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「星空のむこうの国」(2021年 日本映画)

2021年08月04日 | 映画の感想・批評
 今から35年前に「星空のむこうの国」は誕生した。SF恋愛ファンタジーとして当時注目され、後の作品にも影響をあたえたそうだが、今回同じ監督でセルフリメイクされ、新しい作品として蘇った。監督は「現役の映画として観てもらうため」「オリジナルを知っている人達にもう一度新しい視点で観てもらいたい」とインタビューで語っている。
 高校の天文部に所属している昭雄は、ある日、横断歩道でトラックに轢かれる寸前のところを、親友の尾崎に助けられる。それから2ヵ月間同じ美少女が現れる夢を見続ける。そんなある日、昭雄の前にその少女理沙が突然現れる。彼女はある約束を果たすため、もうひとつの世界に生きる昭雄を呼び続けていたのだ。
 二人が出会う場面は印象的だ。バスに乗っている昭雄が車内に迷いこんだ蝶を逃がそうと小窓を開け無事に蝶が飛びさったその先、並行して走るバスの車窓に理沙をみつける。オープニングからモノクロだった画面はその瞬間色づき、カラーへと変わり物語が動きだす。
 思春期心性とパラレルワールドは相性がいい。難病で自由のきかない理沙は、33年に一度のシリウス流星群を見るために現世では会えない昭雄を求め続けていた。昭雄は彼女の強い思いに導かれ、その思いを叶えようとする。自らの墓石に生命のあっけなさを突きつけられた衝撃は大きかった。尾崎は横断歩道で昭雄を助けられなかった「へたれ」の自分に苦悩していた。
 尾崎の協力で、理沙と昭雄はシリウス流星群を見るために病院を抜けだす。二人の道程はさながら道行きのよう。降りだした雨に理沙を背負い駆けだす昭雄。背後には理沙の母親を乗せた主治医の車が迫っている。雨宿りのバス停の公衆電話から電話をかける昭雄の姿がせつない。尾崎に別れを告げているのだろうか。硬貨が等間隔で落ちていく音が静寂のなかに響き、二人が一緒にいられる時間を告げるカウントダウンに聞こえる。
 昭雄を演じる鈴鹿央士は適役だ。まさに昭雄として存在している。尾崎役の佐藤友祐は主題歌を担当している「エルオーエル」の一員だが、理沙と昭雄をつなぐ難しい役を印象深く演じている。理沙役の秋田汐梨はもう少し儚さがほしかった。理沙の母親を演じた有森也実は、オリジナル版が映画デビュー作で、理沙本人を演じている。
 オリジナル版はDVDも廃盤となり未見。登場人物のたたずまい、郷愁をさそう駅舎、身近な場所から姿を消し、使い方も知らない世代も増えている公衆電話...etc。リメイク版は懐しさがこみあげてくる作品。永遠の少年のような監督のSFファンタジー愛を纏った作品だ。
 ラストがさわやかだ。少年の初恋から始まった物語、今度は少女の初恋が始まる予感を残して終わる。(春雷)

監督・原案:小中和哉
脚本・原作:小林弘利
撮影:髙間賢治
出演:鈴鹿央士、秋田汐梨、佐藤友祐、伊原六花、福田愛依、平澤宏々路、高橋真悠、川久保拓司、有森也実