エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

目からうろこが落ちる「マグネシウム文明論」

2010-10-13 06:57:57 | Weblog
東京工業大学の矢部孝教授が出版した『マグネシウム文明論―石油に代わる新エネルギー資源』は「目からうろこが落ちる」本です。矢部教授の考えるマグネシウム循環社会の仕組みは、①太陽熱を利用した淡水化装置で、海水から塩化マグネシウムを取り出す、②熱を加えて、塩化マグネシウムを酸化マグネシウムにする、③太陽光励起レーザーで、酸化マグネシウムを金属マグネシウムに製錬する、④金属マグネシウムを水と反応させて、燃料となる水素を取り出したり、マグネシウム空気電池として電気自動車用の電池とする、⑤燃料として利用した後は、酸化マグネシウムが残る、⑥その後は③へ戻り、酸化マグネシウムを再び太陽光励起レーザーで金属マグネシウムに製錬する、というエネルギーサイクルを構築するものです。

 ①から開始するので、ビジネスモデルとしても構築が容易です。海水1キログラム中に含まれる元素は、塩素19.35g、ナトリウム10.77g、マグネシウム1.29g、硫黄0.904g、カルシウム0.412g、カリウム0.391g……となっていて、マグネシウムが多く含まれています。含有量の多いナトリウムも燃料になり得ますが、常温の空気中ですぐに発火するなど安定性に欠けます。また、すでにリチウムイオン電池として使われているリチウムは、海水1キログラム中たった0.00017gとマグネシウムの1万分の1しか含まれていないため、地下埋蔵量1100万トンだけでは主要なエネルギー源として使用するのは不可能です。
これに対して、全海水中に含まれるマグネシウムは1800兆トンと桁違いに多いため、現在の全エネルギーをマグネシウムで賄うとしても10万年分の量があることになるとのことです。
矢部教授の発想は、太陽光をそのままレーザーに変換する太陽光励起レーザーにより、酸化マグネシウム(MgO)をマグネシウム金属(Mg)へと精錬し、このマグネシウム金属が水と反応するときに発生する熱と水素をエネルギー源として使おうというものです。エネルギー取り出し後にはマグネシウム金属は再び酸化マグネシウムへと変化しているので、これを再度レーザーで処理すればマグネシウム金属へと戻せ、マグネシウムの資源循環が可能になります。マグネシウムは水と反応させて水素を取り出すことで直接燃料として利用もできるし、マグネシウム空気電池として利用すると効率のよい電気自動車用の電池とすることもできます。
従来から、水素をエネルギーとして利用する「水素社会」の実現を目指そうという意見がありますが、水素は気体であるため高圧タンクやボンベに貯蔵しなければなりません。ボンベは大変重く、しかも、水素ガスは漏れると爆発の危険があることから、簡単に取り扱えるものではありません。マグネシウムは粉や薄片にすると反応しやすくなりますが、塊の状態だと摂氏650度まで発火しません。保管のための特別な装置は不要で、倉庫の中に積んで貯蔵できます。しかも、ボンベに詰めた状態の水素と比較すると、同じ体積当たりで生み出すエネルギーの量はマグネシウムのほうが大きいのです。そのため、水素をガスのまま貯蔵したり運搬したりするのではなく、マグネシウムを使って、必要な時、必要な場所で水と反応させて水素と熱を取り出せばよいと矢部教授は指摘しています。
ただし、太陽光を集光した時に得られる熱で6千℃を達成するのがやっとであり、これを太陽光励起レーザーに変換して2万℃の熱を得るところがポイントです。6千℃の熱ではMgO→Mgが進みません。太陽光励起レーザーとは、クロム-ネオジムYAGレーザー媒質によって、太陽光を光源にして発生させるレーザーのことで、実験室では42%、自然光では20%の変換比率で太陽光からエネルギーを取り出すことができます。現在のレーザー発生装置の出力は80ワットですが、間もなく400ワットの装置が完成するとのことです。
マグネシウム空気電池とは、マグネシウムを直径2ミリほどの粒状にして、それが酸化することで発電する装置のことであり、マグネシウムをカートリッジ式の電極として使用します。カートリッジは安全なのでコンビニなどどこでも販売・回収できるため、ガソリンスタンドのような施設は不要になります。この電池を利用した電気自動車はトヨタ自動車もひそかに開発中と記載されています。
まるで夢のような話しですが、すでに矢部教授は企業化して実用実験を始めています。「マグネシウム文明論」という大袈裟なタイトルを使いたくなるほど、インパクトのある内容です。