MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルワン6-4

2009-09-05 | オリジナル小説
            幕間3 退屈な悪魔



さて。この辺で神興一郎と言う男の話をしなければならない。
正体は勿論、古の悪魔デモンバルグである。

ポールとリック。
渡がマイクと呼ばれていた過去(渡の記憶からは今は失われた、前世というやつである)、バミューダに現れた悪魔のことを覚えているだろうか?。
渡を追って神月の遥か上空に現れた魔物。
死んだ新生児の肉体が渡という魂を得て命を吹き返した時、神月の診療所の上でアギュに追い払われた悪魔のことである。
果たして悪魔は異星人やUFOと同じく、この宇宙に実在するものなのであろうか。
彼らは、我々人間の属する生命と並ぶようなある種の生命体なのだろうか。

魂というものがあるのならば、その拡大解釈としての悪魔、邪悪な魂の集合体というものも定義することができそうだ。遥かオリオンから来た人類であるオリオン人達も魂の存在は認めているのだから。彼等はそれを精神流体と呼んでいる。肉体と精神が発する電気信号の集合体、脳の持つ意識の熱、エネルギーとしての存在を認めているのだ。
しかし、悪魔はどうであるか?。地球人に近いと言われる、原始星人達の慣習や意識の中にはそれに近いものが今だに残っている気配はある。彼等の多くはいまだ宗教を持ち、一族の拠り所としての神を奉っているのだから。当然、その神の敵も必要だったのだろう。実体を持つものではない。オリオン連邦の支配下にある彼等は、既にその存在をあくまでも観念としての邪悪として考えるようになっている。

宇宙に進出しなかった原始星人に対する、宇宙空間で進化した人類、主にニュートロンとカバナ遊民達にはそんな観念すらありえなかった。なぜなら、広大な宇宙は唯一無二の絶対神であったからだ。
そこでは命は深い意味を持たなくなる。命など簡単に失われるものだから。そして、からくもそれを奪われることなく生き抜けた時・・・それは、神の恩寵等ではなくそれぞれが自ら勝ち取ったもの以外の何者でもなかった。
宇宙には神も悪魔もない。そんなものは意味がない。宇宙がその二つを常に内包し人類はそれにぴったりと包まれていたからだ。逃げ場など、どこにもなかった。

しかし、悪魔という存在に対する手がかりはある。
なぜなら、宇宙は一枚岩ではないからだ。それは無数の次元が絡み合って出来上がっていた。
そして、その次元には次元生物がいる。ワームドラゴンと呼ばれる存在もその一つだ。
これなら、可能性がありそうだった。
アギュレギオンも不確定ながらも、彼を異次元生物でではないかと推察している。

悪魔はそんな人類とは異なった、異次元にある存在なのかもしれなかった。
そんな悪魔の1人。
デモンバルグである。

彼は今、ジン(神)と名乗っている。
人間達が自らの対局をなすとしているこの名を己に冠することは彼のちょっとしたシニカルなジョークであった。
東洋圏ではこの名乗りが気に入っている。



6年前、アギュレギオンから追い払われたものの、デモンバルグは自らの獲物を勿論あきらめていたわけではない。
実は幾度となく、密かに獲物のその後を確かめに来ていたのだ。
蒼きヒカリ(アギュレギオン)が姿を変えて、獲物が産まれた家と親しんでるのはすでに把握していた。悪魔のマナコにはどんなにその姿を変えてもヒカリはヒカリとしてしか見えなかったからだ。そう、眩しすぎたと言うことだ。
光の連れ・・得体の知れない仲間と子供もそこに容易に見いだせた。
彼らに関してはヒカリとは違い、肉を持った普通の人間としか彼には感じられなかった。宇宙から来たなどと、容易には信じられぬ。ただ、仲間は心が読めなかったが。しかし、そんな人間もいないことはなかった。よってデモンバルグは彼らは保留とする。
注意すべきはユリと呼ばれる子供の方だとデモンは思った。
そう、ユリと呼ばれる子供は成長していなかったのだ。かつて渡が乳児だった頃も、6歳となった今もユリは6歳の少女のままだったのだ。
そしてそれを、回りの人間達はまったく気が付かった。これはなんらかの術、デモンも得意とする目くらましが施されている証に違いなかった。
しかし、敢えてそんな暴き出しをしてあの光に挑戦するつもりは今のところ毛頭ない。
時間が経って冷静に問題を検討してみれば。光とその仲間が、地球外生物であるのかないのかは、デモンバルグには基本的に関係ないことだったからだ。

大事なのは渡。
渡の側に誰もいない時間。
彼は忍び寄る影となって獲物に近づいた。まずは無難に渡の夢に。
しかし、深入りは禁物だった。
少なくとも異質なモノ達は、彼の獲物に手出しをするとか、危害を加えるといった様子は全くなかった。
忌々しいことにどっちかと言えば、保護しているといってもいい。
デモンバルグから見た一番の問題点は、彼らがデモンバルグからも渡を保護しているということなのだ。
6年前、シッポを巻いて前向きな撤退をしたとなってはそれもいたしかたなかった。辛抱強く隙を伺うことしかできない。
おそらく彼が光と再び、ことを構えなければならないとしたらそれは渡をあの遺跡に再び連れ出すチャンスが訪れる時しかあり得なかった。
面倒くさいので、いっそのこと渡をリセットしてしまおうかとも思わなかったわけではない。しかし、渡を殺すチャンスはなかなかに難しい。光と戦うことになる公算が高く、光を倒せる術も浮かばぬ今はまだそれはなるべく避けたい。それに自ら手を下すのは躊躇いがなくもなかった。
このまま、年老いて死ぬのを待つと言う方法もあったがそれではあまりに消極的すぎる。デモンバルグとあろうものがみっともない。その上、退屈きわまりない。
いずれにしてもようするに、彼はかつて無数の誰かであり、マイクであり、渡となった魂にあまりにも長い愛着と執着を感じていたのでそれが足かせとなっているということなのだった。
そんなデモンバルグの気持ちも知らず、その存在さえ脳裏からすっかり忘れリニューアルされた獲物の方は、涼し気な目をした手足の伸びた男の子に育っていた。
(それはいつもそうだった。女であったことはない。それがその魂の特徴だった。)
渡が小学校に上がるまでのわずかな間も、悪魔は一日一日を長く感じていたであろう。
手ずから、その成長に関われないということがこんなに身を焦がすほどの苦痛をもたらすことであるか。今まで、彼は知らなかったのだ。
気がつけば彼は恋人を思うように光を倒す算段を常に考え続けていた。それ以外の時、デモンバルグはただただ、退屈だと言うだけで罪もない何十人かの人間の命を戯れに奪ったり玩んだりしていたのだった。


そんな時だった。
獲物を見舞う途上の御堂山で怪し気な行動を繰り返す集団に気がついたのは。
彼らは見るからに禍々しい気(デモンの好みではなかったが)を放っていた。
デモンはたちまち、彼らに強く引きつけられた。
余暇を持て余していた悪魔の、暇つぶし。
そこにまさか、獲物の方からニアミスしてくることになるとは。
しかし、デモンバルグは知らない。
単純に喜べない程に問題は大きかったのだ。



3日ほど、時を遡ろう。
渡達が御堂山の沢を探索するちょっと前。

「おまえは普通と違うな。」3兄弟の中でとびきり凶暴なダ・ウが彼を見た。

ダと呼ばれる(発音される)彼らは3人兄弟であった。所謂、空賊である。
遊民の宇宙人類。産まれて死ぬまで宇宙船の中で暮らすのが彼らの一族の定め。
連邦にはご丁寧に重要指名手配されていることも彼らの誇りだった。
父と祖父は叔父、叔母らとオリオン連邦の軍事輸送船にまんまと忍び込んだが、追撃ロボットから逃げ損ねてペルセウス寄りの前線のはずれで木っ端みじんに散ってしまった。もう少しで、カバナボイドに逃げ込める直前だったことが今も悔やまれる。ダである、リとアとウは父達亡き後に立派に盗賊団一族をまとめあげた母と伯母から寝物語にいつもその話を聞いて育った。残された彼らは勇敢で残忍な女盗賊団と恐れられていた。
しかし、今はその一族も上の者達もすでに老齢になってしまった。何度も修復された皮膚は機械が透けて見えるほどだった。母親も曲がった背中に背骨を入れる手術をしたが、非合法の医者であった為か、経費をケチった為か経過がおもわしくなかった。後はおむつも取れない子供達と乳が張る幼い母親達、そして年寄りしかいない。そこで、彼ら3兄弟はキャラバンから独立し、出稼ぎに出ることにする。
他の一族は遊民ボヘミアンの聖地である、ボイドに建設されたカバナシティに向かうことになった。

「名はなんと言うんだった?」ダ・ウが再び尋ねる。
「神興一郎。」そうデモンは名乗る。ヌバタマのように髪は黒い。顔色は蒼白、銀色を帯びた目は酷薄な光りを隠し持つ。この形を成す時の彼は実態を持たない影のようなものだ。気まぐれに乗っ取ったかりそめの肉体を覆うこの姿が陽炎のように相手の網膜に信号を送っているに過ぎない。
一時的な交渉ならこれで充分なはずだった。
「俺が聞きたいのは、おまえの正体だ。」理性的な狂人であるダ・リがいつの間にかジンの頬に鋭利な刃物を優しく押し当てていた。
「正体?なんのことさ。」ジンはクスクス笑う。これはおかしい。
「俺っちはただの風来坊よ。盗人だの、詐欺師だの言われるけど自分ではどっちが本業かわからないのさ。」
「ふざけるな。」まあいいとダ・リは刃を閉じた。
「おかしな奴だと思ってな。」
「どういうことだよ、兄貴」ダ・ウがジンを睨みつける。態度によってはその太くたくましい腕と曲がった指で相手の細首をねじ切る覚悟だ。
「人間って奴はおかしなもんで、なかなか自分の状況を受け入れられないもんだろ?」兄貴が顎をしゃくった車のトランクには、そんな状態で死体となった男が納められている。そいつも女と子供を拉致した時の仲間だったのだが。
「神さんは俺たちが何者だってしても、驚かないみたいだ。落ち着き払っているってことよ!いや、むしろ落ち着き過ぎだってな。・・てっきり、最初はこちらの警察とやらの回し者かと密かに思ってたわけよ。」
「ふうん。」ジンはダ・ウをイライラさせる為に更にニヤニヤする。やめろ、とダ・リが弟の手を押さえる。
「そいつは光栄なことさね。」ジンは自分の長い前髪に触れた。「数々の修羅場をくぐった甲斐があったってわけね。だいたい、俺っちに言わせるとお前達だっていったい何者なわけさ?」
今度は兄弟達が笑う番だった。「・・俺たちは宇宙人だ。」ずっと奥に座り威厳を保つように黙っていた一番上のダ・アが夜空にまっすぐと指を指した。「はるばると、この星に悪事をしにやってきたわけだ。」黒々とした穴のような眼。
「信じないだろうけどよ。」むせび笑うダ・ウとダ・リを前にしてジンは考え深気に顎をなでた。
「そういうこともあるかもな・・驚かないさね。」
「!」ふいに無言の殺意が押し寄せて来る。
「おいおい、自分達で言っておいて、人が真面目に信じたらそれかよね?常識で理解できない人間を最近は宇宙人だって言うだろうがさ?」
刃物を構え息を詰めていたダ・リは上の兄貴の命令を仰ぎ見る。
「・・まあ、いい。」ダ・アも深く息を吐いた。「俺に言わせるとお前だって、充分この星の人間ぽくないぜ。」壊れた笑顔。神興一郎が兄貴のお気に召したと感じた、他の2人も張り付いたような笑顔を並べる。
魔族である神(ジン)ことデモンバルグは当然、この星に現れたヒカリのことを思っていたのだ。それ以前だったら、信じるどころか彼らを嘲笑し辱めそこから生じる怒りや憎しみ、争いや困難を堪能しようとしたはずだ。
そして最後にはたっぷりと腹を満たす、恐怖を味わう為に彼らを殺そうとしたかもしれない。
勿論、デモンバルグは知らない。そんなことをしようとすれば、宇宙人類である彼等は簡単には殺されないだろう。当然、悪魔すら困惑する、いささか面倒な困った展開に確実になっていたはずなのだが。それもまあ、悪魔には一興であろうか。
しかし幸いなことに、最近のデモンバルグはとても慎重になっていた。
彼の獲物を奪い去った蒼い光の存在によって。
数年前から起こっている、悪魔にも理解できない事ごとがようやく彼にも形をともなう危機感として浸透し初めていた。



「・・ところであんたらはさ、どうするのよ。捕まえた女のことだけどさ。」
ジンは本気で知りたかった訳ではないが、社交辞令で口にした。
この状況で聞かないと却って不自然になるだろう。
「あんた達兄弟はさ・・中国人なわけ?つまりさ、中国マフィア?」
3人は無言で笑い続けた。こんな時は、デモンバルグだったらばたいがいの人間達の思考が読めるのだが、この男達からは何も感じない。ぽっかりとした暗黒があるだけだ。
この場では神興一郎と名乗っている、デモンバルグは悪魔ゆえに恐怖を熱愛する。
恐怖こそが彼の主食であった。恐怖こそが命の糧。
だから、まれに見る恐れを知らない人類が苦手であった。
付け込む隙がないからだ。
彼らは一様に勇敢であったり、賢かったり又はものすごく愚かであったりした。
しかし、死の間際まで恐れないでいられたものは少ない。
デモンバルグの気の遠くなる程の記憶の中でも極わずか。
そんな飛び抜けの十数人は崇高で強靭な意思を用いて悪魔をなんなく退けてしまった。恐怖を知らない訳ではない、むしろ誰よりも恐怖を知っていた者達だった。
自らの強靭な精神でそれを組み伏せ、最後には至上の喜びに包まれて死を向えた。悪魔に取って焼け石にも似た、それらの崇高な魂はデモンバルグの指をすり抜けて預かり知らぬどこかの高見へと飛び去ってしまった。
敗北感と悔しさに悪魔の身の内をうずかせ、地上に置き去りにしたまま。
そもそも、こういった手合いには近寄ることすら難しいのだった。
古き強大な悪魔といえども気疲れし、ことごとく体力を奪われる。
この奇妙な男達はそのどれとも違った。
無なのである。恐怖というものが存在するべきところが、無なのであった。
恐怖と言う意味すらわからないのではないかとデモンには危惧された。
おいしくない。
なのに、どうしてこんな腹の減る無駄なことをしているかというと。
すべては転生して今は渡と呼ばれている、彼の獲物。
彼がある理由で追い続けている魂のせいでもあった。
なぜなら、この兄弟の肌合いは直感的に光の仲間達に通ずるものがあったからだ。デモンバルグはどこかで確信している。こいつらとあいつらは似ている。もしかすると地球外生命かも知れないと思った。ジンは未知の人類に対する好奇心から、無鉄砲にも彼らの仲間となり、今やどっぷりと深入りしていたのだ。
猫をも殺す好奇心が悪魔をも滅ぼすことはないのであろうか。

「あんた、おもしろいぜ。」兄弟が囁く。「あんたなら、ずっと俺たちのこの星の仲間にしてやってもいい。」
「そこの肉の一つをつぶしてくれたらな。」
泥と埃にまみれた灰色のセダンが車がそこには止まっている。辛怖じて乗り入れた草ぼうぼうの山道。そのどんづまり、行き着いた先は同じく草に覆い隠された空き地だった。大きな岩の崖下にうっそうとした木々が屋根を作っている。セミの声に微かなせせらぎが混ざる。沢が近い為か石がゴロゴロして足場が悪かった。
そんな草地に縛られた人間達が袋のように転がされていた。
女が2人、子供が1人。女のうちの1人は子供の母親でもあった。男が3人。この男達は女と子供に麻薬を打っていた組織の男達。女達は娼婦。子供も似たようなものだった。彼らは職質しようとした警官を振り切って山に逃げた男達だ。ジン達が苦労して拉致した女達を追って来たのだった。
男のうちの一人は抵抗した為に殴られて血だらけだった。兄弟が示したのはこの男であった。猿ぐつわと乱れた髪の間の目がジンの方へと怯えて見開かれた。
ジンはためらいもなく立ち上がる。その仕草は優雅でさえある。
「悪いな。ご要望だからさ。」ジンはダ・リの手から刃物を軽々と受け取った。
「通過儀礼って奴だわ。仕損じたら、今度は俺っちってわけさ。」ダ・リがうなづくのを背中に感じ、ためらいもなくジンの手が踊った。
信じられないと言った目をして、男は死んだ。その目が曇って行くと同時にその死体から周りの生き残った者達から、じわじわと絶望が辺りに滲み出す。甘美だった。ジンは半ば陶然として、それをむさぼった。
「兄貴!」
跳ね上がったもう一人の男が草むらを逃げ出す。足の呪縛が解けていた。
ジンは反射的に追う。
追いつきざま、ナイフがその首に食い込んだ。大降りのサバイバルナイフは猿ぐつわも断ち切っていた。
男は絶叫する。長い長い悲鳴だった。ジンは片手でその口を塞ぐと軽々と喉をさらに深くえぐった。歯を立てられたジンの指に、男の最期の痙攣が何度か駆け抜ける。その声はゴボゴボという喉から血と空気が漏れる音を最後に途絶えた。
「しまった・・殺しちゃたさ、まずかった?。」ジンは兄弟を振り返る。ほんとに困った表情が浮かんでいた。「つい、やってしまったさ。」
ダ・リは爆笑した。「商品に傷を付けたな。」ダ・ウがうなる。
「すまん。」ジンは首を傾げる。
「まあ、いいって。別に死んでたってかまわねぇんだから。」一番上が気安く請け合う。
「あんたがいいのはそういうとこだ。俺たちに似てる。簡単に殺すってのが気に入ったぜ。」
ダ・アはおもむろに銃を持ち上げ残った男を撃ち殺した。乾いた銃声がパンパンと谷に響いた。ダ・リとダ・ウは誇らし気にそんな兄に仕える。
ダ・アは弟達にトランクの中の死体も外に出すように指示した。
「実際、死んでた方が運び易い。加工もしやすい。」
兄弟はニヤニヤとジンを試すように横目で見た。
「そこらにここの奴らが作った、モノレールとやらがある。4体とも山頂に運んでもらおうか。」
「くわしいんだな、ここらにさ。土地勘があるんだ。」そもそも彼等を発見したのが御堂山であったことはおくびにも出さない。あくまでもさりげなく、しかしひとつも気を抜かずジンは言葉を選ぶ。「最初から、ここに連れてくる手はずが出来てたんだな。」昨夜、東京の真ん中、神保町の暴力団が管理してるマンションの1室からここまでの道程。女達を連れて出るのは5人でも楽ではなかった。何人かのやくざをかなり痛めつなくてはならなかった。「やくざにシャブ漬けにされた密入国者の娼婦達だろう?・・そして戸籍のない子供。消えても誰も気がつかない・・・問題にならないわけさ。あんた達は吟味し、・・・選んでひっ攫ったんだろ?」
「まあな。」ダ・リは誇らしそうに鼻をならした。「まさか追って来るとは思わなかったがな。」「あんた達は・・・特に足跡を隠さなかった。」ジンは続ける。「追われても構わなかったんだ。逃げ切る自信があったのか・・・」「あるいは、こうして殺しちまえばいいとかな。」ダ・アが笑う。「追って来させたのかもな。ここにだ。罠ってわけだ。」「そして死体が4つに増えたと。」「それも想定のうちさ?。」場合によってはジンもその死体の一つになっていたはずだ。死んだ仲間もジンも言わずと知れた素性もわからぬはずれものという点では消えたところでなんら問題がない。
「俺らには情報網があるんだ。」ダ・ウがポツリと言う。ダ・アが引き継ぐ。
「そうさ、協力者がな。俺たちが仕込んでる奴がな。そいつが色々なことを教えてくれる。獲物の場所とか、逃走経路とか。追っ手の動向とかな。」
「この土地もそいつのお墨付きさ。ここは・・・色々といい場所だからな。使い勝手がいい。今は使われてないモノレールが山頂まで通っているしな。」
「運ぶのを手伝ってやれ。」ダ・リが弟達に顎をしゃくる。
「運んだらあいつらの痕跡を消してもらう。あいつらの乗ってた車が警察に押さえられた。警察は駅と道を張っているそうだ。山狩りでもされたら面倒だからな。」
「協力者って、誰さ?」
「それはまだだ・・・そのうち教えてやる。」
「逃げられたら困るからさ。」ダ・ウが不機嫌に唸る。
「俺が?」
ジンことデモンバルグは軽く口笛を吹く。
「俺は今のところ、逃げる気使いはないさね。」
「逃げようったって、俺たちからは逃げらんねえ。」
「そろそろ、俺っちにも聞かしてもらえるのかい?」
自分にも読めない心、異質な意識の匂い。
光に出会った時に感じた陶酔が微かに甦り始める。
「あんたらの目的を。こいつらの使い道って言った方がいいのかもしれないけどさ。」
「いいのかい?知ったら、さすがのお前も正気でいられないかもよ。」
そうなったらジンを殺すだけだと兄弟の目が言っていた。
「試してみたらどうさ?」
今やデモンはときめいていた。
退屈な時間から解放される予感だった。

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