馬場あき子旅の歌37(11年3月) 【遊光】『飛種』(1996年刊)P122
参加者:N・I、井上久美子、崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:曽我 亮子
司会とまとめ:鹿取 未放
279 箒売る男行きわが立ち止まるオリエント急行今日発車なし
(まとめ)(2014年12月改訂)
オリエント急行は1833年に開始されたパリとイスタンブールを結ぶ豪華な寝台列車。優雅に3泊4日をかけて走り王侯貴族などに愛用されたが、1977年には飛行機等におされて乗客が減少したため廃止された。その後、様々な別会社がオリエント急行の車両を買い取り、いろいろなルートで観光用に「オリエント急行」を走らせている。作者がトルコ旅行をした1993年当時は、オリジナル・ルートで再現した特別企画列車が年1~2回走っている程度であったようだ。「今日発車なし」とはそういう事情のうえでの言葉である。
この歌は「オリエント急行」のかつての終着駅だったトルコのシルケジ駅での属目と感慨であろうか。かつて王侯貴族達が豪華列車から降り立った駅に、今は箒を売る男が行く庶民的な顔を見せている。「今日発車なし」とは、賑わった往時への懐かしみと寂しさであろうか。時は移り、王侯貴族が使った待合室はレストランになって、観光客で賑わっているそうだ。(鹿取)
(レポート)(2011年3月)
イスタンブールの街をゆくと箒を商うアジア風の男が歩いていて、私は一瞬「ここはどこ?」と立ち止まってしまった。そうだ、「オリエント急行」の発車は無いのだった。
作者が行かれた時は、イスタンブール発定期列車としての「オリエント急行」は既に発車していなかったのでしょう。そしてトルコはヨーロッパと小アジアの両大陸に跨る特異な国家であることを詠われたのではと思います。トルコ最大の街イスタンブールを二分するボスポラス海峡が接点となり様々の東西文明が混じり合い個性的な文明を醸成しているのです。そして両大陸固有の文明もまた、違和感なく共存し、宗教もイスラム・ユダヤ・キリスト各教ともに存立しています。 (曽我)
(意見)(2012年2月)
★「今日発車なし」の結句がいきいきしている。(崎尾)