かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

ブログ版 渡辺松男の一首鑑賞 2の52

2018年04月03日 | 短歌一首鑑賞
  ブログ版渡辺松男研究2の7(2017年12月実施)
    【山鳥薇】『泡宇宙の蛙』(1999年)P36~
     参加者:泉真帆、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放
  

52 凩の火のごうごうと山を吹きめくられてゆく世界地図あり

      (レポート)
 凩の凄まじい勢いを火に例えているとも、実際の山火事とも、いずれにも読めそうだが、やはり喩だろう。「ごうごう」と吹くものはいったいどこまで吹くのか。地形を変えるほど吹くのか、国境をこゆるのか、そんな想像が結句「吹きめくられてゆく世界地図あり」と飛躍と共に楽しい一首。(慧子)


      (当日発言)
★視覚的に簡単に考えました。山の地図が一枚捲られるように凩が吹くことによって風景が変わっ
 た。山に行くと凩の音は本当に火の燃える音のように聞こえるのではないでしょうか。「吹きめ
 くられてゆく」も体験者の実感があって魅力的な歌だと思います。枯葉とは書いてないけど、枯
 れた葉っぱの擦れ合う音というのはこういうふうに響くのかなと思います。火だから紅葉した葉
 っぱではないでしょうか。それが吹かれて模様が変わっていくので世界地図と言った。(真帆)
★50番歌の〈あれは遠き群衆の声こがらしが山をはだかにしてゆく摩擦〉というのも似たような
 場面なのですが、リアルと夢想というのがミックスされている感じでした。これも同じ感じで火
 のように激しい凩のリアルに対して下句は飛躍があると思って読んでいました。また直前の51
 番歌〈狼は滅びたりけり山駆けるまっ赤なる目のようなゆめゆめ〉の後なので、世界地図がめく
 られるとは、狼が滅びたように何かが滅びて何かが勃興するとか、歴史が転換するとか、私はそ
 んなことを思ったのですが。リアル世界地図という慧子さんの意見には意表を突かれたし、山の
 斜面にそんなものが転がっていてもおかしくはないですね。真帆さんの紅葉が変化していく様と
 いうのもダイナミックで面白いなと思います。(鹿取)
★上句は現状を変えることかなあとも思いました。(慧子)
★上句ですか?それいうなら「めくられてゆく世界地図」の方が「現状を変える」にあたると思い
 ますが。私は変えるではなくて、世界情勢が激しく動いているというふうに取りました。否応な
 く移り変わっていく。でも、山に落ちていた世界地図が捲られていくってリアルに読むのも面白
 いですね。細かいことですがレポートの【結句「吹きめくられてゆく世界地図あり」】の「結句」
 は「下句」の間違いですね。(鹿取)
★世界地図は政治のこともあるけど地形のこともあると思います。(慧子)