徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

“副反応あり”でも定期接種化されたロタウイルスワクチン

2020年09月22日 06時41分06秒 | 小児科診療
毎年冬になると嘔吐下痢症が流行します。
子どもで多い原因がロタウイルスによる胃腸炎です。
吐き気/おう吐と下痢が約1週間続き、便の色が薄く白っぽくなるのが特徴です。
中には脱水症に陥り入院が必要になることもあります。
途上国の子どもたちの大きな死亡原因でもあります。

恥ずかしながら、私の子どもたちも入院経験があります。
父親が小児科医でも、脱水の進行を止めることはできませんでした。

このロタウイルス胃腸炎をなんとか征圧できないものか、と
世界の研究者達はワクチン開発に注力してきました。

初期に開発されアメリカで認可されたワクチン(ロタシールド®)は、
副反応である“腸重積”が想定外に多く発生し、中止に追い込まれました。
その後も開発が続けられ、現在日本では2種類のワクチンが認可されています。

そしてこの秋(2020年10月)、定期接種化されました。
赤ちゃんのすべてが費用補助されて接種(実際には注射ではなく内服)できるようになるのです。

しかし“全く安全”なワクチンではなく、
小児科医の中でも「定期接種にするには時期尚早ではないか?」
という議論がくすぶっているのが現状です。

ワクチンは複数回内服するのですが、
初回内服してから1週間後までに、明らかに“腸重積”が多く発生するのです。
その頻度は10万人当たり1〜5人。
製薬会社に安全性を問うと、
「乳児期を通しての腸重積発生は、ロタウイルスワクチン接種の有無で差がない」
と説明しています。
つまり、
「ロタウイルスワクチン接種後に明らかに腸重積発生頻度が上がるが、
1年を通しての数は接種しない場合と差がないから問題ない」
という説明。
私自身、なんだか腑に落ちません。

つまりこのワクチンは、
「副反応がないから安全ですよ」
ではなく、
「副反応はあるけど想定内だから気をつけて接種しましょう」
というレベルであることを認識して望むワクチンなのです。

この点が今までのワクチンと異なるので、
日本人に受け入れられるかどうか心配です。

「腸重積」とは小腸と大腸のつなぎ目に起こる病気で、
小腸が大腸の内側に反転して潜り込んでしまいます。
すると血流が悪くなり、腸粘膜組織が痛んで出血し、
“いちごゼリー状”と表現される血便が出てきます。
当然、ガマンできないほどお腹が痛みますので、
赤ちゃんはずっとぐずっています。

この“グズリ”の時点で医師に相談する必要があります。
「なんだかいつもと違う、哺乳後もグズリが止まらない」
と母親の第六感が働いたら、迷わず医療機関を受診していただきたい。
血便が出るまで様子を見ると、重症化してしまう危険があります。

腸重積はロタウイルス胃腸炎の合併症です。
ロタウイルスワクチンは生ワクチンであり、
自然界にあるロタウイルスを弱毒化した物を、
あえて内服してヒトに軽く感染させ、
症状が出ないけど免疫を獲得しようとする薬です。

なので、合併症としての腸重積が、
副反応として発生するリスクを排除できないのですね。

私は勤務医時代、年間10人前後の腸重積患者さんを診療してきました。
しかし1歳前後が中心で、3ヶ月未満の赤ちゃんの経験は記憶にありません。
ロタワクチン定期接種後、まれながらそのような患者さんが発生するということです。

下記記事とは数字が異なりますが、先日の聴講したWEBセミナーでは、
・ロタウイルス胃腸炎の下痢便1gの中には1000万個のロタウイルス粒子が含まれている。
・ロタウイルス粒子10〜18個が口に入るとヒトは感染してしまう。
という説明でした。
ですから、口の中に少しでも入れば感染は成立し、感染力が強い理由です。
ワクチンを飲んだ後に吐いてしまっても、口の中に入れば追加は必要ないという理由でもあります。


■ 感染力の強い「ロタウイルス胃腸炎」 脳炎で後遺症のリスクも…10月定期接種化
2020/9/21 朝日新聞)より一部抜粋
世界で年間約20万人の乳幼児が死亡
 乳幼児期にかかる病気として、よくあるもののひとつが胃腸炎です。胃腸炎の原因には、ウイルスや細菌などがありますが、特に注意しなくてはいけないのがロタウイルスによる胃腸炎です。この胃腸炎は非常に感染力が強く、世界中の全ての子どもが一度はかかる感染症といわれています。ロタウイルス性胃腸炎は他の胃腸炎より重く、特に初めてかかった場合に重症化しやすい特徴があります。途上国では、5歳以下の子どもの主要な死亡原因のひとつで、年間に約20万人もの乳幼児が、ロタウイルス胃腸炎で死亡しているという報告もあります。 
 ロタウイルス胃腸炎とはどのような病気なのでしょうか。
 発症のピークは、生後6か月~2歳です。ほぼ全ての乳幼児が3~5歳までに感染し、発症するとされています。 この感染症は、1回かかっても、一生続く免疫を得ることができません。したがって、繰り返し感染します。ただし、何度もかかると次第に症状は軽くなっていきます。

脱水症、けいれんや脳炎に注意
 感染すると1~2日の潜伏期の後、下痢、嘔吐、発熱、腹痛などの症状が出現します。この病気は自然に回復しますが、ノロウイルスなど他の胃腸炎より症状が重いことが多く、治るまでに1週間くらいかかることも少なくありません。脱水症にもなりやすく、けいれんや脳炎などの合併症にも注意が必要です。よく白色便がみられると言われます。便が白っぽくなる理由は、肝臓から腸に排出されたビリルビン(便の色が黄色くなる原因です)が便に混じる暇もないくらい、下痢が多いためです。したがって、ロタウイルス以外のウイルスでも、下痢がひどい場合には白い便がみられることがあります。  特効薬はなく、下痢や嘔吐などに対する対症療法が中心です。ORSなどの経口補水液、点滴、整腸剤の内服などで治療します。なお、ウイルスですので、細菌を退治する抗菌薬は効果がなく、乳幼児は下痢止めも原則、投与すべきではないとされています。

通常の衛生管理で制御は困難
 ロタウイルス胃腸炎の問題は、様々な合併症があることです。 
けいれん:熱性けいれん、胃腸炎関連けいれんなどを起こしやすい。 
脳炎:意識障害や長引くけいれんを伴い、重い脳炎を起こすことがある。後遺症の出るケースが38%もあったという報告もある。 
腸重積:ロタウイルスの感染症が原因で腸重積を起こすこともある。 
症状が回復しても、1週間は便にウイルスが排泄(はいせつ)されます。オムツを適切に廃棄し、石けんでの手洗い、次亜塩素酸での衣類の消毒などを徹底する必要があります。しかし、ロタウイルスの粒子は非常に安定しており、感染力も非常に強いです。患者1人の下痢の中には、便1グラムあたり100億~1兆個ものウイルスが存在していますが、ヒトからヒトへは、わずか100個のウイルスがあれば感染してしまいます。したがって、先進国であっても、通常の衛生管理だけで、この感染症を制御することは困難です。

初回感染の代わりにワクチンを
 感染力が非常に強く、時に死亡や重症化をもたらすロタウイルス胃腸炎を予防する最も有効な手段がワクチンです。前に、ロタウイルスは複数回感染する可能性があり、初めての感染で重症化しやすいとお話ししました。逆に言えば、2回目以降は、1回目ほど重症化しません。この性質を利用し、初回感染の代わりに、ワクチンで同様の免疫を得ることができれば、その後、実際にロタウイルスに感染しても軽症ですむだろう、という狙いです。そうして、最も重くなりやすい初感染を軽くできれば、入院や死亡といった重い結果に至るのを防ぐことができます。
  ここまでの話でお分かりいただけるように、このワクチンを接種しても、感染そのものを防ぐことはできません。しかし、重症化の予防が期待できます。「ワクチンを打ってもかかったから意味がない」わけではないことを、知っていただければと思います。

1価と5価 2種類のワクチン
 ロタウイルスワクチンには、1価(ロタリックス®)と5価(ロタテック®)という2種類のワクチンがあります。これらはどう違うのでしょうか。
  ロタウイルスには、遺伝子の型によっていくつかの種類があります。1価ワクチンは、最も高頻度に存在する型(G1P[8])から作られたワクチンで、5価はヒトのロタウイルスの9割を占める5つの型から作られたワクチンです。つまり1価と5価は、成分として含まれているワクチン株の数を意味します。何となく、5価の方がカバー範囲が広く、効きそうな気がしますね。しかし実際は、大規模な臨床試験の結果、1価のワクチンであっても、ワクチンに含まれていない他の型のロタウイルス腸炎まで十分防御できることが分かっており、どちらを選んでも効果は同等と考えてよいでしょう。 
 これらのワクチンの実際の効果はどれくらいなのでしょうか。海外では、ロタウイルスワクチン導入後に、この感染症による死亡や重症下痢症が大きく減少しました。09年、世界保健機関(WHO)は、ロタウイルスワクチンを各国の定期接種に導入することを推奨しました。 
 現在では、世界130か国以上で承認され、100か国以上で定期接種になっています。日本でも11年から任意接種として導入され、ロタウイルス胃腸炎による入院率は85%減少するなど、多くの研究でワクチンの有効性が十分に認められています。

副反応で注意すべき「腸重積
 20年10月、ロタウイルスワクチンはついに、わが国でも定期接種になります。これまでも、任意接種で約60%以上の接種率とされていましたが 、定期接種化で100%近くになると予想され、さらなる患者減少が期待されています。接種スケジュールは、生後2か月(8週)からの初回接種となると考えられています。 
 ・・・初回接種が生後15週以降になると、副反応として、腸重積のリスクが上がるとされており、日本小児科学会は、生後8週~14週6日までに初回接種を行うことを推奨しています。 
 ワクチンの副反応には、下痢、嘔吐、胃腸炎、発熱などが1~5%ほど出るとされています。一番知っておいてほしいのは、この腸重積です。1回目の接種後1週間以内に、腸重積を発症することが稀(まれ)にあるのです(10万人あたり1~5人)。  腸重積とは腸の中に腸がもぐり込んで重なってしまう病気で、一般的に生後3か月以降で発症し、多くは1歳未満です。原因は不明ですが、胃腸炎や風邪などの後に多いとされています。もぐり込んだ腸が締め付けられるため、血液が十分に行かなくなったり、出血して血便が出たりすることもあります。放っておくとさらに締め付けられ、腸自体が腐った状態になってしまうため、できるだけ早く、もぐり込んでしまった腸を元に戻す必要があります。もぐり込んだ時間が24時間を超えると、開腹手術が必要になる可能性が高くなります。

 腸重積を疑う症状には、以下があります。 
(1)15~30分おきに不機嫌な様子を繰り返す 
(2)何度も嘔吐を繰り返す 
(3)イチゴゼリーのような血便が出る
 他には、ぐったりして顔色が悪いなども見逃してはいけない症状です。
 この病気は早く見つけて治療することが非常に大切です。前述したように、初回ワクチン接種が生後15週以降になるとリスクが高くなるとされていますが、14週6日より前に接種したから腸重積が起こらないわけでもありません。したがって、接種後(特に初回)7日以内は、腸重積を疑わせる症状が出現したら、速やかに医療機関を受診する必要があることを、保護者だけでなく、子どもを預かる家族、保育所などの関係者もしっかりと知っておくことが大事です。

定期接種の対象は20年8月以降生まれ
 なお、時々相談されることですが、ワクチンが口から多少こぼれても、赤ちゃんの飲み込みが確認できれば、再接種の必要はありません。ただし、大部分を嘔吐してしまった場合、1価については主治医の判断で再接種を考慮することがありますが、5価では、その回の接種を再び行うことはしないとされています。また、1価と5価のワクチンを交互に接種することはできません。 
 また、10月から始まる定期接種の対象者についても注意が必要です。定期接種の対象となるのは、20年8月以降に生まれたお子さんです。7月までに生まれたお子さんは任意接種となりますが、腸重積のリスクを考え、生後2か月になったら受けてください。

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