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「ゴールデンカムイ」(2024年 日本映画)

2024年04月03日 | 映画の感想・批評


 本離れが著しく進む中、何とか元気がいいのは絵本とコミックだという。今や書店の売り場面積の半分はこの2つで占められていると言っても過言ではない。そんな状況の中、若者達に絶大な支持を得ているのが、野田トオル原作のコミック「ゴールデンカムイ」だ。全31巻の累積発行部数は2700万部を超えたという。明治末期の北海道を舞台に、膨大なアイヌの埋蔵金の争奪戦が繰り広げられるのだが、厳しい大自然の中でのサバイバルバトルがどのように描かれているか、ファンでなくても興味は高まるばかり。
 そもそも「カムイ」って何のこと??と思われる方も少なくないだろう。今までに知り得た情報によると、アイヌの考え方では、すべてのものに「魂」が宿っており、その中でも特に人間の力の及ばない、すごい能力を持っているものを「神=カムイ」として敬うという。「カムイ」と言うと自分が学生の頃『ガロ』という大人向け漫画雑誌に連載されていた白土三平の「カムイ伝」が思い出されるが、そこの舞台は北海道ではなくて、紀州の農村。時は江戸時代で、身分差別の問題を鋭く扱った群像劇であった。主人公のカムイは農民の中でも最も差別を受けた「下人」の子として生まれ、後に忍びの者として活躍するのだが、自分以外の人間に対して、カムイと同じように尊敬の念を持ち感謝の気持ちを忘れないといった考え方には、確かに共通する何かがあるのかも知れない。
 野田サトルの原作は、そういった意味でも、アイヌの人々の衣食住、習慣、風俗、言葉、文化など、あらゆるものをしっかり調べた上でストーリーを展開しており、非常に現実的で、説得力がある。今回の実写版も久保茂昭監督が原作にできるだけ忠実に創るよう心がけており、実際にコタンの村の様子や、アイヌの人々の暮らしぶりを自分の目で確かめることができる貴重な作品となっている。
 登場人物は実に個性豊かだ。鬼神のような戦いぶりから『不死身の杉本』の異名を持つ元軍人・杉本佐一に映画版「キングダム」シリーズや「アトムの童」等のTVドラマ、数々のCMに大活躍中の山崎賢人。ストイックに体を鍛え、役になりきる真摯な姿勢はスタッフの間でも好感を持たれているとか。自然の中で生きていくための豊富な知識を持ち、北海道の過酷な大地を生きるアイヌの少女・アシリパに山田杏奈。まだ入れ墨をしていないピュアな役はピッタリだ。金塊を狙う大日本帝国陸軍中尉・鶴見篤四郎に玉木宏。日露戦争で前頭部を損傷したためプロテクターで保護しているのだが、力がみなぎるとそこから脳液がはみ出てくるという狂気のキャラクターが強烈だ。また、戊辰戦争で戦死していたはずの元新撰組の副長・土方歳三が政治犯として幽閉され、生きながらえていたという設定もユニーク。その土方を舘ひろしがクールに演じている。北海道が舞台ということで、ヒグマやオオカミ等の動物も登場し、バトルを繰り広げるシーンがあるのだが、そこは特殊造形チームとCG・VFXチームの出番。本物のヒグマやオオカミの動きをデータ化して作り上げた画像は実にリアル!現実でもあり得るかもと思えるシーンが数多く登場する。
 さて物語はいよいよ金塊探しというところで俄然面白くなってくるのだが、「ゴールデンカムイ」という名には「どんなカムイより醜悪凶暴」「アイヌに災いをもたらす悪い神様」という負のイメージがあるのも確か。とにかく若い世代にアイヌ文化に興味を持たせるきっかけを作ったという貢献度は大きく、これから先どのような展開が待っているか実に楽しみだ。
(HIRO)

監督:久保茂昭
脚本:黒岩勉
撮影:相馬大輔
原作:野田サトル
出演:山崎賢人、山田杏奈、玉木宏、舘ひろし、眞栄田郷敦、矢本悠馬、工藤阿須加、大谷亮平、勝矢、高畑充希、秋辺デボ、井浦新