かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠358(スイス)

2014年12月08日 | 短歌一首鑑賞

 馬場あき子旅の歌48 【アルプスの兎】『太鼓の空間』(2008年刊)173頁 
           参加者:N・I、井上久美子、崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
           レポーター:渡部 慧子
           司会とまとめ:鹿取 未放


345 戦争を逃がれてスイスに棲まんとせし強き肩弱き足思ふ雪の峠に

        (レポート)(2012年2月)
 ヨーロッパ中央に位置するスイスは、他民族・他国との利害、野望の中の歴史であった。それにともなう人、物の動きは、地理的にアルプス山脈(すなわち峠)を越え、繰り広げられた。ハンニバルのアルプス越え、ローマ皇帝カエサルの峠越え、ナポレオンの第2次イタリア遠征の為のサルベルナール峠越えなどは歴史に名高い。この他にも闘いが多く、そのたびに峠は戦略的に重要になり、また「戦争を逃がれてスイスに棲まんとせし」人々が峠を越えたと思われる。作者の旅は、その地の負う歴史に心を寄せるものであるが、掲出歌は闘いのどれとは特定せず、現代風に言えば難民であろう「強き肩弱き足」の民を「雪の峠に」「思ふ」のである。峠とは逃避、野望、憧憬など様々な想念の行き交うところ、そこへ「雪の」と形容する作者の思いは、遙かな過去に及んで抒情を添えている。(慧子)

     (意見)(2012年2月)
★雪の深さを感じる。(N・I)
★強い人間の意志の強さ、それでも大変である。(崎尾)
★老若男女では動きが出ない。大人、女人、子どもを思わせ、具体を詠むことで実感が出ている。
     (鈴木)
★そうですね、強い肩を持った男性も、弱い足を持った女性や子どもも難儀をしてスイスに逃げて
 きたさまを思いやっているのでしょうね。確かにどの戦争と特定していませんけど、割と近い時
 代の難民のことをいっているのでしょう。現代は鉄道やバスで比較的簡単に国境の峠にも行ける
 訳ですけど、至り着いた峠の雪の深さに驚いているのでしょう。(鹿取)