MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルワン6-3

2009-09-05 | オリジナル小説
家に入るとガンタがいた。
台所のテーブルの端に虎さんと並んで晩飯を食べていた。
「いったい何、してたのよ。ユリちゃんまで遅いし。」
香奈恵が自分も食べながら、ご飯をお給仕してくれる。
「よう!お帰り。」ガンタはコロッケをくわえたまま、色の薄い目を上げた。
「ガンタ、帰って来てたんだ。もう仕事終わり?シドさんは?」
座るのももどかしく、渡は箸を持ちながら思わず声をかける。
渡はガンタが好きだった。相手は成人男性だが、渡とは波長が合うというか。二人とも精神年齢が近いせいだと香奈恵には言われている。この場合はガンタの方が低いという意味になる。ガンタは暇な時にはいつも、社員の中でも率先して渡達と遊んでくれる。時には、渡の方がガンタの暇つぶしの相手をしてあげている気分になることもあるくらいだ。
もう一人の社員、ガンタの姉にあたるシドさんの方はユリを除いて、あまり子供の相手はしてくれない。シドさんという女性は見かけも怖そうだが、実際なかなか手厳しい。しかしどういうわけか、社長の娘であるユリ(シドさんとは、そういうしがらみを最も気にしそうにない女性である。実際、社長にもまったく手加減しない。)にはとっても甘いので、ユリが親しくしている渡達はガンタ程は厳しいことは言われない。総合的に見ると、面倒見のいい姉御と言える。
はっきり口に出さないが、香奈恵がシドさんを崇拝しているのも周知の事実だ。
「ああ、シドラ?~さっき、旅立ったよ。社長と南米に。」片手だけを振る。
「だってさ~!すごいよね?残念でしたー!」香奈恵が箸を休める。「今度はブラジルだって!。この間、帰ってきたばかりなのにね。ユリちゃんのお父さんもゆっくりしてればいいのにねー。シドさんだって行っちゃうしさ。秘書だから付いて行かなくちゃいけないんだろうね、大変だけどうらやましいなー。それに較べて、弟の方は暇そうだけど。留守番ばっかし。」
ガンタは相手にしない。「香奈恵のママさんの揚げ物はうまいよな~お客さんに出せるよね。」渡の母は揚げ物は得意でない。香奈恵はフンと得意そうに又、箸を取る。入れ替わりにガンタの箸が止まった。
小さな手で箸を動かす、隣の虎さんの方にかがみ込む。
「それよりさ、そのUFOとかってほんとに見たの?」
「見た、見た。あれは~型かの。小さい方じゃ。」よく聞き取れない。
「そうか~面倒くさいな。」ガンタは息を吐いた。
「社長が行く前だったら、その情報面白かったのに。」
「ユリちゃんのパパだってダメよ、大人に言ったら。絶対、信じないし、またどうせ怒られるでしょ。」香奈恵が嘆く。俺、大人って言うガンタの声は当然無視される。
「それにシドさんが心配するだろうし。言えないわよ。」目がうっとり。
「シドラ~?ああ、シドラはユリちゃんを連れて行ったなんて聞いたら機嫌悪いだろうね~。」ガンタはみそ汁を一息に飲む。
「かーっ、この汁、板さんだろ。ダシがいいねえ。」
「ガンタはUFOとか、信じてるの?」
「ん~そうだね~信じてるっていうか、そうまあ、信じてるほうかな?」モゴモゴ。
「まあ、どっちにしたって、暇つぶしに来た旅行者の宇宙人じゃやないの?無害、無害。無害だと思うな。ん~無害だといいな~そうだろ、トラキチ。」
「地球観光じゃの。無断侵入だがの。」虎さんはそう言うと手を合わせる。
「許可を取らんといけないんだがの。」
「誰の許可だよ。」と渡。「国連でしょ。」と香奈恵。
ユリが続いて箸を置くと、じっとガンタを見つめる。
若者は居心地悪そうに身動きする。
「ちょっと俺、見に行った方がいいかな~」一度取った、エビフライを戻した。香奈恵がすかざず非難する。「戻さないでよ、それでガンタ、行ってくれるの?」
「いやあ・・」海老フライ、くわえる。「行きたくないけど。お前ら、また行く気なんだろ?どうせ。」香奈恵がうなづく。
「なんか、犯罪の匂いがするんだ。」渡も食べながら身を乗り出す。
「あそこ、謎の遺跡もあるし。」
「古い神社ってだけよ。」
「ガンタの会社って遺跡の調査とかもしてるんだろ?」
「してるけどー紀元前のものじゃないとなー」エビのシッポをかじる。
「じゃあ、行こうよ、明日。」
「明日?」
「社長に連絡して、帰ってからはどうじゃ?」虎さんが余計なことを言う。
「平日だったら、俺らいけないだろ?」
「いいんだよ、いけなくて。」ガンタは箸を置いた。「そうだ、そうしよう。それが一番いいだろうな。」立ち上げる。「そうと決めたら、社長に連絡してくるか。トラキチも来るか?ユリはどうする?」
「わしも行こう。」虎も椅子から降りた。ユリは首を振る。
「だからお前らは、勝手にまたそこに近づくなよ。女将さんに言いつけるぞ。いいか、大人しくしていろよ、な。」
二人は気まずい食卓からそそくさと消えて行った。
「なんかさ、ユリちゃん。」香奈恵が残った揚げ物を口に片付けながら言う。
「トラちゃんて、ガンタより偉そうだよね。ガンタより上の立場みたい。」
ユリは困ったようにニコニコするだけだ。
渡は香奈恵を見る。香奈恵も渡を見る。
「なんか、面白くない。」
「私達の発見なのにね。明日、もう一度行ってみようか?ガンタとかには内緒でさ。」
ユリが香奈恵の腕に触って首を振る。危ないといいたいみたいだ。
「大丈夫よ。だって、気になるじゃない。入り口まで行くだけだから。」香奈恵は不安そうな目を覗き込む。「ユリちゃんも言いつけるの?」
「言わないよ。」渡が強く言うより早く、ユリは激しく頭を振った。
「じゃあ、ユリちゃんも仲間!」香奈恵が笑う。厨房から祖父と板さんの陽気な笑い声が響いて来た。祖父の晩酌の相手をしているのだろう、仲居さんの声もする。
「そうと分かれば、早くここ片付けちゃいましょ。」香奈恵はお茶碗をまとめ始めた。
渡は自分のぶんを持つとユリに合図をした。
祖父は酔うと舌がほぐれまくる。さっきの続きを催促するつもりだった。ユリもうなづくと香奈恵に手伝って皿を重ね始めた。


「ほんとに、しつこいの~」
祖父は案の定、上機嫌だった。
「どうしたんだい、ゲンさん。」板さんは祖父の幼なじみだ。「昔話のおねだりか?」
「こいつらがの、御堂山の曰くを聞かせろってワシにうるさいんじゃよ、セイさん。」
「ははあ、あれはとんだ怪談じゃからの~」二人ともかなり出来上がっている。
板長の清さんはお客の賄いが終わったので今日はもう上がるつもりだ。普段は愛想が悪いが酔うと底抜けに明るい人と化す。
運が良いことに、邪魔に入りそうな母や香奈恵の母の姿はなかった。
仲居の田中さんは他所から来た人だ。
「怪談って、怖いの?嫌ね~。」と言いながら、興味津々だった。
「伯母さんがなんであの山を不吉って言ったのか、聞かせてよ。」
これは失敗だったかなと口にした渡。
「伯母さんって?」と田中さんに一から説明が始まったからだ。
助け舟はセイさんだった。
「ゲンさんの初恋の人じゃ。」「じいちゃんの初恋?」ユリと洗い物している香奈恵が高い声を上げる。「聞きた~い!。」また、余計なことをと祖父はブツブツこぼす。
でもまだ、機嫌は良い。幸いなことに祖母もいないからだろう。
酔った顔がさらに赤くなる。
「伯母さんいうても、若い伯母さんだったからわしとも10歳ぐらいしか離れてなかったんや。奇麗な人でな~、死んだときはショックじゃったの。」祖父は照れる。
「そうそう、ゲンさん泣きまくっとったっけ。」うるさいわ、と祖父。
「それでとうとう神城の家は絶えてしまったわけじゃ。」
「神代?」渡は思わず大きい声を出してしまったが、祖父は気がつかなかった。
「ねえ、その神社の名前って?」
「神代神社じゃ。」祖父はため息を付いた。「わしの曾祖母さんの家ってのが神城家ってわけやの。そこから竹本に嫁に来たもんで・・嫁に来た後も巫女さんを兼ねておった。その息子がこの辺じゃ有名な八十助・・わしの祖父じゃ・・生糸で財産作った郷士ってわけさ。その娘に当たる一番年下の伯母さんがその名前を継いで神城に養子に入ったんじゃ。」
「しかし、八十助ってやつは女好きの男だったらしいの。その伯母さんの母親は4人目か5人目だかの奥さんの子供だったろう?」清さんがニヤニヤと酒を嘗める。田中さんがおや、やだ子供の前でおよしよと笑うが先をうながす。
ユリと香奈恵の背中が動きを止め気配を消す。
しかし、2人とも耳はダンボにしていると思われる。
「お妾さんもたくさんいたわな。」なにゆう、このセイさんの祖母がそうだったわけでこの竹本とは実は親戚なわけよとゲンさんがくったくなく笑う。はとこなわけじゃ名字は違うがとセイさんも笑う。2人はなんのわだかまりもなさそうだ。うっそー!いやーと香奈恵がついにこらえきれず声をあげ、2人のじじいどもはしまった聞いとったかと悪戯小僧のように恥ずかしがった。ユリは困ったように布巾を使って乾いた皿を積み上げている。「お前達、母さん達には内緒だぞ。」小遣いをやると祖父は言い出す。
そういう話は目新しく(母か祖母がいたら絶対聞けなかった話だ)とても興味深かったが渡が今聞きたい話ではなかった。渡は伯母さんの話に祖父を戻す。
「そうそう、じいちゃんの初恋の人の話もっと聞かせてよ。」
千円札をもらった香奈恵がユリを引っ張ってテーブルに付いた。
渡とユリはもらったお札を持て余す。いらないと行ったら香奈恵に取られそうだ。
「伯母さんはあの山に葬られたんじゃ。」祖父は酒をあおると声を落とす。渡は驚く。
普通でない死に方をした人を葬るところだと聞いたからだ。
「そうだ、そうだった!」清さんが声を出す。
「それもゲンさんの伯母さんの予言の通りじゃったはずだ!」
「伯母さんて予言者なの?」「お前達には大大伯母さんだな。」大だ曾だ、ややこしい。
「伯母さんは、千年に一人の霊能力者と言われとった。」
うわ~と香奈恵も声をあげる。
「かっこいい!すてき!だって私達の血にもそれって入ってるわけじゃない。」
「かなぶん、オバケ嫌いだろ?」と渡が突っ込む。香奈恵はだから私はなんないけどと慌てて手を振る。しかし、なりたくてなるものではなく、なりたくなってもなってしまうのが霊能力者ってやつではないのか。渡は自分の秘密を思ってハッとする。その血の成せる技かもしれない。そう思うと急に救われた気になる。
ところで。酔っぱらい二人の話をまとめるとこうなる。御堂山は古代からの大岩信仰があり、その岩は生者と死者の世界の境目であるとされていた。死者を葬る山であったらしい。そこでそこを祀り、その死で汚れた地を鎮める為の神社があった。戦国時代には戦いに敗れた武将と郎党が山に逃げ込み、打ち取られ首がさらされた場所でもあった。沢は首洗いの沢であったのだ。明治の時に公式には廃されたが、地元では神社は密かに信仰され続けていたのだった。
第一次世界大戦の時に、巫女であった伯母は「この戦争は日本の敗戦になる」と村人の前で託宣した。そのことにより、伯母は危険人物とされてしまいやがて、軍部により神月に軟禁された。そしてその勾留中に逃げた伯母は神社で自ら命を絶った。敗戦の前の年だった。やがて伯母の予言の通りに日本は敗戦する。そんな話であった。
「墓は誰も知らないがな。」「それって、いったい、どういうことなの?」
香奈恵が怖気を振った顔で声を出した。やっぱ、霊能力者なんていやだ、なるもんじゃないというところか。「なんか、怖い話?」
「人間の怖い話や。」祖父が眉を潜める。人間が一番、怖いんやと。
「あそこはもともと、墓があるようでないところやった。悪く言えば姥捨て山じゃ。まして、戦争中だったから詳しいことがわからんのじゃ。この村にも東京から特高だのなんだの一杯来おったし。誰も彼もが、自分の保身に一生懸命でな。」祖父はため息を付いた。「伯母さんの遺体は軍部が持ち去ったとか言う話もあって・・・」
「本家の跡継ぎはほとほと嫌気がさしたのか、戦後すぐに神月の屋敷を出てしまったんじゃ。」
「軍部に密告したのは、その跡継ぎだって話もあったじゃろが。伯母さんとは腹違いの兄弟だったのに、嫌な奴だった。」
板さんは冷や酒をあおった。会ったことはないが、渡達にも大大叔父に当たる人だ。
「だから、村に居られなくなったんじゃ。」
「それに神月に伯母さんが化けて出るって話もあったしの。」
「あれ、そんな。よしなさいよ、寝れなくなるわよ。」田中さんは子供達を振り返る。
「阿牛さんの家にお化けなんて出ないよ。ねえ、ユリちゃん。」香奈恵が答える。
よくわかったもので、香奈恵も渡も祖父と板さんが語るに任せてあまり口を挟んでいない。それが事実、真実を一番早く耳にする方法だとわかっていたからだった。
でも、これは聞き捨てならない。「ユリちゃん、お化けなんて見たことないでしょ?」
ユリはうなづいた。
「阿牛さんは随分、屋敷に手を入れなさったからの。もう、別物じゃ。」
祖父が満足そうに杯を置いた。
「お前達、もうお風呂に入いる頃やぞ。なんや、さんざん昔話をさせられてしまったの。口止め料じゃ、かまわんから渡もユリちゃんも持って行き。その代わり内緒じゃぞ。」

その夜、渡は布団の中で、自分が産まれる遥か前に死んだ大大伯母さんのことを考えていた。祖父の父親の大変年の離れた妹であったという大大伯母。
草に埋もれた、苔むしたむき出しのあの石の土台。あそこで・・・あそこにかつて立っていた神社の中でじいちゃんの伯母さんは死んだのか。自殺?したのか・・・。
そう思うと昼間見た荒れ果てた、寂しい神社跡が胸に迫るようだ。あの胸の悪くなる断末魔の声。首洗いの沢。死の入り口とされた山。あそこはなんだかおかしい。渡は神代神社の石に近づいた時のことを思い出す。忘れていたポケットの中の部品がふいに命を持った瞬間。小さなコネクターが電気に反応したのだ。自分が流そうとしたわけではなく。そんなことは初めてだった。あそこには何かがある?・・ちょっと怖くなった。
渡は暗闇に頭をもたげて、ふすまに隔てられた隣の部屋を伺う。香奈恵のだろうか、いびきまでは行かないが大きな寝息が聞こえる。聞こえはしないが隣ではユリの小さな息もしているはずだった。大丈夫、今日はユリがいる。怖い夢は見ない。
そう思うと安心する。タオルケットを巻き付けながら寝付きの良い位置を探る。
そうだ、今度、じいちゃんに大大伯母さんの写真を見せてもらおう。渡は思いを巡らす。
それぞれの部屋に入る前に香奈恵が囁いた。
「明日、何がなんでも御堂山に登るからね!。」
あの鳥居。清さんの話では、御堂山の登山道の途中からも神社のお堂の跡地に下る道があるという。もう沢はこりごりだった。
山道の方からなら、あっちょやシンタニも一緒に行くと言うだろう。
多分、ユリも。ユリを巻き込むことは渡の中でもためらいがないわけではない。
かなぶんもそうだろう。帰って来たら、シドさんに絶対に怒られるからだ。社長は・・
社長は怒らないだろう。あの人はいつも穏やかだ。あの・・・渡の目に見える姿の問題さえなければ・・・渡は何度目かの頭を振ってユリの父親の問題を考えないようにする。
明日、ユリは家に残れと言ったところで無駄に決まってる。ユリは一緒に来るだろう。
ユリはいつも渡と行動を共にしてくれる。今までも、これからも。そんな確信があった。
離れにいるガンタと虎さんは怒るだろうな。どうやって虎さんをまこうか。
考えてるうちに渡は夢のない平和な眠りに落ちて行った。


同じ頃、離れ。
2人の男がちゃぶ台を囲んでいた。
ガンタと正虎。
「タトラ、大変だったな。」ガンタが小学生の田辺正虎に改まる。
「ガキどもの引率なんて考えるだけで恐ろしい。」
「まあ、仕事だからの。」タトラと呼ばれた虎の口調が変り声が低くなる。
「ユリ殿の警護はニュートロンである小柄なわししかできん。わしで良ければと志願した甲斐があるというものだ。これも開き直ればなかなか、楽しいものだぞ。」
「偉いねぇ。」ガンタは感心する。「僕なんてシドラと兄弟ってだけで凹んでるのに。」
「シドラ殿は、なかなか厳しいおなごじゃからのう。」タトラは訳知りにうなづく。
「わしはこの星の文化により深く浸るにはこういう形も一つの方法だと思うの。ただし、
わしが吸収した話し言葉はちと古かったようだの。」
「いつの記録なんだろうね。イリトにはめられたんじゃないの?」
「かもしれん。イリトとわしは付き合いが長いからの。今回の抜擢もわしをからかう為だったとしても驚かんがの。まあ、そんなことはいい。」
「そうそう、その船のことをまずなんとかしないといけないのかな。」
ガンタは面倒くさそうに腕組みしたが、タトラはあくまで真面目に更にただでさえ細い眼を細める。
「これはたいした問題ではないのかもしれん。」
「わかってるって。」ガンタも真面目に応じる努力をする。
「なんで、俺らのこんなに近くに今、こんな騒ぎが起こるんかね。」ため息。
羽音のような小さな金属的な音がしきりに混ざる。
「わかってるって。うるさいんだよ、ドラコは。」蠅を追うように手を振る。
「あながち、偶然とも言いきれんのじゃと言っておる。わしも同感じゃ。」
タトラは眉間の皺をなぞる。
「この地は、我らが隊長が選んだだけのことはある。ガンダルファよ、伝承を調べてみたか?」「いんや。」「近代からしきりに神の光りの・・光り玉と呼ばれてたらしいの・・目撃例が報告されとる。勿論、言い伝えや迷信の類いとしてだが。まったく、根拠のないものだと思うかの?」
「つーまーり。」ガンダルファこと、ガンタは頭を絞る。「ここはかつて連邦の調査員かなんかが正式ではなく、内密に訪れたわけだね。この星の扱いが確定する前だったらば、気まぐれな連邦の権力者か金持ちが好奇心で違法な観光を行った可能性もある・・・もしくは、連邦内の遊民が補給だの商売目当ての持ち出しを行う為に立ち行った痕跡もあるって言いたいんだろ?タトラ」
「もともと、ユリ殿の母親がいたわけだからの。当然、その父親は調査員だからの。」
「ってことは、その父親はひとまず除外。それ以外の奴だな。」
「最近、この地球では未確認飛行物体なるものが頻繁に目撃されてテレビニュースとかになる日もあるが・・・大半は自然現象や思い込みじゃ。本物の確率はかなり低い。」
「一時期連邦からの遊覧観光船もあったはずでしょ?。最近はどうなの?。」
「確かに発見当時、お偉いさんの視察が引きも切らずだったらしいのう。この1000年ぐらいはようやく落ち着いたはず。正式な連邦を通したものなら、イリトが知らないわけはないしの。」
正確にはこのイリトからの情報は彼女よりも高位の役人に対する「くそったれ」と言う形容詞が付けられていた。
「非公式な訪問ってのも今だにあるんだろうかね。」ガンタは困り果てた顔をする。その意味する所は面倒くさいのだ。銀河連邦は広い。祖の人類遺伝子の保存の為に移動を禁じられたオリオン近辺の原始星人とは違い、自由を謳歌し銀河のオリオン腕に広がった宇宙人類ニュートロンとカバナ系遊民達はなかなかしたたかな面も持ち、結構辺境の方じゃかなりな好き勝手をしているというのは有名な話だった。
「それを制御する為に我々はいるのじゃよ、ガンダルファ。」
「辺鄙な星に対するちゃんとした法律がなかなかできなかったのがいけないかったんだろうね・・・ペルセウスとの戦争が長引いたからだって?」
「連邦は下手なことしてここに敵の注意を集めたくなかったのじゃよ。ここは特に前線に近いからの。」タトラはその件を有識者で秘密裏に話し合う為にイリトと共に出席した過去の盛大な会議を思い返した。
「記録にないとしたら、ここのマーキングは近世代よりは遥かに古いと言えるの。」
「平安以前っていったら2000年以上は前だね。面倒くさいな。」
「そうじゃの。考えたくはないが、カバナ・ボイド側からもあり得るしの。なにせここは連邦からは最辺境。未発見だった惑星なのじゃから。ペルセウスの方から、補給に立ち寄る可能性がまったくないとは言えない。」タトラはうなづく。
「だけどさ、もしそうならカバナ人達がここを侵略してないなんてありえなくない?」
(ガンちゃん、すごいにょ。珍しく頭が回るにょ!)またもや小さな声がする。
珍しくは余計だとガンタ。「しないとしたら、その意味がわからなくない?」
「そうだの。」タトラも目を細める。「あるいはすでに奥深くに入り込んでるか・・・」
「おいおい。ちょろい任務だと思ったのになー。そりゃないよ~イリトに危険手当を請求しなきゃ。」(ガンちゃん、そんな勇気ないにょ?)どうやら、声はガンタの頭の後ろの空間からするらしい。時々、黒い目がはしこく覗く。
「事前の資料記録を見たがの、ユリ殿の父親のここでの痕跡は謎も多いようじゃ。」
「日清戦争の頃にアジアに降り立ったって話だけど。かなり自由に活動していたみたいだもんね。ちょうど、ここ全体が大揺れに揺れてた時代だから追跡調査も難しいんじゃない?もともと、こういう報告って当人申請じゃんよ。」
「母船を通じてこれまでこの果ての地球に降り立ったすべての調査員の痕跡だけでも、せめてキチンとさせてもらってくれ。」タトラは重々しく手を組んだ。
「ゾーゾーか。」ガンタは嫌な顔をした。「あの女に頼み事するってだけでも、気が重くなるよ。」(がんちゃんはふられた恨みは忘れないのにょ。)
小さめの鯉のぼりのの頭が姿を現す。
「誰が振られたよ!」たまらずガンタは切れる。鯉のぼりはあわてて引っ込んだ。
「ガンタはニュートロンの女が好きだの。相変わらず、懲りないのう。」
「違うって!一緒に食事をしようって言っただけじゃん。」
(即効断られたにょ)
「礼儀でしょ。礼儀。」
「ニュートロンの女は理想が高いからの。あきらめろ。」
「はい、余計なお世話ですよ。だ~れがあんな性格ブス!」
(香奈恵ちゃんにするにょ)
「やだよ、あんな子供。それに重罪だろ?」
「禁固100年は固いわな。」タトラこと正虎は呵々かと笑った。
「原住民に手を出したら、おしまいじゃから。」
「知ってるよ。」ガンタは暗い声を出す。
「どうした?」
「そういう知り合い・・って言うか、その結果の知り合いっての?・・知ってたしね。」
ガンタがふと手元を見ると、いつの間にかカップ酒が置いてあった。
「なんだよ、これ。」思わず、手に取る。勘が良いタトラはそれ以上もう、何も言わない。
(ガンちゃん、奢りにょ。いっとくにゃ。)
「そういう親切、いらないって~の。」
彼は口元だけで笑うと、その冷や酒をがっとあおった。

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