脱ケミカルデイズ

身の周りの化学物質を減らそうというブログです。 

特定保健用食品(トクホ)の誇大な宣伝に惑わされない

2012年08月15日 | 食品

毎日新聞2012年8月3日 <食品表示の裏側>健康の甘いワナ/下 1000品目超えた「トクホ」
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/medical/20120803ddm013100174000c.html

 ◇行き過ぎた宣伝に疑問も 食生活見直すきっかけに

 一定の健康効果を国が認めた特定保健用食品(トクホ)が今年5月、1000品目を超え、7月時点で1003品目になった。91年の制度開始から20年あまり。医療に頼らず健康を維持する方法として注目されたが、最近は、行き過ぎた宣伝や効果への過信が議論になっている。

 健康食品問題に詳しく、食品安全委員会の専門調査会委員なども務めた高橋久仁子・群馬大教育学部教授は「肥満でも脂質異常でもない健康な学生が、トクホ飲料に高い関心を示すのを知って驚いた」という。「多大な効果があるかのような宣伝は行き過ぎ。どんな試験でトクホが許可されたかを冷静にみる必要がある」。そこで挙げてもらったのが、コーラ史上初のトクホと注目を集めた「キリンメッツコーラ」(キリンビバレッジ)の例だ。

 「食事の時に飲めば脂肪の吸収を抑えられる」とうたい、爆発的な売れ行きを見せている。480ミリリットル中に、デンプンの一種である水溶性食物繊維の「難消化性デキストリン」が5グラム配合されている。このデキストリンの働きでトクホの許可がおりた。

 試験は、平均年齢約43歳の男女90人(うち女性29人)にパン、ハンバーグ、フライドポテトを食べてもらい、食事と一緒に「トクホコーラを飲んだ群」と「通常のコーラを飲んだ群」に分けた。その後2、3、4、6時間後の血液中の中性脂肪値に差が出るかどうかを調べた。結果は、2、3、4時間後で、トクホコーラを飲んだ群の方が平均して中性脂肪値が低かった。血糖値や総コレステロールでは有意な差はなかった。

 試験結果をまとめた論文によると、試験に参加した人の空腹時の血中中性脂肪値は総じてやや高め(血液100ミリリットルあたり120~200ミリグラム)で、しかも肥満度の指標となる体格指数「BMI」の平均は、約26の肥満だった。また、試験で摂取した脂肪の総量も約41グラムと高かった。これは日本人の1日あたり平均脂肪摂取量(約54グラム)の約8割に相当する。

 高橋さんは「この試験から言えることは、肥満で中性脂肪値の高めの人が、非常に脂っこい料理を食べた時に、中性脂肪の上昇がやや抑えられたということだけだ」と話す。

 「食事時以外に飲んでも中性脂肪値が下がるわけではない。これを飲めば、脂肪の取りすぎが帳消しになるかのように思ってはいけません」。同様のことは、ほかのトクホ飲料にも当てはまる。

     ◇

 中性脂肪値が下がるのは、脂肪がデキストリンにくっついて便として排せつされるからだ。どれくらい排せつされるかについて、デキストリンメーカー「松谷化学工業」は「試験にもよるが平均して数%」と言っている。数%程度の抑制ならば、脂肪が気になる人は「脂肪の摂取量を控えるのが基本」(梅垣敬三・国立健康・栄養研究所情報センター長)という見方もある。

 一方、「健康な人にとって脂肪は栄養素の一つという視点も必要だ」と話すのは、栄養問題に詳しい柴田克己・滋賀県立大人間文化学部教授。普通の食生活で1食あたり20グラム程度の脂肪なら特に多いわけではない。柴田さんは「健康な人がトクホ飲料を飲む意義は低いので、食事時に20グラム程度の脂肪を取ったときに、トクホ飲料を飲んでも飲まなくても、差がないという試験データも必要だ」と話す。

 そもそも、トクホの許可要件の第一条件には「食生活の改善が図られ、健康の維持増進に寄与することが期待できるもの」がある。消費生活アドバイザーの若村育子さんは「食事時に甘いコーラをたくさん飲むことが、食生活の改善に結びつくとは到底思えない」と疑問を投げかける。

 コーラはスナック菓子やハンバーガーなどと相性がよい。松谷化学工業は「日本人の食物繊維の摂取は少ないので、脂の多い食事の時にトクホ飲料を飲む意義はある」とする。トクホ飲料登場で健康維持の選択肢が広がったという考え方だ。

     ◇

 今、トクホの世界でデキストリンはひっぱりだこだ。これまでデキストリンを配合した食品で「整腸作用」「食事後の血糖値の上昇抑制」「食事後の中性脂肪の上昇抑制」の三つの許可がおりた。1000品目中約3割をデキストリン使用商品が占める。

 トクホ飲料に一定の有効性があるのは確かで、要は賢く活用すればよいが、梅垣さんは「トクホはあくまで自分の食生活を見直すきっかけにしたい」とアドバイスする。

 現在、トクホが認められているのは「整腸」「血糖値」「血圧」「むし歯」など8項目。このほかに「免疫を上げる」「疲労感を抑える」といった用途で許可を求める動きもある。たとえば、抗疲労トクホ。鳥の胸肉成分から抽出した抗疲労食品もあり、人の試験で疲労感を抑える有効性が論文として報告されている。日本疲労学会が疲労に関する臨床ガイドラインを作っていることなどから、疲労研究で知られる倉恒弘彦・関西福祉科学大教授は「有効性のデータから言えば、抗疲労トクホが誕生する可能性はある」と話す。

 また、乳酸菌の一種が、がん細胞を攻撃するリンパ球の働きを活性化させるという研究報告もある。ただ「免疫を上げる」という言葉が医学的な効果・効能にあたるとの指摘もあり、トクホへの道のりは険しい。有効性のデータはあっても、血圧や血糖値のような客観的な指標があるかどうかがカギだ。【小島正美】

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 ◆特定保健用食品の用途

(1)腸を整える
(2)コレステロール値を下げる
(3)血圧を下げる
(4)血糖値の上昇を抑える
(5)中性脂肪の上昇を抑える
(6)ミネラルの吸収を助ける
(7)骨密度を高めるなど骨の健康を維持
(8)むし歯になりにくい