<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>
~ドイツ、バーデンバーデンにおける ”葵トリオ” 演奏会~

①クララ・シューマン:ピアノ三重奏曲 ト短調 作品17
ピアノ三重奏:葵トリオ
②ブラームス:セレナード 作品106 第1
かじ屋 作品19 第4
まどろみはいよいよ浅く 作品105 第2
愛のまこと 作品3 第1
五月の夜 作品43 第2
むなしいセレナード 作品84 第4
クララ・シューマン:6つの歌曲 作品13
メゾ・ソプラノ:ナタリア・ボエヴァ
ピアノ:イワン・デミドフ
③ブラームス:ピアノ三重奏曲 第2番 ハ長調 作品87
ピアノ三重奏:葵トリオ
収録:2019年10月12日、ドイツ、バーデンバーデン、ヴァインブレンナー・ザール
録音:南西ドイツ放送協会
放送:2023年1月23日 午後7:30 ~ 午後9:10
ピアノ三重奏団「葵トリオ」は、ヴァイオリン:小川響子、チェロ:伊東裕、ピアノ:秋元孝介の東京芸術大学の大学院生と卒業生の3人により2016年に結成された。2018年9月にドイツ南部ミュンヘンで行われたドイツ公共放送ARD主催の第67回「ミュンヘン国際音楽コンクール」のピアノとバイオリン、チェロによる三重奏部門で第1位を獲得。同部門で日本からの入賞は初めて。「葵(AOI)」は、3人の名字の頭文字を取り、花言葉の「大望、豊かな実り」に由来する。第28 回「青山音楽賞」バロックザール賞、第29回「日本製鉄音楽賞」フレッシュアーティスト賞を受賞。現在はドイツを拠点に、ミュンヘン音楽大学でD. モメルツに 師事しながら国内外で活動している。
ピアノ三重奏:葵トリオ
②ブラームス:セレナード 作品106 第1
かじ屋 作品19 第4
まどろみはいよいよ浅く 作品105 第2
愛のまこと 作品3 第1
五月の夜 作品43 第2
むなしいセレナード 作品84 第4
クララ・シューマン:6つの歌曲 作品13
メゾ・ソプラノ:ナタリア・ボエヴァ
ピアノ:イワン・デミドフ
③ブラームス:ピアノ三重奏曲 第2番 ハ長調 作品87
ピアノ三重奏:葵トリオ
収録:2019年10月12日、ドイツ、バーデンバーデン、ヴァインブレンナー・ザール
録音:南西ドイツ放送協会
放送:2023年1月23日 午後7:30 ~ 午後9:10
ピアノ三重奏団「葵トリオ」は、ヴァイオリン:小川響子、チェロ:伊東裕、ピアノ:秋元孝介の東京芸術大学の大学院生と卒業生の3人により2016年に結成された。2018年9月にドイツ南部ミュンヘンで行われたドイツ公共放送ARD主催の第67回「ミュンヘン国際音楽コンクール」のピアノとバイオリン、チェロによる三重奏部門で第1位を獲得。同部門で日本からの入賞は初めて。「葵(AOI)」は、3人の名字の頭文字を取り、花言葉の「大望、豊かな実り」に由来する。第28 回「青山音楽賞」バロックザール賞、第29回「日本製鉄音楽賞」フレッシュアーティスト賞を受賞。現在はドイツを拠点に、ミュンヘン音楽大学でD. モメルツに 師事しながら国内外で活動している。
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今夜最初の曲のクララ・シューマン(1819年―1896年):ピアノ三重奏曲 ト短調 作品17は、1846年に完成した彼女の唯一のピアノ三重奏曲。その頃、夫のロベルト・シューマン(1810年―1856年)はひどく健康を害しており、療養のために訪れたノルダーナイ島にて作曲された。このピアノ三重奏曲の作曲から1年後に、夫のロベルト・シューマンは、自らのピアノ三重奏曲第1番を書き上げた。これら2つの作品にはいくつかの共通点があることから、クララの作品がロベルトの作品に大きな影響を与えたことが分かる。このような経緯から、コンサートでは2人の作品が合わせて演奏されることも少なくない。クララは、生涯で30曲のリート、コラール、ピアノ独奏曲、ピアノ協奏曲、室内楽曲、管弦楽曲を作曲したが、このピアノ三重奏曲はその中でも”傑作”とされている作品。
このクララ・シューマン:ピアノ三重奏曲は、豊かな曲想が全体を覆い、聞き進むうちにリスナーは夢幻のような世界に知らず知らずに導かれる、優れたピアノ三重奏曲作品である。もっと日本でも演奏される機会があってもいいのではないかと、今回の葵トリオの放送を聴きながら考えた。その葵トリオの今夜の演奏であるが、明るく伸び伸びと演奏しており、クララ・シューマンのこの作品にかける思いが十全に表現されたのではないだろうか。当時、クララ・シューマンは、夫のロベルトの病状がはかばしくなく、精神的に追い詰められたはずだが、この作品にはそんなひっ迫感は感じられない。葵トリオは、そんなクララの心の底をのぞき込むように、緻密で微妙に揺れ動く心のひだを巧みに表現した演奏を聴かせてくれた。
このクララ・シューマン:ピアノ三重奏曲は、豊かな曲想が全体を覆い、聞き進むうちにリスナーは夢幻のような世界に知らず知らずに導かれる、優れたピアノ三重奏曲作品である。もっと日本でも演奏される機会があってもいいのではないかと、今回の葵トリオの放送を聴きながら考えた。その葵トリオの今夜の演奏であるが、明るく伸び伸びと演奏しており、クララ・シューマンのこの作品にかける思いが十全に表現されたのではないだろうか。当時、クララ・シューマンは、夫のロベルトの病状がはかばしくなく、精神的に追い詰められたはずだが、この作品にはそんなひっ迫感は感じられない。葵トリオは、そんなクララの心の底をのぞき込むように、緻密で微妙に揺れ動く心のひだを巧みに表現した演奏を聴かせてくれた。
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2018年67回「ミュンヘン国際音楽コンクール」のピアノ・トリオ部門で日本の葵トリオが優勝したが、ピアノ・トリオのほか、同時に声楽、ヴィオラ、トランペットの3部門が行われ、声楽部門で優勝したのがロシアのメゾ・ソプラノのナタリア・ボエヴァ。
今夜のメゾ・ソプラノのナタリア・ボエヴァの歌唱は、非常に安定したもので、ブラームスの歌の世界にピタリと合っていた。伸びやかな音声であり、特に聴きごたえがあったのが、その音声の奥行きの深さだ。さすが「ミュンヘン国際音楽コンクール」の声楽部門の優勝者だけのことはある、と感じ入って聴き終えた。
今夜のメゾ・ソプラノのナタリア・ボエヴァの歌唱は、非常に安定したもので、ブラームスの歌の世界にピタリと合っていた。伸びやかな音声であり、特に聴きごたえがあったのが、その音声の奥行きの深さだ。さすが「ミュンヘン国際音楽コンクール」の声楽部門の優勝者だけのことはある、と感じ入って聴き終えた。
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今夜最後の曲のブラームス:ピアノ三重奏曲 第2番 ハ長調 作品87は、1880年から1882年にかけて作曲された。この曲はブラームスの最も清澄で透明な作品であり、楽器用法も、第1番以来の年月の進歩の如実に示しており、主題そのもの及びその処理も簡潔になっていて、全てが円熟した明晰な内容となっている。しかし、第1番の明快さに比べ、ブラームス独特の晦渋さが全体を覆い、近寄りがたい雰囲気が漂っているのも確か。 第1楽章 アレグロ、第2楽章 アンダンテ・コン・モート、第3楽章 スケルツォ プレスト、第4楽章 アレグロ・ジョコーソ の4つの楽章からなる。
今夜の葵トリオのこの曲の演奏は、クララ・シューマン:ピアノ三重奏曲の時とは一変し、重々しく分厚なブラームス独特の世界をこれでもかというほど強調して演奏に没入していたのが印象に強く残った。この曲は、ブラームスの室内楽作品の中でもひときわ晦渋さが際立った作品であり、芯からのブラームス好きにはたまらないであろうが、一般のリスナーには少々荷が重い曲には違いない。葵トリオにとっては、その辺は重々承知の上の話であろう。しかし、葵トリオは決して聴衆に媚びることなく、まっしぐらにブラームスの世界に突き進む。そんな葵トリオの執念は、次第にリスナーにも伝わったのではないかと思われる。それにしても今夜の3人の息の合った緻密な演奏内容は、見事というより外はない。(蔵 志津久)
今夜の葵トリオのこの曲の演奏は、クララ・シューマン:ピアノ三重奏曲の時とは一変し、重々しく分厚なブラームス独特の世界をこれでもかというほど強調して演奏に没入していたのが印象に強く残った。この曲は、ブラームスの室内楽作品の中でもひときわ晦渋さが際立った作品であり、芯からのブラームス好きにはたまらないであろうが、一般のリスナーには少々荷が重い曲には違いない。葵トリオにとっては、その辺は重々承知の上の話であろう。しかし、葵トリオは決して聴衆に媚びることなく、まっしぐらにブラームスの世界に突き進む。そんな葵トリオの執念は、次第にリスナーにも伝わったのではないかと思われる。それにしても今夜の3人の息の合った緻密な演奏内容は、見事というより外はない。(蔵 志津久)