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黄色い星の子供たち

2013年11月23日 20時44分09秒 | 洋画2010年

 ◎黄色い星の子供たち(2010年 フランス、ドイツ、ハンガリー 125分)

 仏題 La Rafle

 英題 The Round Up

 staff 監督・脚本/ローズ・ボッシュ 撮影/ダヴィッド・ウンガロ

     美術/オリヴィエ・ロー 衣装デザイン/ピエール=ジャン・ラロック

     挿入歌/エディット・ピアフ『Paris』

 cast メラニー・ロラン ジャン・レノ ガド・エルマレ ラファエル・アゴゲ アンヌ・ブロシェ

 

 ◎1942年7月16日、ヴェル・ディヴ事件

 正式には、ヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件っていうんだけど、

 どうやら、近頃のフランスでは、この事件を知らない若者が増えているらしい。

 嘆かわしい話だけど、ちょっと驚いたのは、

 フランス政府がナチスへの加担を1995年まで正式に認めてなかったことかも。

 ナチスに占領されていた時代のできごとは関係ないという姿勢だったらしく、

 まあ、そういいたくなるのはわからないではないけど、

 実際にヴェル・ディヴ事件は起こってるわけだからね~。

 で、どんな事件かっていえば、

 ユダヤ人の大量検挙を目的とした「春の風作戦」により、

 パリ市内および郊外在住のユダヤ人1万3152人を一斉に検挙して、

 市内にある冬季競輪場ヴェロドローム・ディヴェールに強制収容し、

 そのあらかたを絶滅収容所へ送りつけたのが、それだ。

 黄色い星の子供たちは、ここに4115人、いた。

 メラニー・ロランはそこで赤十字から派遣された看護婦をつとめ、

 ジャン・レノはユダヤ人ながらも医師だったために収容所への移送が送らされていた。

 このふたりの目撃するという形になっているのがこの映画で、

 主役となるのは、ユダヤ人のガド・エルマレ一家だ。

 実はこの一家は実在している。

 たったひとり、長男のジョゼフ・ヴァイスマンだけが逃げ、生き延びた。

 この役をやったのはユーゴ・ルヴェルテという11歳の少年で、

 知的な目をして、必死になって役になりきり、物事をしっかり見つめようとしている。

 いや、ほんと、いい表情だった。

 ジョゼフ・ヴァイスマンは、このたびの撮影にも参加したらしい。

 孫の手をひいてヴェル・ディヴに収容された役を演じ、

 メラニー・ロランと対話した。

 メラニーは、経由先であるロワレ県ボーヌの収容所までかれらに付き合うんだけど、

 食事もかれらとおなじものを食べたことで痩せ細り、倒れる。

 実際、彼女はそのときのストレスと栄養失調が元で帯状疱疹になり、倒れたとか。

 なんだか、デ・ニーロ・アプローチみたいだけど、

 この6人しか派遣されなかった内のひとりで実在する看護婦の名前は、アネット・モノ。

 人権について生涯訴えた人らしい。

 その看護婦の魂がのりうつったように、メラニー・ロランはがんばってる。

 帯状疱疹の薬によるものか、

 それとも、

 役に入れ込みすぎて子供たちを列車から引き摺り下ろさんばかりに怒り、

 それが頂点に達したためか、

 ともかく、ぎらぎらと光る瞳のまま痙攣を起こして倒れ込んだらしい。

 凄い話だ。

 正義感があって、同時にとってもやさしい女性なんだろう。

 そうした心の美しさが、そのまま容姿に満ちてるみたいで、

 だから、メラニー・ロランが好きなんだよな~。

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ブーリン家の姉妹

2013年11月23日 15時15分47秒 | 洋画2008年

 ◎ブーリン家の姉妹(2008年 イギリス、アメリカ 114分)

 原題 The Other Boleyn Girl

 staff 原作/フィリッパ・グレゴリー『The Other Boleyn Girl』

     監督/ジャスティン・チャドウィック 脚本/ピーター・モーガン

     撮影/キーラン・マクギガン 美術/ジョン=ポール・ケリー

     衣裳デザイン/サンディ・パウエル 音楽/ポール・カンテロン

 cast ナタリー・ポートマン スカーレット・ヨハンソン クリスティン・スコット・トーマス

 

 ◎1536年5月19日、アン・ブーリン斬首刑

 罪状は反逆、姦通、近親相姦、魔術ってことになってて、

 しかも姦通した男は5人で、

 その内の1人は弟ジョージで、これが近親相姦の罪とされた。

 ほんとかどうかは、専門外のぼくが知ってるはずもない。

 でも、当時の大英帝国の歴史はかなり込み入ってるみたいで、

 姦通や近親相姦が皆無だったとはちょっとおもえない。

 だって、やがてエリザベス1世を産み落とすアンの夫ヘンリー8世も、

 少なくとも8人の王妃を抱えていて、その内の4人がアンと血縁関係にある。

 アン、アンの妹メアリ、アンの母エリザベス・ハワード、母方の従妹キャサリン・ハワード。

 つまり、

 ハワード家の女たちがヘンリー8世の嗜好に合ってたってことになるのかもしれない。

 でもまあ、書き出してみても凄い話で、

 これがほんとうだったら、親子どんぶりとかいった次元じゃない。

 ちなみに、上記キャサリンも後に姦通罪で処刑されてるわけだから、

 やっぱり、皆無じゃないんだろう。

 でも、姦通はまだしも、

 近親相姦とかってなると、おぞましさも手伝って罪に値するんだろうけど、

 ヘンリー8世のように一族の血をわけた女性を愛人するのは罪にはならない。

 最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンも、ヘンリーの兄アーサーの妻だったし、

 そのあたりの詳細な家系図を作れば、

 やはり庶民とは比べるのも愚かなほど入り組んだものになるんだろう。

 で、アンだ。

 アンがどんな性格だったのかはわからないけど、

 もともと侍女として仕えてたキャサリンを追い出して王妃になったわけだし、

 このいざこざのせいで、

 大英帝国がカトリックと袂を分かつてイギリス国教会をつくる元にもなるしで、

 大英帝国の歴史には欠かすことのできない女性ってことになる。

 あ、忘れない内に書いとくと、

 このときの宗教改革でひと役買ったのが、トーマス・クロムウェルだ。

 クロムウェルは、

 政敵で献身的にカトリック擁護の立場にあったトーマス・モアを処刑に追い込んだ。

 まあ、クロムウェルについては後で触れるけど、

 アンのしでかしたのは、宗教改革の要因だけじゃなくて、

 なんでも前王妃キャサリンの生んだメアリ1世のことは、

 以前に愛人だったヘンリー・パーシー伯爵に「殺す」といっていたっていうし、

 実際、メアリを娘エリザベスの侍女にしてるし、

 キャサリンが幽閉先で他界したときなんて、ヘンリー8世と祝宴まで開いた。

 まあ、実際、又従姉妹のジェーン・シーモアを侍女にしてたんだけど、

 このジェーンにヘンリー8世の心が移っていくんだから、

 人間の運命なんてものは、ほんと、先が知れない。

 ちなみに、ジェーンが平均的な容姿だったのに比べ、アンは美人だったらしい。

 とはいえ、黒髪で、色黒で、小柄で、痩せてたらしいから、

 妹のメアリが金髪で、肌白で、豊満だったのに比べてかなり見劣りする。

 その分、性格が烈しかったんだろうけどね。

 このアンを演じたのがナタリー・ポートマンで、

 妹のメアリはスカーレット・ヨハンソンが、

 母のエリザベス・ハワードはクリスティン・スコット・トーマスが演じてる。

 キャスティングは好い感じだった。

 ナタリー・ポートマンの高慢さと自惚れと虚栄心とがごっちゃになった演技は、

 最終的にその自尊心のために自滅してしまうラストによく繋がってる。

 そんな気がした。

 で、ここでまたクロムウェルの登場ってことになるんだけど、

 アンの処刑についても、王とジェーン・シーモアとの婚姻についても、

 全面的に支持してる。

 そんなこともあって、クロムウェルの息子グレゴリーの妻は、

 ジェーン・シーモアの妹エリザベスってことになったんだろうけど、

 これほど王室に食い込んだクロムウェルもまもなく失脚してる。

 ジェーンが産褥死したためにヘンリー8世の4人目の妻を探さなくちゃいけなくなり、

 後のドイツのユーリヒ=クレーフェ=ベルク公ヨハン3世の娘アンナ・フォン・クレーフェこと、

 アン・オブ・クレーヴズを推薦したものの、この結婚は半年で破綻した。

 このせいでクロムウェルは反逆罪で告発され、処刑された。

 首は、トーマス・モアの首が吊るされたロンドン橋に吊るされた。

 このクロムウェルの姉キャサリンの玄孫が、

 イギリス史ではただ一度だけ共和制に移行したときの立役者オリバー・クロムウェル。

 オリバーの遺骸はロンドン塔に吊るされたから、なんだか運命的な話だけどね。

 さらにちなみに、

 アン・オブ・クレーヴズの後、ヘンリー8世の5人目の妻になったのが、

 アン・ブーリンの従妹のキャサリン・ハワードなんだけど、

 こちらのキャサリンも不義密通を疑われて逮捕、処刑された。

 ヘンリー8世の6人目にして最後の妻になったのは、キャサリン・パー。

 ヘンリー8世の3人目の妻ジェーンの兄トーマス・シーモアの恋人だったんだけど、

 別れさせられて王妃になった。

 まあ、ヘンリー8世が死んでから、このふたりは復縁する。

 とはいえ、トーマス・シーモアもまた困ったもので、

 ふたりは、アン・ブーリンの遺児エリザベスをひきとってたんだけど、

 この寝室に入り込んで、不義密通を疑われた。

 で、エリザベスはシーモア家から出され、紆余曲折の後に、

 エリザベス1世として王位を継承してる。

 それ以後のことは映画『エリザベス』の話だから、ここには書かないけど、

 なんにしても、もうなにがなんだかわからないくらい、ごちゃごちゃしてる。

 いいかえれば、大英帝国の王室史は、物語の宝庫だね。

 つぎつぎに映画が作られるのは、よくわかるわ~。

 あ、最後に、原題はThe Other Boleyn Girlだから、

 実際の主役はスカーレット・ヨハンソンってことになるんだろう。

 まあ、純粋なために不幸に見舞われてしまう女性が主役になるのは、

 物語の王道なのかもしれないしね。

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