ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

がん疼痛治療のレシピ(2007年版)、春秋社

2007年01月06日 | 婦人科腫瘍

コメント(私見):

がん末期の患者さんの緩和医療では、疼痛をうまくコントロールすることが非常に重要です。鎮痛薬、オピオイドには多種類あって、一般臨床医にとってそれらをどう使い分けていくのかの判断は非常に難しいです。緩和医療に非常に熱心に取り組んでいる当院の麻酔科の先生から本書(2004年版)を勧められて、わかりやすく実用的で非常にいい本だと感心しました。今回、2007年版が出版されたのでさっそく購入しました。白衣のポケットに入るサイズで非常にコンパクトな本ですが、がん疼痛治療の基本的考え方から最新の薬剤の使い方まで、必要なことはすべて書いてあると思われます。

Gantotsu

書名がん疼痛治療のレシピ(2007年版)
著者的場元弘[執筆・監修]
著者略歴国立がんセンター がん対策情報センター
がん医療情報サービス室長。
発行元春秋社
体裁手帳判
頁数176
発行日2006-11-30
税込価格1000 円(本体952円+税)

●2007年がんの痛み治療の最前線

●最新の薬剤の使い方をわかりやすく解説

がん疼痛治療の決定版として好評を博した2004年版を改訂増補。がん疼痛治療の原則から考え方、痛みの評価法、治療の実際、各オピオイドの使い分けからオピオイドローテーションまでをわかりやすく解説。この1冊でがん疼痛治療の重要なポイントすべてを網羅している。

副作用対策、鎮痛補助薬の適応と投与法、投与経路変更時の換算表もついて今日からすぐに役立つ。医師、看護師、薬剤師必携のがんの痛み緩和マニュアル

全頁カラー
明解図表、最新薬価表付き

*** 以下、本書2007年版の『序』より引用

緩和医療の領域ではこの2年間に色々なことがあった。最近では「がん対策基本法」が成立し、がん医療の後始末くらいにしか思われてなかった緩和医療が、がん医療の中で重要な位置を占めるようになった。

高度先進医療が中心、大学病院では緩和医療は馴染まないと豪語していた面々の先見性の乏しさはともかくとして、その後の豹変ぶりは滑稽でさえある。

緩和医療が政策として動き出した時、そこには心からその実現を待ち望む患者さんやご家族がいて、またそのための教育や人材確保、環境の整備に心を砕く医療者や行政、立法の関係者がいる。法律は成立したが、仏像に眼が入ったわけではない。”緩和医療とは何か”がん医療に関わる医療者がこの問いに向き合い、その大切さを認識して欲しい。補助金や加算のための緩和医療の導入では患者さん達やご家族の本当の満足は得られない。病院の陳腐なスローガンとしてではなく、個々の医療者が心を添えて緩和ケアを提供してもらいたい。

人は、自分にいつかは死が訪れることを理屈ではわかっている。しかし、普段私たちは自分が死ぬことを想定していない。死なないと思っている。

何千年にもわたって人が亡くなる悲しさを繰り返してきたにもかかわらず、人の命に限りがあることを自覚するのは、子を授かる時、そして大切な人の死に臨んだ時、そして自分の死を予感した時である。その場になって何とか無事を願う。逃れる術を考え、心から祈ることを覚える。自分を振り返れば取り繕いようがない、まさに身をもって学ばされたことである。

一方、現実はどうか。人が平穏な死を迎えるためにほんの少し心を砕き、そのための医療を提供することには、未だに多くのがん医療者や医療機関の管理者が抵抗する。制度や施設の問題ではない。自分は死なないと思っているからだろう。本当に愚かなことだと思う。

生命を扱うことに携わる人たちがこのことに気つき、緩和医療が本当の意味で患者さんやご家族に提供できるように、緩和医療が”眼に入る”ことを願う。

          2007年版によせて  的場元弘

(以上、2007年版の『序』より引用)

****** 用語解説

緩和医療(かんわいりょう)とは?

主に末期がん患者などに対して行われる、主に治癒や延命ではなく、痛みをはじめとした身体的、精神的な苦痛の除去を目的とした医療である。緩和ケアとも言われる。 オピオイドをはじめとした鎮痛剤や神経ブロックなどの処置を用いて、終末期に臨む時期のQOL(生活の質)を最大限高めることを目標としている。終末期医療のなかでも最も重要な位置づけを持つ。

緩和医療についてWHO(世界保健機関)は、以下のように定義しています。「緩和医療とは、治癒を目的とした治療に反応しなくなった疾患をもつ患者に対して行われる積極的で全体的な医療であり、痛みのコントロール、痛み以外の諸症状のコントロール、心理的な苦痛、社会面での問題、spiritualな問題の解決が重要な課題となる。緩和医療の最終目標は、患者とその家族にとって出来る限り良好なQOLを実現させることである。このような目的を持つので、緩和医療は末期だけではなく、もっと早い病期の患者に対しても、がん病変の治療と同時に適用すべき多くの利点を持っている。」

****** 追記(1月7日)

婦人科領域では、最近は卵巣癌が非常に増えてきています。

卵巣癌は、治療方法が進歩し、手術と最新の化学療法でほとんどの患者さんを一時的には病気のない状態にまでもっていけるようになってきましたが、長い目で見ればかなり多くの患者さんが再発していて、長期生存率は依然として不良であり、5年生存率が約30%、10年生存率が約10%であり、治療成績は現在でも決して良好とは言えません。

再発した時には最初に使った抗癌剤は無効の場合が多く、抗癌剤を変更すると一時的には効果がありますが、それもいずれは無効となります。

がんの治療では、最初は治癒や延命を目的とした治療が100%で緩和医療が0%ですが、次第に、治癒や延命を目的とした治療の比率が低くなっていき、緩和医療の比率が高くなっていきます。ある時期からは治癒や延命を目的とした治療が0%で緩和医療が100%となっていきます。ですから、がんの治療では緩和医療は非常に重要です。

しかし、現状では、がんの治癒や延命を目的とした治療の専門家は大勢いますが、緩和医療の専門家は非常に少ないです。地方の一般病院では、緩和医療の専門家はほとんど勤務していません。

我々、一般の臨床医や看護師は、今まで緩和医療の教育はほとんど受けてこなかったし、緩和医療の知識や技術は圧倒的に不足しています。また、治癒や延命を目的とした治療だけで忙殺されていますから、緩和医療が非常に大切であることは頭で理解していても、緩和医療にじっくりと取り組んでゆくだけの余裕が全くありません。

いくら医学が進歩しようとも、人間誰でも最後は必ず死にます。これからは、医療従事者だけでなく、行政や宗教家なども含めて、社会全体で広い意味での”緩和医療”に真剣に取り組んでゆく必要があると思います。