、消費にも着目した成長戦略でないと意味がないということです。そのことを最先端の経済学の成果を踏まえて解説してみたいと思います。
 日本経済の最大の課題は、「流動性の罠」がもたらす投資機会の不足と消費機会の不足です。このため、慢性的に資金の供給過剰状況が出現し「自然利子率」(スウェーデンの経済学者であるヴィクセルが提唱した概念。望ましい資源配分を実現するための実質利子率の水準で、潜在成長率にほぼ等しい。今や中央銀行関係者からも支持されている考え方)がマイナスとなっています。その定義からも明らかなように、自然利子率を金融政策や財政政策で上昇させることはできません。自然利子率を上昇させるためにはイノベーションを起こすことが必要ですが、ここでイノベーションと利子率の関係について検討することが必要となります。ちなみに、ここでいう「イノベーション」とはシュンペーターが提唱したものであり、プロダクト、プロセス、マーケット、サプライチェーン、ビジネスモデルの5つのタイプがあります。このうち最も需要なのは、新しいビジネスモデルの構築です。
 イノベーションと利子率については、2つの考え方があります。利子率は貯蓄と投資を一致させるように決まるとする考え方(新古典派)と利子率はマネーを保有することにより失われる期待収益だとする考え方(ケインズ派)です。市場には消費財と投資財の2種類がありますので、両者を総合したモデルにより成長戦略を構築する必要があります。このうち、新古典派的な利子率の決定に関する考え方は、消費財にあてはまる考え方です。一定の所得を消費に回すか貯蓄に回すかという消費貯蓄選択においては、新古典派的な時間選好が働きます。次に、人々は一定の所得を消費に回して残りを貯蓄に回す際、貯蓄された資産の構成を決めます。これが投資です。この際の投資財に関する資産選択行動に関しては、ケインズ的な流動性選好が反映されます。もし貨幣保有を増やせば流動性プレミアムを得ることになり、収益資産を増やせば利子が手に入ることになります。
ここで、マネーには、どれだけ持っていても、普通の消費財と異なって限界効用が逓減することはないという性質があることに着目しなければなりません。今われわれが陥っている「流動性の罠」の状態では、マネーは購買力を限りなく吸い込み、「需要の飽和」が起こって消費も投資も同時に低迷しています。この「需要の飽和」から脱出するためには、投資財に関する資産選択における「長期の期待」、「アニマルスピリット」(ケインズ)の上昇による投資に拡大だけではなく、消費財に関する消費貯蓄選択をも考慮した消費の拡大の両面から対処することが必要です。「新成長戦略」が想定している「需要と供給の好循環」は前者の投資財に関するもので、後者の消費財を含めた「需要と供給の好循環」の構築という視点が欠落しています。投資財のみならず消費財の観点からも「需要の飽和」を突破するもの、それこそが「真のイノベーション」です。

 私は1998年にエコポイントを提唱しましたが、05年愛・地球博におけるEXPOエコマネーを経て、今や家電エコポイント&住宅エコポイントとして政府の事業にまで発展しています。このエコポイントをさらに発展させて、消費にも着目した成長戦略を推進すべきだというのが私の提言です。

池上彰と手嶋龍一のNHKコンビが私の提唱した「エコポイント」を絶賛

2010-10-17 00:03:23 | Weblog
池上彰と手嶋龍一のNHKコンビが、私が提唱した「エコポイント」を絶賛してくれています。『武器なき環境戦争』(9月25日刊行、角川SSC新書)の中で池上彰と手嶋龍一は、「官」でも「民」でもない、「ソーシャルポイント」としてのエコポイントが日本に相応しいエコ・システムを構築する武器になると指摘しています。
この点の池上彰と手嶋龍一のやり取りのポイントを紹介してみましょう。

池上:よく、お役所やテレビ局が「環境デー」のようなイベントをやるでしょう。だけど、その規模が大きければ大きいほど、キャンペーンのために排出されるCO2は多くなってしまう。ゴミも増えてしまう。「とにかくエコを心がけましょう」といった、ほとんど意味のない催しが、日本では多すぎると感じますね。

手嶋:・・・日本に相応しいエコ・システムを立ち上げていかなければ-----------------------。そのためにもっと活用すべきだと思うのが「エコポイント制」です。

池上:・・・「官」と「民」の中間領域で、公共的な視点に立った新しいシステムになりうる可能性がある。

手嶋:・・・そう、この「民」の寄付にも、「官」の税金にも頼らない、消費者の志に依拠するシステムは、急速に広がりつつあります。・・・・・・・

池上:・・・・・「エコポイント」も、国民経済の中に正しく位置づけられるならば、新に「エコロジーな」社会をつくっていく武器になるかもしれません。「地球環境を守ろう」というスローガンは、人間の営みと経済システムが量質して初めて意味を持つのです。

手嶋:「地球に優しい」という情緒的な呼びかけは、コピーライターの守備範囲で、新しい社会システムを構想する人々には、さして役には立ちません。人間の営みは、コピーをひねり出すより、はるかに複雑です。人類がこれからも生存し続け、人為的なCO2の排出を減らしていく。この二つを両立させるのは、至難の業ですが、何としても挑戦は続けていかなければならないのですから。

イタリアの原発再開計画

2010-10-16 06:28:30 | Weblog
イタリアでは、87年に実施した国民投票により、国内すべての原発施設を閉鎖していますが、09年2月のイタリア・フランス政府間での原子力開発協力に関する合意に基づき、電力最大手エネルがフランス電力公社(EDF)と合弁で、原子力開発のための調査を実施する会社を09年8月に設立しました。20年までに4基以上の次世代型の欧州加圧水型原子炉(EPR)を新設する計画です。再開により、輸入電力・化石燃料への依存率低減と国内電力生産の増強、長期的には温室効果ガス削減目標の達成を目指しています。

化石燃料系エネルギーから太陽系エネルギーへの転換が生む新たな資源問題

2010-10-14 00:13:33 | Weblog
私が代表をつとめる一般社団法人スマートプロジェクト(こちらをご覧ください)の設立をウェブ上で明らかにした6月24日に刊行した拙著『スマートグリッド革命』(こちらをご覧ください)では、以下のように書きましたが、ここでは新たな視点を提供したいと思います。

「いま私たちは、ピークオイルの近未来での到来と地球環境問題の深刻化という2つの危機により、地下の化石燃料エネルギーにより支えられてきたシステムから地上の太陽系エネルギー(太陽光、風力、バイオマスなど)により支えられてきたシステムへと転換しなければならないという命題に直面しています。化石燃料エネルギーと太陽系エネルギーを比較すると、最も大きな性格上の違いは、化石燃料エネルギーは、濃縮されて特定の場所に大量に存在しているのに対して、太陽系エネルギーは、無尽蔵にあるが広く薄く存在しているために、濃縮するのに技術とコストが必要だということです。化石燃料エネルギーと太陽系エネルギーは、経済学的には「代替財」の関係にありますので、総需要が一定とすると、ダーティではあるけれども割安な化石燃料エネルギーからクリーンではあるけれども割高な太陽系エネルギーへのシフトは、両者の相対価格を大きく変化させなければ起こりません。
そのために税、補助金などでの政策的な対応(前者に対するムチ、後者に対するアメ)が一つの方途ですが、これだけでは足りません。市場における相対価格の変化が基盤にあって、その上に政策的な対応が行われるのが最も効果的であると言えます。今後の化石燃料エネルギー市場の動向を展望すると、資源供給国の供給余力の低下に伴って市場価格が上昇し、中国、インドなどの新興国におけるエネルギー需要の増大がそれに拍車をかけます。さらに、08年9月リーマンショック後の世界金融危機後に一時停滞してグリーバルな資金循環が回復してきたことから、投機資金が再び回帰し、世界の原油市場は高騰とともに高止まりすることが確実と見られています。このことは、部分均衡的にみると、企業経営にとってのコストアップ要因となりますが、あらゆる資源価格の上昇というパラダイムシフトととらえるならば、これまで商業ベースで採算に乗らなかった太陽系エネルギーに関する研究開発プロジェクトに様々な投資機会が到来し、実用化が図れるようになることを意味します。その反面、化石器燃料に関するプロジェクトには投資資金が回らなくなり、化石燃料は物理的な枯渇の前に経済的な枯渇という現象に直面します。」

以上に加えで新たに指摘したいことは、太陽系エネルギーへの投資は、ベースメタルやレアメタルなど、新たな資源需要を喚起するということです。現在、これら新市場での競争優位を占めようと世界中に企業が参入し、特に中国の官民挙げた対応が目立っていますが、皮肉なことに、そのことが新たな資源争奪戦を招く結果となっています。
本来ならば国際的な資源管理が必要であるにもかかわらず、今回の中国のレアメタルの輸出規制が象徴するように、そのようなスキームの構築は望みうべくもなく、世界的な資源争奪戦の中で各国とも独自の資源戦略を展開し、資源供給先の多角化や国家備蓄はもとより、技術力を生かした代替資源の開発、資源リサイクルによる都市鉱山開発のシステム構築、中長期的な人材育成などが急務となってきています。
さらに、以前ご紹介した「マグネシウム文明論」などの発想を根本から転換した対応も必要となります。

目からうろこが落ちる「マグネシウム文明論」

2010-10-13 06:57:57 | Weblog
東京工業大学の矢部孝教授が出版した『マグネシウム文明論―石油に代わる新エネルギー資源』は「目からうろこが落ちる」本です。矢部教授の考えるマグネシウム循環社会の仕組みは、①太陽熱を利用した淡水化装置で、海水から塩化マグネシウムを取り出す、②熱を加えて、塩化マグネシウムを酸化マグネシウムにする、③太陽光励起レーザーで、酸化マグネシウムを金属マグネシウムに製錬する、④金属マグネシウムを水と反応させて、燃料となる水素を取り出したり、マグネシウム空気電池として電気自動車用の電池とする、⑤燃料として利用した後は、酸化マグネシウムが残る、⑥その後は③へ戻り、酸化マグネシウムを再び太陽光励起レーザーで金属マグネシウムに製錬する、というエネルギーサイクルを構築するものです。

 ①から開始するので、ビジネスモデルとしても構築が容易です。海水1キログラム中に含まれる元素は、塩素19.35g、ナトリウム10.77g、マグネシウム1.29g、硫黄0.904g、カルシウム0.412g、カリウム0.391g……となっていて、マグネシウムが多く含まれています。含有量の多いナトリウムも燃料になり得ますが、常温の空気中ですぐに発火するなど安定性に欠けます。また、すでにリチウムイオン電池として使われているリチウムは、海水1キログラム中たった0.00017gとマグネシウムの1万分の1しか含まれていないため、地下埋蔵量1100万トンだけでは主要なエネルギー源として使用するのは不可能です。
これに対して、全海水中に含まれるマグネシウムは1800兆トンと桁違いに多いため、現在の全エネルギーをマグネシウムで賄うとしても10万年分の量があることになるとのことです。
矢部教授の発想は、太陽光をそのままレーザーに変換する太陽光励起レーザーにより、酸化マグネシウム(MgO)をマグネシウム金属(Mg)へと精錬し、このマグネシウム金属が水と反応するときに発生する熱と水素をエネルギー源として使おうというものです。エネルギー取り出し後にはマグネシウム金属は再び酸化マグネシウムへと変化しているので、これを再度レーザーで処理すればマグネシウム金属へと戻せ、マグネシウムの資源循環が可能になります。マグネシウムは水と反応させて水素を取り出すことで直接燃料として利用もできるし、マグネシウム空気電池として利用すると効率のよい電気自動車用の電池とすることもできます。
従来から、水素をエネルギーとして利用する「水素社会」の実現を目指そうという意見がありますが、水素は気体であるため高圧タンクやボンベに貯蔵しなければなりません。ボンベは大変重く、しかも、水素ガスは漏れると爆発の危険があることから、簡単に取り扱えるものではありません。マグネシウムは粉や薄片にすると反応しやすくなりますが、塊の状態だと摂氏650度まで発火しません。保管のための特別な装置は不要で、倉庫の中に積んで貯蔵できます。しかも、ボンベに詰めた状態の水素と比較すると、同じ体積当たりで生み出すエネルギーの量はマグネシウムのほうが大きいのです。そのため、水素をガスのまま貯蔵したり運搬したりするのではなく、マグネシウムを使って、必要な時、必要な場所で水と反応させて水素と熱を取り出せばよいと矢部教授は指摘しています。
ただし、太陽光を集光した時に得られる熱で6千℃を達成するのがやっとであり、これを太陽光励起レーザーに変換して2万℃の熱を得るところがポイントです。6千℃の熱ではMgO→Mgが進みません。太陽光励起レーザーとは、クロム-ネオジムYAGレーザー媒質によって、太陽光を光源にして発生させるレーザーのことで、実験室では42%、自然光では20%の変換比率で太陽光からエネルギーを取り出すことができます。現在のレーザー発生装置の出力は80ワットですが、間もなく400ワットの装置が完成するとのことです。
マグネシウム空気電池とは、マグネシウムを直径2ミリほどの粒状にして、それが酸化することで発電する装置のことであり、マグネシウムをカートリッジ式の電極として使用します。カートリッジは安全なのでコンビニなどどこでも販売・回収できるため、ガソリンスタンドのような施設は不要になります。この電池を利用した電気自動車はトヨタ自動車もひそかに開発中と記載されています。
まるで夢のような話しですが、すでに矢部教授は企業化して実用実験を始めています。「マグネシウム文明論」という大袈裟なタイトルを使いたくなるほど、インパクトのある内容です。