西園寺由利の長唄って何だ!

長唄を知識として楽しんでもらいたい。
軽いエッセイを綴ります。

娘道成寺・10

2009-03-13 | 曲目 (c)yuri saionji
百千鳥娘道成寺―3


舞姫望月(実はおろく)が
花道より登場する。
総鱗の着物に、菊紋様の上着を着て中啓(ちゅうけい・扇の一種)を持つ。
鱗の紋様は妖怪変化を現すという、お約束だ。
だから、この衣装を見れば、望月がただの人間ではない、ということが暗に分かる。

安珍清姫伝説ではないのだが、「道成寺」と名がつくので、鐘と蛇を外すわけにはいかない。
そして舞扇ではなく、中啓を持つことで、能を匂わす。


道行きは、長歌「道成寺みちゆき」を、今回の狂言に合わせてアレンジした。

『つくりし罪も消えぬべし
 鐘の供養にまいらん
 鐘の供養にまいらん
 
 さなきだに 
 おもきがうえの小夜衣
 我がつまならぬ仇人に
 迷う心の恋の淵
 沈みもやらぬ物思う 
 人目を忍ぶ染め衣の
 恋し床しき念力の
 つくりし罪もせめてさて
 恋慕の闇の晴れやらぬ
 
 月は程なく入り汐の 
 月は程なく入り汐の
 煙満ちくる小松原
 春の日長くまだ暮れぬ
 日高の寺にぞまいりける』

おろくが現れるのは、箱根権現であって、日高の道成寺ではない。
「箱根の寺にぞ まいりける」
としてもよかったのだろうが、
そこまではこだわらなかったのか、原文を尊重したようだ。

(意訳)
「夫婦になどなれるわけがないのに、
 あんな浮気な男に恋してしまった。
 迷う心はちぢに乱れ、重く切ないこの思い
 こんな罪なことをして、
 恋慕の闇は晴れるやら…」