脱ケミカルデイズ

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「クスリの裏側」が疑わしいワケ

2014年09月09日 | 

週刊東洋経済2014年9月13日号(9月8日発売)
「クスリの裏側」が疑わしいワケ
普段何げなく飲んでいるその薬、本当に必要ですかhttp://news.nifty.com/cs/magazine/detail/toyo-20140907-47245/2.htm

堀越 千代 :週刊東洋経済編集部 記者

 高血圧で、数年前から定期的な通院を続けていた西日本に住む60代の女性が、7月からパタリとクリニックに来なくなった。前回の診療で女性はこう医師に告げたという。

「基準値が変わって私の値でも大丈夫になったそうですね。『降圧剤を飲み続けるとがんになる』って本に書いてあったのも気になっていて。もう通院はやめます」。

この女性の言う「基準値」とは、今年(2014年)4月に日本人間ドック学会らが発表した「新たな健診の基本検査の基準範囲」のことだろう。そこに示された数値は、各専門学会がガイドラインで示している上限値より高く、「健康とみなされる基準値が緩和された」などとする報道が相次いだのだ。

そんな中、『高血圧は薬で下げるな』『薬剤師は薬を飲まない』など、薬や医療の不必要性を論じる本が売れ行きを伸ばしている。普段、何げなく飲んでいる薬は本当に必要なのだろうか――。多くの人が疑わしい気持ちを抱き始めている。

 

相次ぐ不祥事で製薬業界への信頼も失墜

このところ、製薬会社による臨床研究の不正や疑惑が次々と噴出している。世界第2位のノバルティス ファーマは、高血圧治療薬「ディオバン」に関する臨床研究に社員を送り込み、自社製品が有利となるようなデータの改ざんを行っていたことで元社員が逮捕された。それに続き、国内最大手の武田薬品も、高血圧治療薬「ブロプレス」で同様の不正を行っていたことが明らかになった。国内の高血圧患者は800万人とも言われており、ブロプレスは1000億円級の市場規模を持つ大型薬。競合ひしめく中で製薬会社も必死だ。

また、こうしたケースでかかわった医師はもれなく奨学寄付金を受け取っていた。その額は億単位に上るものもある。国から研究機関に対して豊富な予算が支給される米国と異なり、日本の先端研究は企業の資金に支えられている。一方、2年前に医師に対するMR(医薬情報担当者)の接待が規制されるまで、平日は食事による接待、休日はゴルフに付き合い、必至で自社製品を売り込むのがMRの日常だった。

医師と製薬会社がこうした持ちつ持たれつの関係にあったのは事実。通院のたびに処方される薬の裏にはこういう事情があったのか。一連の報道を通じて、こうしたうがった見方をする人も多かったはずだ。

日進月歩のサイエンスの恩恵を受けるために

だが、ここ数年で製薬会社を取り巻く環境は激変しつつある。これまでの稼ぎ頭だった生活習慣病薬が特許切れを迎え、売り上げが激減。新薬開発の舞台は、がんや希少疾患などアンメッドメディカルニーズ(未充足の医療ニーズ)が高い病気に移りつつある。

その多くは、タンパク質など生物由来の物質に由来し、ナノテクノロジーを駆使して製造されるバイオ医薬品だ。段階的な化学合成の工程を経て製造される従来の医薬品に対し、高い治療効果がある。しかし、こうした薬の開発は難易度が高い。基礎研究から考えれば、1つの薬が市場に出るまでに10年以上かかり、その成功確率はわずか3万分の1。その費用も数百億円に上るとされる。とはいえ、次の10年を生き永らえるためには、こうした分野での成功を積み重ねていかなければならない。

一方、こうした新薬の登場のおかげでこれまで治療をあきらめざるをえなかった多くの患者が救われていることも事実だ。たとえば、免疫反応を強化して攻撃する新たながん治療薬は、今後幅広いがん種への適応が期待されているし、緑内障治療に使われている薬が薄毛(男性型脱毛症)にも高い有効性を示すとして承認申請に向けた治験中だ。

こうして進化するサイエンスの恩恵を受けるためにも、薬や医療を端から遠ざけるのではなく、正しい知識を持つ賢い患者になることが求められている。


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