MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルワン9-1

2009-09-18 | オリジナル小説
      5・再びUFOが落ちたあとで


渡は自分に何が起こったのか最初はよくわからなかった。
眩しい光が目の前でチカチカと断続的に点滅し、まわりはぼんやりと陽炎のようによく見えない。体は動かないが、声だけははっきりと聞こえて来る。
「こいつはなんなんだよ、兄貴!」
それはあのずんぐりした弟に違いなかった。動かない体が痛く、燃えるような熱い両手足が小刻みにしびれているのがわかる。
実感はないが、恐ろしい。渡はうめいた。
「墜落したのは、ほんとうにこいつのせいなのか?」もう一つの聞き覚えのある声。
「わからん。だから、連れて来た。」覚えのない声は冷たく慌ただしい。
「お前も見ただろ?船体がこいつで反応したことは確かだからな。こいつが近くにいたことと墜落したことが関係あるかは調べてみないと。まったく、忌々しいガキだ。帰ったらじっくりと検分してやる。」
「兄貴、試しにこいつをボードに乗せてみたらどうだろう?。」
「今はとにかく船を視覚から隠す事が先決だ!」
「くそっ!」何かを叩き付ける音!「さっきだ!こいつ、何しやがった?ダッシュ空間にも入れやしねぇ!」
「兄貴、航行データが初期化しちまってる!」ガタガタと振動や走り回る音。
「エネルギーが供給不能だ!」
ふいに冷たい手が自分の首を掴む。「おまえ、どうにかしろ!」渡は苦労して目の前に視点を合わせた。もう一人の弟が凶暴な顔で自分の体を揺さぶる。顎ががくがくして舌を噛んだ。その痛さに感覚が戻ってくる。
「兄貴、こいつはボードのキーじゃねぇのか?」
キー?キーってなんだ?
離れた光の中に痩せた兄貴が手を動かしているのが見えた。
「やめろ!余計なこと、すんな!」
「しかし、こいつがおかしくしたんだ!」渡は片手で軽々と持ち上げられ、どこかの上に乱暴に投げ出される。「うっ!」と声が漏れる。
「おまえ、もとに戻せ!戻さないと、ぶっ殺すぞ!」頭上に覗き込む男の顔から唾きが飛んで来る。見覚えあるもうひとつの顔が上に現れる。
「俺は聞いたことがある。」
「お前ならこの船を動かせるはずだ。この船を元に戻すんだ。」

その顔を注視する間もなかった、投げ出されたボードの上で彼の内部に急速な変化が現れたためだ。ボードは光り始めた。渡の意識は何かに引き寄せられ視界は頭を突き抜けるようにすべてが失われた。
そして、彼の中に何かが入って来た。
無数の渦巻く煌めく点、その星の集まりは渡を中心にぐるぐると回転していく。
そのスピードに渡は怯えた。
その意識がざらついた手で入り込み、渡を鷲掴みにしようとする。彼は声にならない悲鳴をあげた。死という観念。出口のない穴の中で回り続けるような絶望のうめきが骨を軋ませた。ついに、渡は爆発するように、悲鳴を上げ続けた。



「おい!」ガンタはユリを抱きかかえてしっかりと揺すった。ユリは唸るように意味不明につぶやき続けている、その顔は蒼白で見据えた瞳は瞳孔が開いてさらに黒々としていた。「どうしたんだよ?ユリちゃん?」ガンタは不安で一瞬、頭上を忘れた。
「ガンタ!」寅が上空を指差す。「暴走するぞ!」
「渡ぅ!!!」香奈恵が泣くのも忘れて手を振り回す。
円盤が発光し、はじかれたように走り出した。
仙人に助け起こされた子供達はしばらく状況が飲み込めなかったのだが、あちょが思わず口にした「UFOだっ!」の叫びの後はもう後は何がなんだかわからない。
口々に歓喜の声を上げて跳ね回ろうとする2人を仙人は押さえつけるので手一杯だった。
その騒ぎにまぎれて、瀕死の重傷を負ったかにみえたジンは何事もなかったように立ち上がると黙って背景の森に消えようとしていた。悔しさと焦りで唇を噛んでいた。しかし、かりそめの肉体が終わりを告げようとしているのはわかる。あそこであのまま、死体を晒すわけにもいかない。渡を取り戻さなくては。宇宙人だかなんだかしらないが、奴らに奪われてなるものか。しびれたデモンバルグ本体は肉の衣を動かすだけで精一杯だとしても、なんらかの手を打たねばならない。この肉を早く脱ぎ捨てて。焦りからその体は既に頭から骨と肉が割れ、本体が出現しようとしていた。



その夜、日が暮れても帰らない子供達に気をもんだ大人達は捜索隊を編制しようとしていた。巡査と消防団員、診療所の医者、村の健康な男性全員と丈夫な若者達。2人の小学生の両親も旅館竹本の駐車場に結集していた。
渡の祖父はある直感から、子供らが御堂山に行ったに違いないと確信し、みずから渡の父を助手席に乗せ一足先に軽トラで御殿山に差し掛かっていた。
その蒸し暑い夜のことは彼らとその周辺、甲府盆地にいたる人達にまで後々まで語りぐさになった。全国ニュースにもなったが、結局人々を騒がし不安にさせたその正体とその真相は誰にもわからなかった。画面には専門家がプラズマ現象を主張して、目を輝かせてUFOだと興奮する人々を嘲笑しただけだった。
巨大な光球がやっと暮れかけた夜空を縦横無尽に駆け巡ったその夜。
コントロールを失った船の中で乗員達もパニックに陥っていた。



その頃、まさに渡は大波にさらわれようとしていた、その寸前心のどこかで声が響く。気がつくと目の前に変な生物がいた。(しっかりするにょ!)蛇のような芋虫のようなそれは顔らしき頭の回りのヒレをヒラヒラさせると渡の顔をパタパタ叩く。
なんだ?これ?虫?(虫じゃないにょ!ドラコにょ!)虫は黒い目(8つぐらいある)をグルグル回して怒っているようだ。(せっかくユリちゃんのお使いで来たのにょ!助けてやらないにょ?)(ユリちゃん?)(そうにょ!ドラコが回線を繋ぐにょ!渡はユリちゃんと話すにょ!)虫はそう言うと渡の頭の中に入って来た。なにがなんだかもう、抵抗する気力もないままに目の前に光がチカチカと点滅した。そして、声がした。(ワタルゥゥゥ!)ユリちゃん?ユリちゃん話せたっけ?(ワタル!)甲高い聞き覚えのない声が確かに渡の意識の中心から響いて来る。
(ワタル!ダメ!ダメダヨ!)(ほんとに・・・ユリちゃん?)その時脳裏に閃いたユリのまっすぐな目、そのイメージを渡は必死に捕まえる。気力を振り絞り、全力でそれにしがみ付いた。(ユリちゃん!)(ワタル!ダメ!トリコマレテハダメ!ワタルハ、ワタルナンダヨ!オモイダシテ!)渡は深い息をした。繰り返す、その声によって空白になった心に思い出が満ちて行く。(・・・僕・・・どうしてるの?どうなっちゃったの?)(ソコニイルナニカニ、ツカマッタミタイ!ナニカハワカラナイケド・・・デモ、ツイテイッチャダメダヨ!イカナイデ!モドッテキテ!!!!)(戻るって?)
(ワタル、イマ、ユーフォーニノッテルノ!ユーフォーハ、ワタシノアタマノウエヲトビマワッテイルヨ!マタ、ドコカニオチタラアブナイヨ!)
(それって・・・僕が動かしてるの?)渡には回りが凪のように静かでなんの音も動きも感じられなかった。(僕、何も感じられないんだけど・・・)(シッカリシテヨ!ワタルノカラダハマダソコニアル!ソレヲカンジルノ!)マズアタマ!と言われて渡は必死に自分の意識があるであろう当たりに感覚を集中させた。(・・・あった!頭、あったよ!)ツギハクビ!とユリが命じる。そうやって次々と渡は自分の体を取り戻していった。その途端、あたりの空気が音が口汚い叫びや悲鳴が戻ってきた。同時に振り回されるような、車酔いのような感じが目まぐるしく襲って来た。
(うわ~っ、何?これっ?)(トンデルノ!ワタルガトバシテルノ!)
(う~っ、わかんないよ!どうしたらいいの?どうしたら、止まるの?)(オモッテ!シタダヨ!シタニオリヨウトオモッテ!)そう言われてくらくらしながらも、渡は吐き気をこらえ苦労して意識を下へ下へと向けていった。ユリの顔と姿を必死に思い返して。すると、突然頭の中に黒々とした山々と街の光が見えた。
(飛んでる!僕、飛んでるね!)(オリテキテ!)(どこに?ユリちゃん、君はどこにいるの?)(ワタシハココダヨ!)その時、山の麓に光る点が飛び込んで来た。
(わかった!あそこだね!)そう思った時、船は急角度で大きく動き舵を切っていた。(チガウ!チガウヨ!)(渡ダメにょ!早すぎるにょ!)
その叫びは間に合わない。



「うわっ!また、墜落するぞぉ!」ガンタはユリを抱え、慌てて走り出す。トラが驚くべき早さで、その背に飛び乗った。
3人一体となった姿はあっという間に薮に消える。
「渡~っ!」香奈恵が泣きながら、ヘナヘナとへたり込んだ。
「渡?」「渡がどうかしたの?」まだ、目を輝かせたあっちょとシンタニには何もわかっていないままだ。「UFOまた、どっかに落ちるのか?」「あの時、見に行かなきゃ良かった。捕まっちまったし、見れなかったし。」「今度こそ、見に行こうぜ!」
はしゃぐ2人から手を離し、権現山の仙人は3人が消えた当たりを厳しい目でじっと見つめた。それから、おもむろに当たりを見回すと、神興一郎がいないことに気がついた。
そして、思ったよりも近くに落ちた振動に足下を奪われ全員が地面に倒れた。

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