弁護士NOBIのぶろぐ

マチ弁が暇なときに,情報提供等行います。(兵庫県川西市の弁護士井上伸のブログです。)

司法修習生の「給費制」

2010年11月09日 | ⑦法曹就職情報
前から書きたかったネタですが,なかなか書く暇がなくて,今日までになりました。
久々にブログを触ったついでに書くことにしました。それが前の記事の津谷先生の訃報であることが残念でなりません。

で,早速本題ですが,
現在,司法修習生(司法試験合格した裁判官,検察官,弁護士の卵)には1か月額面20万円程度の給与が出ています。
しかし,今年採用の司法修習生(つまり,菊間千乃さんと同じ時に司法試験に合格し,この11月から司法修習生になる人)から,この給与がなくなるという話になっています(「給費制」の廃止)。

もしこのまま廃止になると,給与はもちろん,交通費なども修習生負担になるようで,そのままでは生活に困る修習生に対しては,最高裁判所が保証人を取った上(親族や某貸金業者),生活費を貸す「貸与制」になるようです。

給費制は国民の皆様の大切な税金を使う重要な話で,この財政難の中,安易に「給費制」を絶対に維持すべきという話にはなりません。
しかし,だからこそ,その維持・廃止の両方について,十分な国民による議論が必要だったと思います。

実際は,「給費制」⇒「貸与制」になるときも,現在,弁護士業界が反対運動をして,給費制を維持する話も,あまりマスコミ等に扱われておらず,全く国民的議論になっていないように感じ,なんとなく,どちらにするにしても違和感を感じます。

そのような手続き的な違和感をとりあえず置き,この点についての私の意見を述べようと思います。

修習生の給与は,修習生の修習専念義務を実質化する上において極めて重要なものであり,法曹の人気を維持し,有能な人材を広く集めるにも役立っているもので,いずれにせよ「法曹の質」の維持には極めて重要なものだと思います。

後者については利権確保や業界のエゴとの批判もありうるかもしれません。
しかし,法曹は,「人権保護」の一翼を担う重要な仕事です。
「人権」は,国民にとっても,国家にとっても,最も重要なものの一つで,その歴史的価値も,獲得するまでに流れた血の量を考えるとはかり知れません。
問題は,弁護士が人権保護のために動いている仕事量は,弁護士全員から見る割合からして,そんなに高くなく,「人権の番犬」としての役割を担っているのがほとんどです。また,全く人権保護活動をしない弁護士も多数います。
裁判官や検察官養成のためならいざ知らず,90%程度が弁護士になる修習生のため,本当に「人権の番犬」になるとは限らない者のために,国民の大事な血税を使うことの是非がこの問題の核心のような気がします。

ここで,筋違いかもしれませんが,国民と国家において,最も重要なもの一つである「国防」と比べたいと思います。
防衛大学校及び防衛医大の学生は,授業料はタダで,しかも,給料をもらえます。
「国防」は国民の生命・身体の安全,自由にとって,とても大事な問題であることは,戦争がなくならない現実世界においては多くの人が認識するところでしょう。
自衛隊は,やはり「番犬」なのです。また,防衛医大は自衛官任官しない場合または9年以内に退官する場合には,防衛医大でかかった経費を返還することになっているらしいですが,防衛大学の場合にはそのような返還の必要はないそうです(私の意見で核となる部分ですが,正確な調査してません。すみません)。

もしこの話がそうなら,レベルや割合等の違いがあるとはいえ,似たような問題だと私はします。
現時点で,「防衛大学の学生の給与を廃止せよ」という方は少ないと思います。それは「国防」が重要だとわかっているからです。
私は,「国防」と同じくらい「人権」も大事だと思っており,そのためには,もっと安く法曹の質を維持できる代替案がない限り,修習生の「給費制」は維持すべきだと思っています。

代替案について,もっと十分な国民的な議論が必要だと思います。

ここで,当面の予算の問題を言うなら,「裁判員裁判」をやめて欲しいと思います。
この前の耳かき屋の死刑求刑の事件でも批判されていましたよね。

私自身はこの制度にわざわざ6人の裁判員と2名の補充裁判員(補欠みたいなもの)の日当(選任手続日,審理日,評議日,判決日)と,この8名を選ぶために,その何倍もの候補者何十名の選任手続日の日当を国庫から払うほどのメリットが,現時点あるのかなと思っています。
国民の半分以上は賛成していなかったし,反対も多かったし,評議に裁判官が入るので民意の反映も制度的に確保されていないからです(素人がプロに反論して勝つのは難しいし,誘導されやすい。また,密室でやり,守秘義務があるので裁判官の誘導がなかったということの保障もない。)。
裁判結果にばらつきが出たり,裁判官の誘導がなかったりしても,裁判結果が世論と連れると批判される可能性があります(本来なら裁判員がそう判断したのなら仕方がないねという風潮が広がっている必要があると思います。)。

話がかなりズレましたが,お金がないから修習生の給料を廃止するくらいなら,その前に裁判員裁判をやめるべきだと思います。
(ちなみに,これは私が担当した裁判員裁判の負け惜しみではありません。私の担当事件は検察側求刑の6割未満で,弁護側求刑の方に近い結果になり,おかげさまでいい結果が得られました。)

ともかく,もうすぐ今年からの修習生の給与がなくなるかどうかが決められようとしています。


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
まだ分からないって言ってたですよ (なべび)
2010-12-02 07:57:36
この間,司法試験を合格してこれから神戸の少年事件では全国的知名度のある弁護士さんのところで修習するという女性と飲みに行ったのですが,この時点でもどうなるか決まっていなくて不安だと漏らしてましたわ。

世知辛いよなあ。。。
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もうわかっています。 (NOBI)
2010-12-02 18:58:45
もう法案が通って,今年の修習生は給料がもらえるようになったそうです。

それにしてもなべびさん,修習生の友人がいたのですね。あの超有名な褒章もらった先生のところに行くのはラッキーかも。
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友人ではなくて… (なべび)
2010-12-02 22:47:53
S弁の教え子さんがしばらくバイトに来ていて,とても気があったので,時々飲みに行ったりするのです。

確かにN先生のところで修習するなんて聞いた時は本当に驚いてしまいました。 
本人にはそのすごさが分かってなかったのが笑えましたが。

私は元アンクル弁護士のつながりで,N先生の訟廷日誌を見せてもらった事があるのですが,ちゃんとお家に帰ってご飯を食べる日(奥さんにそれを伝えてある日)が書かれていたことが一番驚きました。
家庭と仕事の両立の第一歩とおっしゃってましたわ~。大したお人だと感心しましたです。
NOBIさんもお気をつけて。
でないと,私のようになりまっせ。
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