goo blog サービス終了のお知らせ 

★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽◇メロス弦楽四重奏団のシューマン/ブラームス:弦楽四重奏曲全曲

2009-02-10 14:41:58 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

シューマン;弦楽四重奏曲全曲
ブラームス:弦楽四重奏曲全曲

弦楽四重奏:メロス弦楽四重奏団

CD:独グラモフォン 423 670-2

 このCDにはシューマンとブラームスの弦楽四重奏曲全曲(いずれも3曲)が3枚のCDに収録されている。一見すると特別なCDとは見えないのだが、シューマンとブラームスの弦楽四重奏曲をパッケージにしたところがミソといえるのである。全6曲を聴き通すとシューマンとブラームスの作品の共通点が鮮明に浮かび上がってくる。いずれも3曲である点、第3番がそれぞれ大きなスケールで書かれ、演奏頻度も高いこと、二人とも室内楽曲では多くの名曲を残しているが、その中にあって弦楽四重奏曲は比較的地味な存在である点、などである。このような共通点が生じた背景には、ベートーベンの弦楽四重奏曲の存在があることは間違いないことであろう。何んとかベートーベンの弦楽四重奏曲を超えた作品をつくりたいという二人の思いが、結果として似通った作品に仕上がったということになるのではないであろうか。

 もちろん、シューマンとブラームスの弦楽四重奏曲がすべて同じというわけではない。シューマンの作品がロマンの香りが高い、シューマン独特の内向した情緒が幾重にも塗り込められたものに仕上がっているのに対し、ブラームスの作品は、激しい感情の揺らめきとか、外に向かったロマンの謳歌など、あたかもベートーベンの作品を思い起こさせるようなものに仕上がっている。ブラームスの交響曲第1番は、ベートーベンの第10交響曲とも言われている通り、ベートーベンを目標にし、同一の高みに持っていくことに成功したブラームスではあるが、弦楽四重奏曲では、これが思い通りにいったかというと、必ずしもそうではなさそうなのである。確かにブラームスの第3番の弦楽四重奏曲は傑作として現在でも演奏されることが多いが、ベートーベンの弦楽四重奏曲の持つスケールの大きさ、人間の心の奥底に潜む複雑な心理の描写、激しい情熱の吐露、絶望感、人間としての一体感など、時代を超越して我々に訴える圧倒的力強さには、今ひとつ及ばない。

 ところで、このCDで演奏しているメロス弦楽四重奏団の演奏は、例えようもないほどの弦の豊穣の響きに唖然とさせられる。弦楽四重奏であるはずなのに、あたかも弦楽合奏団の演奏を聴いているような錯覚にとらわれてしまう。単に4人に息が合っているとか、弦の響きが美しいとかの次元ではなく、もっと大きな重厚な音の響きに体全体が包まれるような心地よさなのである。決して他の弦楽四重奏団には求められない彼ら独特の世界で我々リスナーを魅了してきた。このメロス弦楽四重奏団は1965年結成のドイツの弦楽四重奏団で、ジュネーヴ国際音楽コンクールで最高賞を獲得するなど活躍したが、残念ながらヴィルヘルム・メルヒャーの死により05年に解散してしまった。真に残念なことではある。クラシック音楽は、オペラやオーケストラなどに注目が集まりやすいが、実は弦楽四重奏団の質のレベルこそが、その国や地域の音楽的な水準をはかる上で最も信頼のできる物差しであると確信している。その意味で、日本において地道に息長く活動している弦楽四重奏団には、いつも私は陰ながら敬意を払っているのである。(蔵 志津久)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇プラハ弦楽四重奏団のブラームス弦楽四重奏曲全曲集

2009-01-15 11:23:47 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

ブラームス:弦楽四重奏曲第1、2、3番
ヴォルフ:イタリアン・セレナーデ

弦楽四重奏:プラハ弦楽四重奏団

CD:日本コロムビア 50CO-1715~6

 ブラームスの室内楽は数多くあり、我々の馴染みのある曲も多い。この中にあって弦楽四重奏曲はいささか地味な存在だ。ブラームスの弦楽四重奏曲と聞いて即座にその曲想を思い浮かべることのできる人は相当のクラシック音楽の通人であることは間違いない。ちょっと考えるとブラームスと弦楽四重奏曲は相性が良さそうに感じられるが、実際はそうでなく、ブラームスは弦楽四重奏曲の作曲には相当てこずったことは、20曲以上作曲した弦楽四重奏曲をすべて破棄し、この結果現在3曲しか残っていないことからもうかがえる。これは何故なのか。門馬直美氏のライナーノートによれば次のような理由が考えられるという。つまり、それまで室内楽というと貴族などの邸内で演奏されることが多かったが、それが徐々に演奏会場で演奏されるスタイルに置き換わっていき、このため弦楽四重奏曲より大きな編成の室内楽曲が好まれるようになって行った。ブラームスもこの流れに沿って作曲活動を行った結果である、というわけである。

 ブラームスは3曲の弦楽四重奏曲を1873年~75年の3年の間に作曲し、以後一切弦楽四重奏曲は作曲していない。第1番から第3番の弦楽四重奏曲を聴いてみると、ブラームス独特の晦渋さといおうか難解さが曲全体を覆い、晴れ晴れとしたところがほとんどない。この中で第3番は巨匠的作風とでもいおうか牧歌的で堂々としていて、3曲の中では一番成功した曲であり、現在弦楽四重奏曲の傑作の一つとして評価が高い。それでも、私にはブラームスともあろう人が、見せ場がなく、もう一つ吹っ切れていないという感じがしてならない。これは同時期に交響曲第1番に着手していたので、交響曲の作曲に神経が集中していたためではなかろうか。

 このCDの最大の売りは、演奏しているプラハ弦楽四重奏団の質の高さだ。チェコ出身の演奏者の弦のすばらしさはいまだに世界最高だと思うが、このCDで見せるプラハ弦楽四重奏団の演奏は、限りなく緻密な弦の響きを聴かせ、しかも躍動感溢れる音のつくりは、聴くもののすべてを引き付けてやまない。データによると日本コロムビアとスプラフォンの共同制作で、録音は1978年~79年にプラハのスプラフォン・スタジオで行われたとある。今回のCDのように昔、日本コロムビアはよく海外のレコード会社と提携し著名なクラシック音楽家の録音を海外で意欲的に行っていた。現在、日本のCD制作会社は外国の音源だけに頼らず、昔と同じように意欲的な試みを果たしてしているのであろうか。受身でなく、積極的に新しい才能を、自らの手で開拓して行ってほしいものである。(蔵 志津久)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇ベルリン・ブランディス弦楽四重奏団のシューベルト:弦楽四重奏曲第10/9番

2008-11-20 16:55:10 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

シューベルト:弦楽四重奏曲第10番/第9番

ベルリン・ブランディス弦楽四重奏団

CD:ORFEO(日本グラモフォン)35D-10090(C113 851A)

 クラシック音楽にとって頂点に位置するのがオーケストラおよびオペラであるとするなら、ピアノ、バイオリン、チェロなどの独奏者およびリートがそれを取り巻くパーソナリティ群、そして奥座敷に控えるのが弦楽四重奏団といったと図式になろうか。弦楽四重奏団は常日頃あまり華々しい話題を提供することはないが、その国の音楽のレベルを推し量るには、弦楽四重奏団の質を見ればおおよそのことは分かるといっても間違いではあるまい。私は昔ラジオにしがみつきクラシック音楽を聴いていたときには弦楽四重奏曲が今よりずっと多く流されており、オーケストラと同じくらい、いや身近な存在ではオーケストラ以上に親近感を持っていた。バリリ弦楽四重奏団、ウィーンコンチェルトハウス弦楽四重奏団、ブタペスト弦楽四重奏団、ブッシュ四重奏団、スメタナ弦楽四重奏団、ヴェーグ四重奏団、イタリア弦楽四重奏団、アルバン・ベルク弦楽四重奏団などなど懐かしい名前を今でも思い出すことができる。

 どの位前のことだろうか、深夜ラジオで音楽評論家・山根銀二氏の解説でバリリ弦楽四重奏団によるベートーベンの弦楽四重奏曲の全曲放送などは、正にラジオとにらめっこしながら「何とか全曲を聴いてしまおう」とばかり意気込んで聴いていたのを昨日のように思い出す。今考えると昔の日本のクラシック音楽番組は凄かったなと思う。今のFM放送でベートーベンの弦楽四重奏曲全曲を流す局はあるのか(あったら御免なさい)。昔は当然のごとく流されていたし、ベートーベンのピアノソナタ全曲放送もよく行われていた。

 それに、今考えると可笑しいのだが、山根銀二氏の解説はまるで大学の教授の講義のようで、こちらもその格調高い内容を授業を受けるかのごとく聞いていた。まあ、音楽番組というよりは、今なら差し詰め放送大学に近い内容であった。一曲一曲これはベートーベンが何歳のときにどういう意図で作曲したかを延々と、こと細かに解説するのだ。これでベートーベンという人がどういう人かが手に取るように分かって面白かったのを覚えている。翻って今の音楽放送をみてみると、すべてが“分かりやすい”“短く”“面白く”がモットーで、ベートーベンの弦楽四重奏曲全曲放送などはおよそ避けて通られている。情けないし、悲しいことではある。何故もっと硬派のクラシック音楽評論家や放送ディレクターが出てこないのか。こんな状態だと将来日本のクラシック音楽界は衰退を辿ることになってしまう。喝だ!

 今回のCDはベルリンフィルのメンバーからなる「ベルリン・ブランディス弦楽四重奏団」のシューベルトの弦楽四重奏曲第10番/第9番である。聴くとその音色にたちどころに虜になる。なんとやわらかく、あたたかく、伸びやかな音色であろうか。全身をゆったりとした音色で包まれたような気分に浸れるという、あまり例がないほどの感覚に痺れてしまうほどだ。これがベルリンフィルの実力かと感動させられる。同四重奏団は1976年1月に設立され、すぐ高い評価を得ている。中心メンバーは第1バイオリンのトーマス・ブランディスとチェロのヴォルフガング・ベトヒャー。ブランディスは1962年にベルリンフィルの第1コンサートマスターに就任したが、四重奏活動に専念するために1983年からベルリンフィルを離れた。ベトヒャーは1963年から1976年までベルリンフィルの首席チェロ奏者を務めたあと、同四重奏団の結成に参加した。このCDの録音データを見ると1982年11月、ベルリン、ジーメンス=ヴィラとある。

 ベートーベンの弦楽四重奏曲の話に戻すが、現在のわが国のコンサートは放送とは大違いで、熱心にベートーベン演奏に取り組んでいる。その一つがプレアデス・ストリング・クァルテットである。08年9月15日には第1生命ホール(東京)で「ベートーベン弦楽四重奏曲全曲演奏会Ⅳ」が行われた。私も当日聴いたが、その演奏の素晴らしさには感動させられた。「世界に出ても恥ずかしくないだけの力を持ったクァルテットが誕生した」と思ったものだ。当日の満席の聴衆も惜しみない拍手を送っていたのを思い出す。同クァルテットは09年3月22日(日)に連続演奏会のⅤを行うことにしており、その先も続く。その息の長い活動に拍手を送りたい。このほか古典四重奏団もベートーベン・ツィクルスを続けている。

 そして08年12月31日(!)には東京文化会館で「ベートーベン弦楽四重奏曲(8曲)演奏会」(クァルテット・エクセルシオ/古典四重奏団/ルートヴィヒ四重奏団)が行われることになっている。ジルベスターコンサート(大晦日コンサート)でベートーベンの弦楽四重奏曲8曲が演奏されるのは、世界広しといえどもここだけではないでしょうかね。このように日本のコンサートでのベートーベンの弦楽四重奏曲の演奏は熱心に取り組まれているのにもかかわらず、そのCDにお目にかかれないのは残念なことだ。採算の面で問題があるのだろうが、ここはCDメーカーさんに頑張ってもらって発売してもらえないものだろうか。(蔵 志津久)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇スメタナ四重奏団のドヴォルザーク:“アメリカ”/ピアノ五重奏曲

2008-09-30 16:38:34 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番“アメリカ”
ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲Op81

演奏:スメタナ四重奏団

ピアノ:ヨセフ・ハーラ

CD:DENON(日本コロムビア) 33C37-7338

 スメタナ四重奏団は1942年チェコスロバキアのプラハで結成され、第2次世界大戦の終戦の年の1945年から公開活動を開始した。1949年からはチェコ・フィルハーモニーから独立し、世界各国で演奏活動を繰り広げている。度々来日し、その高い音楽性を披露してきた世界でも第一級の弦楽四重奏団である。このCDは日本での公演のライブ録音なので親しみがわく。ドヴォルザークの弦楽四重奏曲“アメリカ”が1980年9月30日、神戸文化ホール、そしてピアノ五重奏曲が1978年11月18日、新宿厚生年金会館での録音だ。

 スメタナ四重奏団がCDに録音した演奏はいずれも高いレベルに達しており、一部の隙のない完成度が高いものに仕上がっている。このCDの弦楽四重奏曲“アメリカ”でも、哀愁漂うメロディーを決してべたべた弾かずに簡潔に表現し、それが聴く者に強い印象を残すことに成功している。一方、有名なピアノ五重奏の方は、この曲の持つ煌びやかさを存分に引き出しており、誠に楽しい曲であることがリスナーに十分に伝わってくる。2曲とも名曲中の名曲であることを実感させてくれる演奏内容となっている。

 このCDと対を成すCDを、スメタナ四重奏団は別に録音している。それはスメタナ四重奏団に、第一ビオラがヨゼフ・スーク、ピアノがヤン・パネンカの2人の名手が加わったもので、ドヴォルザークの弦楽五重奏曲第3番とピアノ五重奏曲Op5の2曲が収められたCDだ。“アメリカ”に並行して作曲されたのが弦楽五重奏曲第3番であり、Op81の陰に隠れてめったに演奏されないが、若いときに作曲された意欲作がOp5のピアノ五重奏曲である。この2曲は演奏されることが少ないが、CDであるためいつでも聴けることができ、ドヴォルザークがいかに室内楽の名人であるかを再認識させてくれるCDとなっている。(蔵 志津久)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇ドビュッシー/ラヴェル:弦楽四重奏曲

2008-08-01 12:07:17 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

ドビュッシー:弦楽四重奏曲
ラヴェル:弦楽四重奏曲

ヴィア・ノヴァ四重奏団

CD:RVC R32E-507

 ドビュッシーもラヴェルも生涯で弦楽四重奏曲を1曲しか作曲しなかったが、ともに作曲家としての名声を得た傑作である。ドビュッシーが30歳のとき、ラヴェルが27歳のとき作曲され、若き時代の意欲作であることが分かる。しかし、両曲とも若々しさというよりは、成熟した趣を漂わせているのはさすがと思わせる。この2曲は雰囲気が似ているためよくCD1枚に収められ、発売されるケースが多い。ドビュッシーの弦楽四重奏曲は、夕暮れ時に机の上に宝石箱から転がり出た宝石を眺めているようで、その彩が時間とともに微妙に変化していく様のようで、幽玄というしかない。ラヴェルの弦楽四重奏曲も同様な曲想からなっているが、ドビュッシーの曲を意識して書かれたためだろうか、より立体的といおうか、柔軟な妖艶さを醸し出すことに成功している。両曲ともこの世のものとも思われないほどの美しさに彩られている。一度聴いたらその魔力の虜になることは間違いない。

 ドビュッシーもラヴェルも、ベートーベンとかシューベルト、ブラームスなどの弦楽四重奏曲を聴き、もっと違った世界の、つまり理詰めで曲を構成するのではなく、人生の何かを暗示させるのでもない、もっと純粋に音楽の美しさを追求したかったのではないか。そして作曲した曲がともに美しさの極限まで表現できてしまった。その結果、もう弦楽四重奏曲を作曲する必然性が出てこなくなったのでは、と感じさせるほどに両曲とも美の頂点を極めた傑作となっている。ドビュッシーは印象派の画家たちに大きな影響を与えたといわれている。特にこの弦楽四重奏曲を聴くと、何か印象派の絵画を見ている思いもする。今、東京・上野の国立西洋美術館で印象派の先生格に当たるコローの展示会が開催されているが、コローの描く風景画を見ていても、ドビュッシーやラベルの弦楽四重奏曲を思い浮かべてしまう。

 ヴィア・ノヴァ四重奏団の演奏は、非の打ち所がないほどの出来栄えで、両曲の演奏の決定盤といってもいいのではないか。4人の演奏の呼吸がぴたりと合っており、まるで一人で演奏しているかのようだ。四重奏は4人がそれぞれ個性を発揮するスタイルか、リーダーである第一バイオリンにほかの3人が合わせるのがほとんどである。ヴィア・ノヴァはそのいずれでもなく4人がまったく一体化し演奏している。特にドビュッシーの曲にこの特徴が発揮されている。ラヴェルの曲は4人の奏者の美意識が立体的に表現され、弦楽四重奏曲の持つ魅力を十分に引き出している。(蔵 志津久)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇カペー弦楽四重奏団の芸術

2008-05-27 10:36:14 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

弦楽四重奏曲集(ベートーベン/モーツアルト/シューベルト/ドビュッシー他)

カペー弦楽四重奏団

CD:東芝EMI TOCE6169~74

 カペー弦楽四重奏団は1893年に、フランス人のルイ=リュシアン・カペー(1873年1月-1928年12月)により結成された20世紀を代表する名カルテットである。このCDにはカペー四重奏団が残した録音である12曲がすべて収録されている。録音時期が1927-1928年のSPの復刻盤にもかかわらず、ノイズカットしたあと東芝EMIのスタジオで再編集したため、その多くが現在の鑑賞に十分に耐えるレベルの音質になっているのが嬉しい。

 演奏を聴くとそのレベルの高さに驚かされる。と同時に聴き飽きないというか、時のたつのも忘れるほど、次ぎ次ぎに繰り広げられる演奏への期待感が高まっていく。何か演奏会場にいるような錯覚といおうか、なまなましさが他の四重奏団と根本的に違う。密度の濃い内容に加え、一本芯がぴちっと通り、しかもすべてが躍動感に溢れている。さらにすごいのが、ベートーベン、シューベルト、ドビュッシーと曲によって、弾き分けていることだ。バリリ弦楽四重奏団のベートーベンはイメージできるが、バリリ弦楽四重奏団のドビュッシーといわれるとなかなかイメージが沸いてこない。カペーはフランス人なのでドビュッシーやラベルはお手のものだ。一方、フランス人がドイツものを演奏すると名演になることが往々にして起きるが、カペー弦楽四重奏団も名演を聴かせており、“ラズモフスキー第1番”の出だしを聴いただけで、その魅力の虜になってしまう。

 このカペー弦楽四重奏団のCDを聴いてからコンサートに行くには、少々勇気が必要となる。多分、質の高いコンサートでないと満足感が得られないであろうから。このCDは、人類が到達した芸術の頂点に立つ一つとして、今後も聴き続けられるに違いない。(蔵 志津久)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇ウィーン弦楽四重奏団のシューベルト:弦楽四重奏曲全曲

2008-03-11 19:51:23 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

シューベルト:弦楽四重奏曲全集

演奏:ウィーン弦楽四重奏団

CD:カメラータ・トウキョウ 30CM-30~32

 シューベルトの弦楽四重奏曲と聞くと「死と乙女」「ロザムンデ」それに「四重奏断章」を思い出すが、では弦楽四重奏曲全曲を聴いたことがあるか言われると、ウーンと唸ってしまう。そんなときにこのCDは大変重宝する。それはシューベルトの弦楽四重奏曲が全曲聴けるというばかりでなく、ウィーン弦楽四重奏団の質の高い演奏を聴くことができるからだ。この全曲集を聴くとシューベルトの室内楽、中でもこの弦楽四重奏曲は一般に知られている以上に価値が高いことが分かる。あのベートーベンの弦楽四重奏曲全曲に次ぐ高みに達していると言ってもよかろう。  良く知られた「死と乙女」「ロザムンデ」「四重奏断章」は勿論名曲、名演であるが、それら以外にでも名曲、名演がぎっしりと詰まっている。

 初期のものでは第2番、第4番が優れている。第8番は後期の作品を思わせる陰影に富んだ曲。第9番はメロディーが綺麗な爽やかな曲。第10番も巨匠風の素晴らしい曲だ。次の第11番は10番と対照的に爽やかでゆったりとした気分に浸れる曲である。第15番はシューベルト最高傑作の一つで、この弦楽四重奏曲に比肩できる曲はベートーベンの曲しかないであろう。

  このように見ていくと、ニックネームが付いた曲は広く知られるが、その反対にニックネームが付いていない曲は、名曲であってもポピュラーにならない。今からでも遅くはない、誰かこれらの作品にニックネームを付ける人はいないのであろうか。(蔵 志津久)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇スメタナ弦楽四重奏団のベートーベン弦楽四重奏曲全曲

2007-10-16 21:07:17 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

ベートーベン:弦楽四重奏曲全曲

演奏:スメタナ弦楽四重奏団

CD:日本コロムビア COCO‐7267‐70

 ベートーベン(1770-1827)の弦楽四重奏曲は交響曲、ピアノソナタと並んで、重要な位置を占めている。その存在価値は今後とも不滅であり続けるに違いない。それは人類の普遍的な心情の吐露であり、そして、すべての人にまとわり付く葛藤の解答が示されているからである。人はもっと良くなりたいと常に考えているが、現実は厳しい。時には人を死に追いやるほど残酷なものだ。しかし、人はそれに耐え、前に、前に進もうとする。そんな時ふと、ベートーベンの弦楽四重奏曲に耳をやると、その過程から、変遷、焦燥、怒り、そして安らぎまで音楽となって提示されているのが理解できる。あたかも心の中のオペラのように。ベートーベンの交響曲そしてピアノソナタは共感しやすいが、この弦楽四重奏曲はとっつきにくい。ところが一度心の中に入り込めば、あたかも自分の曲のように全身で共感できるようになる。ある意味では歳をとるほど親しみの涌く音楽かもしれない。

 スメタナ弦楽四重奏団のベートーベン弦楽四重奏曲の全曲演奏は、柔軟の中にベートーベンでしかありえない意思の強固な表現が込められている。この結果、聴きやすさと同時に一つ筋の通った流れが、聴くもの万人に圧倒的な説得力を持って迫る。よく人は人生について考える。これでいいのか、間違っていたのではないか、もっとよい選択があった筈だと。考える時はゆっくりと、そして明るい希望が持てるときは、軽快に軽々とした足並みで・・・。その反対に絶望した時は、回りが見えなくなり気持ちも滅入る。また、これをバネにして前に前にと進んで行く。

 ベートーベンの弦楽四重奏をスメタナ弦楽四重奏団は、あたかも人生の春秋を万華鏡のように表現して、聴くものを決して飽きさせない。ベートーベンの弦楽四重奏曲は人生の縮図であり、同時に慰めの音楽でもある。ここに人々は引き付けられる。そして、ベートーベンが偉人なのはどんな状況に置かれようと、人は絶望で終わることはないと常に訴え続ける強靭な意志があることだ。今後人類が生存する限り、ベートーベンの弦楽四重奏曲は生き続けるに違いない。スメタナ弦楽四重奏団の演奏は、今考えられる最善の表現力で聴くものを魅了して止まない。
(蔵 志津久)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇バリリ弦楽四重奏団:ベートーベン弦楽四重奏曲全曲

2007-04-19 21:24:17 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)
ベートーベン:弦楽四重奏曲全曲

演奏:バリリ弦楽四重奏団

CD:MCA Records WPCC-4101-3

 ベートーベンの弦楽四重奏曲はベートーベン全作品の中でも奥座敷といったところで、深い精神性が感じられる作品に仕上がっている。それまでの弦楽四重奏曲というと、モーツアルトとかハイドンとかの作品が想い浮かぶが、いずれもどちらかというと軽い感じの作品だ。これに対しベートーベンはこれを一挙に芸術的に高め、クラシック音楽の中でも最も奥深いジャンルに到達させた。演奏はウィーンフィルのコンサートマスターであったワルター・バリリを中心としたバリリ弦楽四重奏団である。この四重奏団はベートベンの作品に合った重々しさと、ウィーンならではの優美さを合わせ持った類まれな四重奏団であった。ベートーベンの弦楽四重奏曲を聴くなら“バリリ”だという定評を得ていた。(蔵 志津久)

http://furt-centre.com/sub1sub5WalterBarylli.htm
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇アドルフ・ブッシュの芸術

2007-03-10 23:25:24 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

①ベートーベン:弦楽四重奏曲 ②シューベルト:弦楽四重奏曲 ③ブラームス:弦楽四重奏曲 ④バッハ:管弦楽組曲 ⑤バッハ:ブランデンブルグ協奏曲 ⑥モーツアルト:ピアノ協奏曲その他

 ヴァイオリン/指揮:アドルフ・ブッシュ

CD:東芝EMI=TOCE-6781~97(CD17枚組)  

 アドルフ・ブッシュは慎み深い中に人情味溢れる音楽を奏でるバイオリニストであった。この頃の名手の共通項は、演奏家は作品自体に語らせることにあったのではないかと思えてならない。ブッシュもこの一人ということができる。一番その特徴が現れているのがバッハの演奏だ。こんなに親しみやすいバッハは聴いた事がない。なんと情感に溢れたバッハであることよ。ベートーベンを弾いた時も同じことが言える。例えば、弦楽四重奏曲第15番の第3楽章をブッシュは、浪々としかも細やかな神経が複雑に交差して昇華するさまを描ききる。ブッシュほどバイオリンの持つ情感を最大限に発揮させた奏者は他にあるまい。(蔵 志津久)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする