シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「シェイクスピアの庭」(2018年、イギリス)

2020年04月01日 | 映画の感想、批評
新型コロナウィルス感染予防策を十分に身に着けたうえで、それでもいささかおっかなびっくりで京都シネマへ。この作品への期待度はマックス、小さなホールで満杯だったら、それはそれで嬉しい。でも・・・・このご時世、感染したらシャレにならない!どこまでも自己責任を自覚しながら。なんとも罪作りな新型コロナウィルスである。
作品中の言葉でも語られるが、「疫病は短剣のひと刺しではない、草刈り鎌で薙ぎ払われる如く 数多の死がもたらされるのだ」というセリフは、時代を超えて今に語り掛けてくる。

シェイクスピアが生きた時代も数々の伝染病で劇場は封鎖され、都市の機能は奪われ、そして何よりも多くの命が奪われた。あれから400年。現代の世界は・・・・・


グローブ座の火事を機に、断筆したシェイクスピア(ケネス・ブラナー演)は故郷に20年ぶりに帰って来るが、家族は「あなたは客人、だから最高のベッドでお休みを」と、冷たい対応。400年前も現代の単身赴任のお父さんも変わらないか!妻の側に立てばむべなるかな。「どれほどの名声と富を上げたか知らないが、20年も音沙汰なしでは。」しかも、華麗なる愛の言葉のソネットのモデルであったサウサンプトン卿の訪問を一緒に喜べったって!
文盲の妻は「その陰で私はどれほどつらい思いをしていたと思っているの!」
8歳上の妻アン・ハサウェイ(ジュディ・デンチ演)の恨み節は、思わず「よう言うた!」

サウサンプトン卿(イアン・マッケラン演)とのやり取りも深みがある。たった二人で対峙する意味深なシーンに、ソネット集を読んでいない私でもぞくぞくする。

一貫して、あの時代を彷彿とさせる、室内の暗さ、ろうそくの明かりだけが頼りの、「あなたは今どこにいるの?」と目を凝らしてしまうが、その緊張感も、新鮮。時代の重さを感じさせる。

シェイクスピア家はカトリック、いろいろ宗教がらみの対立も複雑だし、資産を作った義父の遺産の行方も気になる娘婿の清教徒の割には俗っぽさもあって面白い。相続できるのは男子のみ。遺産相続のためには男の子を生まなければならない、当時の相続制度の壁。
長女は文字が読み書きできる。だからなのか、父を客観視でき、寄り添う力があり、家族の気持ちを代弁もできる。そして父はこの長女をスキャンダルから見事に守ってみせる。
しかし、家に残っている次女と妻は文字が書けない、読めない。その苛立ちは胸に迫る。
とくにまだ独身の次女には、屈折した感情が渦巻いている。早世した双子の兄を愛してやまなかった父に、「かわりに私が死ねば良かったと思っているでしょ!」
11歳で疫病で死んだ息子ハムネットはすばらしい詩を書いていたという。
しかし、息子の死の真相と、詩を書いたのは本当は誰なのか。

「私の死後、妻には2番目に良いベッドを!」という遺言は、夫婦仲の悪さの証拠として有名な語り草だったが、どうやら真相は違うらしい。実は愛の証なのだと。
今作品では、父が息子の死の真相を突き止め、語り合う中で家族の再生が図られる、愛と希望にあふれた結末であった。その過程で、真相がわかってもなお、アンの「息子は疫病で死んだ!」は、全てをのみ込み、娘を守ろうとする母の愛の強さ。名優ジュディ・デンチに泣かされた。

シエイクスピアが「世の中の総てを知り尽くした特別な人」と外から言われても、生身の悩めるお父さんであったし、夫であったし、彼の残した作品ともどもに、どの時代にも通じる普遍性のある人間物語として、監督は描きたかったし、描き切っている。
シェイクスピアに精通し、時代背景を様々に置き換えて表現してきた監督ならではの、シェイクスピア愛に溢れた作品として、ケネス・ブラナーの代表作になった。私自身、監督のファンだし、読みつくしたとはおくびにも言えない似非シェイクスピア・マニアだが、本作は十分に堪能させてもらった。人間シエイクスピアがますます好きになった。
音楽を担当したパトリック・ドイルは監督の盟友ともいえる存在。エンドロールの楽曲が心地よい。歌詞の日本語訳がなかったのが哀しいが、ドイルの娘さんが歌っているとのこと。全編通じての音楽も素晴らしかったので、DVDの発売を早くも心待ちにしている。

マイナー作品故、ただでさえ少ない上映館と上映日数。新型コロナウィルス感染予防で映画館も厳しくなっている。奇跡的に見ることが出来た事にも感謝している。感染症にかからないためには、心にたっぷりと栄養をあたえて心身ともに免疫力を高めることに尽きる!と思っている。その意味でも、私は自信があるわ!笑
(アロママ)

原題:ALL IS TRUE
監督:ケネス・ブラナー
脚本:ベン・エルトン
撮影:ザック・ニコルソン
出演:ケネス・ブラナー、ジュディ・デンチ、イアン・マッケラン、キャスリン・ワイルダー、リディア・ウィルソン