かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞 287

2016年02月20日 | 短歌一首鑑賞

   渡辺松男研究35(16年2月)
       【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)119頁
        参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
       レポーター:石井 彩子
       司会と記録:鹿取 未放


287 女子職員同士のながきいさかいもひとりの臨職泣かせて終わる

       (レポート)
女子職員同士の長いいさかいが続いて、職場の能率を妨げることになった。一方の側に非があるわけではない。が、立場上、正規職員の方を守らなければならないのである。「泣かせて」には辞めさせられた臨時職員の悔しい思いとともに、厳しい作者の管理職としてのやりきれない思いが窺われる。(石井)


     (当日意見)
★このとおりの解釈でいいと思います。(M・S)
★「泣かせて」は必ずしも辞めさせられてとはかぎらないし、〈われ〉が管理職とも限らない
 と思いますが。正規、臨職どちらが悪いとも限らないのに上司が中に入って臨職の方を黙ら
 せてしまった、そういう場面だと思います。〈われ〉はそういう一連の流れを端から見てい
 て苦々しく思っている、ともとれます。(鹿取)
★女子職員同士がながきいさかいをしていたんだけど、そのはけぐちを臨職に向かわせて終わ
 らせた、ということではないですか。(真帆)
★そうも取れますね。私は正規職員と臨職が例えばお茶当番とか朝の机拭きとかをするとかし
 ないとかいさかいをしていたんだけど、上司が介入し、臨職に全て押しつけて不本意な形で
 いさかいが終了したと取りましたが、誰と誰が争ったかは書いてないですものね。ああ、で
 もこの例は分かりややすいけどちょっとまずかったですね。実際はもっと陰湿ないさかいな
 んでしょうね。(鹿取)
★作者は傍観的に見ていたかもしれないけど、一応上司としておきました。善悪は別にしてど
 ちらを取るかと言われると、上司としては正規職員を残さざるをえない。長いいさかいです
 から辞めさせられたと私は取りました。辞めさせられたと取る方が「泣かせて終わる」の解
 釈にふさわしいと思います。(石井)
★辞めさせるという言葉は歌のどこにも無いですが。(藤本)
★私は一連を読んで、公務員としての厳しい立場、自分とは合わないかもしれないけれど、辞めさ
 せた。長いいさかいだからどちらかが辞めないと終わらない訳です。(石井)
★そこまで解釈を広げる必要があるんでしょうか。長いいさかいというのは2~3日とかその程度
 じゃないですか。何年もなんってないと思います。(藤本)
★私は長いとは半年とか1年とか、そういうスパンだと思いますけど。(鹿取)
★女性の方が諍いをしやすいと思います。それでは仕事の能率が上がらない。だから辞めてもらわ
 ないといけないという思いがどこかにあったのではないでしょうか。それで元の平和な職場に戻
 った。(石井)
★「女性の方が諍いをしやすい」はまずいと思います。私はこの歌を読んで古いなと思いました。
 時代が違うなって。(藤本)
★長い長い陰湿ないさかいを見せられる方は、職場の雰囲気が悪くなるし仕事の能率も上がらない 
 から確かに嫌でしょう。だからやむなく上司が介入した。石井さんの意見聞いていて、「泣かせ
 て」の中には「辞めさせた」という選択肢もありとは思います。しかし、「理不尽な条件を押し
 つけられて居残っている」選択肢もありと思います。あと、藤本さんが古いと言われましたが、
 この歌「女子職員同士」というところに限界があるように思います。それは90年代という時代
 の限界でもあるかもしれませんけど。これが男性の職員同士のいさかいだったら、作者はこんな
 ふうに歌わないでしょうね。無意識だけど男性という強者の側に立った見方だと思います。ジェ 
 ンダーという視点で考えたら問題ありかもしれませんね。(鹿取)